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VSナッシュ

「シェアアッ!!」


 ダンジョンコアをふたつも取り込み、もはや人でも魔物でもなくなったナッシュが突撃してくる。

 俺との間にはルカとブリュンヒルデがいた。

 ふたりとも、すでに臨戦態勢だ。


「邪魔だ失せろぉぉおっっ!」


 ナッシュが剣と化した腕を振るう。


「うわっ!?」

「ひえぇっ!?」


 ルカの振るったハンマーも、ブリュンヒルデが振り下ろした双剣も、どちらも腕力で弾かれふたりは吹っ飛ばされた。


「ちょっと、強すぎでしょ!?」

「リクド、気をつけて〜!」


 ルカの忠告に頷く間もなく、眼前にナッシュが迫る。


「リクドォォォォォッ!!」


 横薙ぎに振るわれた剣を避ける。

 髪の毛が一房斬られ、背後、離れた場所にあった巨木に真空波が飛んでいって巨大な傷をつけた。


「殺ス殺ス殺スゥゥゥッ!!」


 ナッシュはよだれを垂らしながら叫び、やたらめったらに腕を振り回す。

 巨岩が割れ、平原の土がめくれ、木々が切断される。

 その威力は凄まじく、掠っただけでも致命傷になるだろう。


 だが──それだけだ。


 それは暴走だった。


 S級の実力を勘違いしていた当時の俺は、ナッシュを叩きのめした。

 しかし、それは相手が俺だっただけで、ナッシュの実力自体はちゃんとS級相当だったのだ。


 どれだけスマートに見せようと隠しきれない日々の過酷な鍛錬の証。


 その洗練された剣筋は、血が滲む努力によって培われた確かなものだった。


 今のナッシュは、確かに強い。


 だがそれは、力が強いだけだ。

 そうなってしまえば、戦いはどちらの力が強いかだけの勝負になる。


 同じレベルであれば、技術のある方が勝つ。

 戦闘の素人であった俺は、きっとナッシュに負ける。


 そして、そうはならなかった。

 ナッシュはさらなる鍛錬によって技術で俺を斬り殺す道ではなく、力任せの道を選んだ。


「……」


 力を抜き、直立する。

 ナッシュだけではなく、ルカ、ブリュンヒルデ、クラッドの三人にも戸惑いが浮かぶ。


 俺は傲慢だ。

 だから思う。


 今の力を得て、さらにあの頃のような洗練された剣筋のナッシュと戦いたかった、と。


「グォアアアアアア!!」


 ナッシュが、ナッシュだったものが斬りかかってくる。


「俺みたいなヤツと全力で向き合ってくれて感謝する」


 俺は言って、構える。

 右拳を握り、左手を前に。ナッシュを待つ。


 ふぅ、と息を吐く。


 侮らず、試さず、己の全力を持って殺しに来る。

 そんな相手に礼を尽くす方法は、ただひとつ。


 ナッシュの剣が迫る。

 左手を引き、右拳を突き出す。


 先に出された剣が、拳と触れてバキリと折れる。

 そしてもう一方の剣も、バキンッ、と折れて刃先が飛んでいく。


 拳はそのまま真っすぐ突き進む。

 拳ダコが触れるのは、ナッシュの胸の中心。


「ああ……こんなダサいことして、まだ敵わねぇのか。ちくしょう……くそったれ……」


 言葉に出していたのか、それともナッシュの心中が聞こえたのか。

 それは定かではない。しかし、確かに聞いた。


「終わりだ」


 ドッ、と拳が胸を打つ。

 刹那、ナッシュの胸に大きな穴が空いた。


 砲丸で穿たれたような、大きな穴だ。


「アノ世、で……まツ……クソやロ……う……」


 ナッシュは言いながら、笑ったように見えた。


 そして、人でも魔物でもなくなったナッシュは、粒子となった。

 サラサラと、風に乗って消失する。


 ごと、ごとり。

 残されたのはナッシュが取り込んだふたつのダンジョンコアだけ。


 俺は目を閉じ、この異世界で意味があるのかはわからないが、黙祷を捧げた。


 全力に対する礼は、全力のみ。


 俺は、俺の全力を引き出したナッシュを、心から尊敬する。


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