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極拳のギールVS細切れのナッシュ

「はぁっ!」

「ふっ!」


 ギールとナッシュのふたりは同時に飛び出した。

 片や人外でなければ到達できないとされるSSS級冒険者。

 片や自ら望んで人外の魔物となった元S級冒険者。

 

 その動きは、凡人の目では捉えきれない速度だった。


「チィッ──!?」


 ナッシュの剣がギールの頬をかすめた。

 しかし険しい顔をしているのはナッシュで、不敵な笑みを浮かべているのはギールだった。


「くぁっ!!」

「ぐっ!?」


 気合の声とともに、魔物のゴーレムよりも遥かに速く重い拳が左側から迫る。

 右フックだった。


 ドンッ──!!


「ほぉ、防御が間に合うんだな。なかなかやる」


 接近したはずのふたりが、今度は距離を取っている。

 ナッシュがとっさに後ろへ飛んだのだ。


 防御のためにあげた左腕がだらりと垂れている。

 服で見えないが、殴られた二の腕は真っ赤に腫れ上がっていた。

 これからすぐにどす黒くなる。


「……お前も、化け物か」

「そう。てめぇと違ってそんなもんに“成らなくても”、強いがな」

「ひぃぃぃぃっ!!」


 ナッシュが歯の隙間から悲鳴のような音を漏らして再び接近する。

 使えるのは右手一本のみ。

 圧倒的に不利になったように見えた。

 しかし──。


(さっきより速いっ!?)


 切っ先が眼前を掠める。

 両腕で操っていたときよりも、防御を捨てた分、動きが素早くなっていた。


「死、ねぇっ……!!」


 ナッシュのデタラメに振っているような剣がギールの薄皮を削る。

 血が滲み、一瞬でも油断すればあっという間にバラバラにされそうな剣技だった。


 だが、それでもまだギールの相手ではなかった。


「剣なんぞ捨てちまえよ。どうせ人間を辞めたならステゴロでやろうぜ」

「うぉああああっ!」


 ギールは提案したが、ナッシュが聞くはずもなかった。

 そしてナッシュの渾身の一撃が振り下ろされようとする。


 その瞬間だった。


「だからてめぇはダメなんだ」


 ギールが握った右拳を突き出していた。


「かっ……?! げ……!?」


 ナッシュが剣を振り下ろすよりも前に、ギールの拳が胸にめり込んでいた。


「穴が開かなかっただけ、マシなほうだ。あの世で自慢しな。ギール相手に五体満足だったと」

「ぐっ……ぐぶ……ぐ……」


 ナッシュが膝からくずおれる。

 口から血を吐いて、だらりと上半身を垂らした正座の格好で動かなくなった。

 死んでいる。

 ギールはそう判断して、ナッシュの首根っこを掴まえた。


「死んだところ悪いが、もう少し付き合ってもらうぜ。てめぇが悪いんだぞ。コアなんて飲み込むから……取り出すこっちの身にもなれってんだ」


 言いながら、ギールは剣を握ったままのナッシュを引きずって走り出す。


 目当ての男はすぐそこにいる。

 それがわかる。


 ああ、早く戦いたい。

 前菜なんかいらないんだ。


(俺はいつだって、メインディッシュのみが食べたい)


 ギールの顔には満面の笑みが浮かんでいた。

 がっかりさせないでくれよ、ステゴロのリクド・アルスベール。


 そうして悪鬼を倒した人外が、リクドを目指して駆け出していく。


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