禍々しい気配
「とんでもなく強いルーキーがいるって聞いてたけどさー」
ブリュンヒルデが言いつつ、返した双剣を鞘に戻す。
「こんなに歯が立たないと思わされたの久しぶりかも」
「私は初めて。私のハンマー、あの距離、あの速度で返されるとは思わないじゃん。それも素手で」
ルカが半ば呆れたように言って、新たな棒付きキャンディーを出し、口に咥える。
「あんた、強いね。ルーキー」
「どうも」
「名前はなんて言うの〜?」
「リクド。リクド・アルスベール」
「リクド、ね。オッケー。覚えた覚えた〜」
ルカは頷き、続けて俺の後ろで成り行きを見守っていたクラッドを指さす。
「あんたは?」
「へ? 俺?」
「そう。なんて名前?」
「えっと……クラッドです。ただのクラッド」
「ふ〜ん……」
ルカは品定めするようにクラッドを見て、それからまた俺に視線を戻した。
「相方?」
「一応、今は」
「そ。でさ〜、私たちがあげたコアで何個目?」
あっさりと話を変えるルカに戸惑いつつ、俺はコアを取り出す。
「まだ二個目だ。あと二個、北と東を取りに行かなくちゃならない」
「ふーん。北はわかんないけど、東はそろそろ来るかもよ」
ブリュンヒルデが言った。
「なにか、そう思う根拠があるのか」と、クラッド。
「うん。私とルカちが西を攻略してるとき、東のほうですっごい嫌な気配があったんだよね」
「嫌な気配?」
「そう。人族が魔物とか、ないかもだけど魔人になったときみたいな嫌ーな気配」
「そんなのがわかるのか?」
俺が聞くと、ブリュンヒルデはルカと顔を見合わせて、それからふふんと胸を張った。
「SSS級になるようなヤツはわかるのさ。ルーキー、リクド」
「すごいなぁ。俺もできるようにならないと」
素直に尊敬する。
すると横からルカが、
「嘘だよ。たまたま私らは感知が強いだけ。出来ないヤツもいるし、出来るヤツもいる。でも、あんたほど強ければなくても良さそうだけど」
「ネタバラシ早いよルカちー。ま、いいけど。リクドさー、目ぇ閉じてみ? それで、まず私たちがいる場所の気配を感じる。それをどんどん遠くに伸ばしていくイメージ」
「目を、閉じて……」
俺はブリュンヒルデの言葉に素直に従い、目を閉じてみる。
それから近くにいる三人の気配を感じ、その感じ方をどんどん外に伸ばしていく。
なるほど、生き物の気配を感じる。
平原から森、木々に住む魔物ではない獣。
魔物もわかる。大体がこちらに怯えて近寄ろうともしていない。
そして、しばらくそれを続けていると、何かが引っかかった。
邪悪。そう呼ぶに相応しい気配だった。
魔王とは違う。何か、それとは違う禍々しい気配が──ふたつ。
「なにか、来る」
「え!? なにかってまだ何も……あ」
「コツを掴んですぐに私たちより先の気配感じ取るのはどうかと思うよ、リクド〜」
「す、すまん」
言いつつ、俺以外にもルカとブリュンヒルデが臨戦態勢に入る。
「俺は邪魔にならんように下がっとくぜ」
クラッドが言うと、ルカが振り返る。
「戦わないの?」
「……邪魔になるからな」
「ふーん……ま、いいけど」
ルカは含みのあることを言って、再び前を向く。
「はてさて、鬼が出るか蛇が出るか」
「魔王が出たりしてー」
「それはない。魔王なら、きっともっとヤバい気配でしょ〜」
「確かにー」
ふたりが緩くおしゃべりをしていたときだった。
不意に、気配がひとつ消えた。
「あれ? なんか消えた?」
「……ひとつになったね〜?」
「どっちか殺されたかな?」
ブリュンヒルデがそう言ったときだった。
驚くべき速さで、残った気配が近づいてくる。
そいつは──。




