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1章 第8話 上級冒険者は調査する

 アルノーのダンジョン、上層。

 上級冒険者にとっては似つかわしくない場所にルナ・リングハートはいた。


 だが、これから中層へと降りる前にルナとしてはどうしても確かめておきたいことがあった。


 その相手として目星をつけたのが、上層に出現するモンスター、小緑鬼(ゴベリヌ・ミル)である。


 単独で行動している個体を『探魔の銀盤』で探し出し、接近する。

 特に気配を殺すことなく近づくルナに気付いた小緑鬼(ゴベリヌ・ミル)が威嚇の唸り声を上げた。

 

 小緑鬼(ゴベリヌ・ミル)はその名前の通り、緑の肌をし、額から角を生やした小柄な鬼である。


 前傾したその体躯はルナの腰のあたりまでしか無い。手足も細く、持っている武器は木の枝だった。

 ほぼすべてのダンジョンに出現する、もっとも下等なモンスターの一種であり、群でなければ子どもでも狩ることができる相手だ。

 足もさほど速くはなく、普段のルナならば遭遇しても無視して振り切ってしまうのが常だった。


 枝を振り上げ、襲いかかってくる小緑鬼(ゴベリヌ・ミル)


 それを見据え、まるで初めてダンジョンに潜った新米冒険者のような緊張をみなぎらせて、ルナは剣を振り抜きざまに発動句(アクトゥ・ヴェリス)を口にした。

 

風裂刃(ラミ・ヴェント)!」


 剣技は問題なく発動した。剣から放たれた光刃が小緑鬼(ゴベリヌ・ミル)を両断する。


 即座にその死骸は灰化し、崩れ落ちる。灰の中にはごくごく小さな魔石が残されていた。


「ステータス・オープン」


 ルナは自身の能力値を確認する。

 履歴には「経験値・微小を獲得」と記され、風裂刃を使った分だけ魔力が消費されているのが見て取れた。


 剣技の発動、撃破した魔物からの獲得物、経験値、魔力消費。

 すべてが問題なく道理にそっている。


 ただそれだけのことに、ルナはひどく安心した。

 

 下層で感じた、あの異常。

 これまで積み重ねた経験が通用しない無力感を拭い去るための試し切りであった。


(さて。調査とやらにとりかかりましょうかね)


 試し切りを済ませたルナは剣を収めると発動句(アクトゥ・ヴェリス)を唱える。


身体能力強化(コルプ・アウグス)


 途端、身体に力がみなぎる。頭の中で道順を思い浮かべながら、ルナは駆け出した。


 身体能力向上のスキル効果と素のステータスが合わさり、まさしく二つ名の『『疾風の乙女』にふさわしく、風のようにルナは進む。


 とまれルナ自身の感覚としては小走り程度で、全力疾走にはほど遠い。


 なので、上層の光景を見渡す余裕もあった。


 どのダンジョンにも共通したことだが、第一階層の主要通路近辺ではモンスターは出現しない。

 魔物を倒してのドロップアイテムが得られないので誰もが通り過ぎてしまうだけと思いそうになるが、そうでもない。

 実際、ルナが小走り感覚で人にぶつからないように注意して走らないとならない程度には賑わっている。

 

 それが何故かといえば、ダンジョンの機能に理由があった。

 ダンジョンは、時間経過で放置された物品を分解する作用がある。それがなければ魔物を倒したあとの灰だらけで、どのダンジョンもひどく息苦しい場所になってしまうだろう。

 

 そして、そのダンジョンの分解機能は都市にとって極めて重要なものだった。


 つまり、ゴミ捨て場としての役割である。


 残飯や壊れた日用品、果ては排泄物まで様々なゴミがダンジョン第一階層には持ち込まれる。無論、野放図に捨てられると誰もが迷惑するため、冒険者ギルドが捨て場所となる広間を定めている。


 更に、第一階層の奥、あるいはひとつ下って第二階層以降になると、モンスターたちから様々なドロップアイテムを得ることが出来る。


 多様な魔具を動かすための魔石をはじめとして、杯や器といった日用品、薄い紙の束、調理用具や真っ直ぐな木の板まで。


 生活を構成するほぼほぼすべてのものが、ダンジョンからは産出する。 

 この社会は、もはやダンジョン無しでは成り立たない。


(『ダンジョン依存社会』か……)


 普段は意識することのない、現代社会を揶揄した言葉を思い起こしつつ、ルナは下の層に向かう階段を降りた。


◆ ◆ ◆


「ルナさん!」


 時折襲いかかってくるモンスターをときには振り切り、ときには蹴散らしながら、ルナは中層へと到達した。


 そうして入った最初の広間で、声をかけられる。


 相手は護衛任務に参加した中級冒険者の一人、『輝ける道』のルークであった。


「こんにちは。こないだは世話になったわね」

「いえ! 自分こそいい経験をさせてもらいました。追加報酬もみんな喜んでいましたよ。ルナさんのほうは、お目当てのドロップアイテムは手に入りましたか?」

「ええ。おかげさまでね」


 世話になった相手に嘘を吐くことに若干の罪悪感を覚えながらルナは答えた。

 実際は、ムクロと出会ってからすぐに戻ることになったので目当ての指輪は手に入れていない。


 だがルナは具体的にどのドロップアイテムを求めていたのかを伝えていなかったのでそれが露見することはない。

 とりあえずギルド側に対しては黒鎧蟻(ニグル・ミルタ)からのドロップアイテムをこそ求めていたという風に説明してある。


「目当ての品が手に入ったとなると、今日はまたどうしてダンジョンへ?」

「また深く潜ることもあるかもだから、道順の確認と一人で潜ったときの消費魔力の検証にね」


 今回の行動における表向きの理由をルナは語る。

 ルークはそれを聞き感心したように頷く。


「流石に勤勉ですね」

「そっちこそ護衛任務が終わってすぐに潜ってるじゃない」


 ルナの護衛任務に参加した中級冒険者三組は、今日その全員がダンジョンに潜っていた。大口の収入が入ってすぐに、である。


 それを怪しいと言うべきか微妙な線であったが、横流し品を得るための行動と疑うこともできる。


「休みを入れても良かったんですが、中層で獲得できる魔石を商店に大量納入する契約をしていまして。こうしてコツコツ集めているわけです」

「ああ、長期契約型のクエストね」


 実力のある冒険者たちは、突発的なクエストや場当たり的なドロップアイテム獲得のみならず、ギルドを介して商店との長期的な納入契約をしていることが多い。

 冒険者は収入が、商店は在庫が安定する双方にとって利のある契約だ。


 クエスト受注やドロップアイテム取引の際の手数料が大きな財源となっている冒険者ギルドにとっても、そういった長期・大口の契約は歓迎され、大手の商店には専任の担当ギルド職員が付く場合もある。


 あちらこちらのダンジョンを飛び回って自身を強化するためのドロップアイテムを集めるルナはそういった契約が結びづらくほぼほぼ縁のないもので「なるほどそういうものもあったな」と感心する。


「あとは、そうですね。ルナさんの最上級剣技を見て僕らもレベルを上げたいと奮起した部分もあります」

「それは、光栄ね」


 照れくさそうに言うルークは、ルナの見るところ善良で熱心な冒険者そのものだった。語っていた商店への納入についても本当のことだろう。


 見れば、彼のパーティーメンバー達が魔石を持ち帰って来るところだった。


 ルナは再び罪悪感を抱く。そしてこのパーティは問題ないだろうと判断して、ルークとの挨拶を済ませ次の目的地へと向かうことにした。



◆ ◆ ◆


 二つ目に接触したパーティは『赤い円陣』で、ルーク達と同様に怪しいところはなかった。

 経験値稼ぎを主目的としつつ、高価なドロップアイテムが出たら回収するという形の、一般的なダンジョン攻略を行っていた。


(ムクロのやつ、間違った情報を伝えてきたんじゃないでしょうね?)


 むしろ、ギルド監査局員を名乗るムクロ・スパルダへの疑念が強くなる。


 彼の不真面目さと胡散臭さを思い返しているうちに、ルナは中層域第五階層へとたどり着いた。


 ここに最後の調査対象となるパーティ『黒い蹄鉄』がいるはずだった。


 『探魔の銀盤』を見れば、さほど離れていない距離に一体のモンスターと、それを取り囲む四人の冒険者の反応がある。

 

 走ってすぐに、冒険者達が戦っているモンスターの姿を捉える。


針巨亀(テスノ・スピノ)か!)


 甲羅に針を生やした、巨大な亀のモンスター。


 大きさだけであれば先日倒した中層の階層主を上回る巨躯だった。

 ただ耐久力は高いものの、動きは亀らしく鈍重で、背中の針にさえ注意すれば倒すのはさほど難しくない。


 現に、ルナがモンスターを視認して、冒険者たちのもとにたどり着く前に、トドメの一撃によって戦闘は終わっていた。


「おや。リングハート氏じゃあありませんか。先日はどうも」

「ええ。世話になったわね。単独攻略での消費魔力の確認をしててね。顔を見かけたから挨拶をと思って」

「それはそれは。わざわざ有り難いことで。ああ! 追加報酬の方! 助かりましたぜ。うちのパーティは金遣いの荒いやつが多いもんで」


 手早く自分の立場を説明するルナに、『黒い蹄鉄』パーティ・リーダーのガルムが応じる。


 それだけで怪しむのはどうかとも思ったが、三組のパーティの中で最も粗野な印象なのが彼であった。


「おっと。当たりだな」


 そんな男が、針巨亀(テスノ・スピノ)から出たドロップアイテムを見てつぶやく。ルナもそれへと目をやった。


 巨体をもつモンスターのドロップアイテムだけあって、一抱えほどもありそうな黒い箱状の物体であった。


「大きいわね。見たことのないドロップアイテムだけど、あれは?」

「ちょっとしたレア・ドロップでさ。魔導列車には乗ったことあるでしょう? アレの動力源になるやつで」

「ああ! 部品型ドロップアイテムってやつね」


 世の中にはダンジョン産の巨大構造物が溢れている。

 魔導列車はその代表とも言えるものだった。

 その普及により流通は大きく改革され、多くのものがその恩恵を受けていた。

 ルナもその1人だ。王都からここアルノーへ来るのに魔導列車を利用している。

 

 そんな魔導列車は、こうしてダンジョンから得られた部品型ドロップアイテムを地上で組み上げることで作られている。話には聞いたことがあったが、ルナが見るのは初めてだった。

 

「なんでも、帝国のほうで列車網を広げているらしくて。あっちの商会がアルノーまで買いつけに来て、良い値になるんですわ」


 最初から魔導列車の部品狙いの狩りだったのか、『黒い蹄鉄』のメンバーの一人があらかじめ準備していた台車へとドロップアイテムを乗せている。


 台車は大きなもので、ひと抱える部品を乗せてもまだまだ余裕がありそうだった。


 それがあと三台。パーティの四人が一台ずつ運ぶつもりなのだろう。


 台車いっぱいに乗ればかなりの重さになるはずだが、中級冒険者ともなれば動かすには支障は無い。

 

 それを見て、ルナの中にひとつの推測が生まれた。


(怪しい奴はいなかった、という報告にはならずに済むかしら)




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