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1章 第13話 ギルド戦力と上級冒険者

 捕物を終え、監査騎士団との間の諸々の手続きを済ませたムクロとルナは、連れ立ってアルノー市街地の郊外へと向かった。


 道中、二人の間に会話はなかった。

 そしてたどり着いたのは、ムクロが居を構える冒険者ギルドの宿舎。

 

 周辺の土地もまたギルドによって買い上げられ周囲一帯はほぼ無人である。

 旧市街ならともかく、賑わう市街地の近くにこのような無人地帯が作られていることにルナは不審を覚えた。

 

 窓帳が降ろされた薄暗い室内。ムクロがすぐに灯りをつけるがその光量はひどく乏しかった。ギルドの宿舎にも関わらず魔石をケチっているのだろうかとルナは訝しむ。


 まるでそう、ダンジョン下層を思い起こさせる薄暗さだ。


「さて。ようこそ我が寝床へ。なんなら愛でも語ろうか?」

「結構よ。あなたの言葉は嘘ばかりだから」


 ムクロの冗談口をルナは切って捨てる。

 対して、ムクロは苦笑した。


「どんな嘘をついたかな?まあ、最初のうちは監査局の人間だってことを黙ってはいたがね」

「今回の摘発。ずいぶんと手回しが良かったわね」


 問いには答えず、ルナはムクロを睨みつけて言う。

 答えを待たずにルナは続けた。


「横流しに関わっていたギルド職員に冒険者の特定。監査騎士団への通報に、捕縛クエスト依頼。——昨日の今日でできるとはとても思えない」

「なにが言いたい」

「あなたは、私に調査を依頼した段階でこの横流し事件の犯人が分かっていたんじゃないの?」


 そう。それは今朝、摘発前に話を聞いたときから抱いていた考えだった。


 ルナが冒険者達の様子を調べて伝える。その翌日には、もうだれが犯人なのか確定しており、摘発の手筈が整っている。それだけでも充分に怪しい。


 そして何より不自然なのは。


「この捕縛クエストの受注日。これはあなたがわたしに冒険者達の調査を頼んだ日付になっているわ。『輝ける道』を捕縛せよという依頼が。あの日の時点で出ていた」

「なるほど。大した名探偵ぶりだ。日付を書き間違えたって言い訳は通るか? 他にも、三つのパーティ全てに対する依頼書を作っておいて、『輝ける道』に対するものだけど発行したとか」


 決定打に近いものを突きつけても、ムクロはのらりくらりと言い抜けて見せる。

 だが、ルナにしてみればムクロの言い分が正しいのかどうかはあまり関係なかった。


「どちらにせよ。あなたが信頼できない人物であるという証左の一つ目よ」

「その様子だと二つ目もありそうだな。聞こう」


 ルナの詰問をムクロはむしろ楽しげに受けていた。

 その薄ら笑いを剥がしてやりたいと、ルナは語気を強める。


「あなたがこのギルドに出向してからの間。何人かの冒険者に接触したそうね。そこであなたが調べていたのは横流し事件についてじゃない。下層で死んだ冒険者、イガーニアについてだった」


 それは、ムクロから横流しの件を調べるように依頼されたのと同時にルナが行ったことだった。ギルドにいる冒険者たちの間を回り、ムクロが何について興味を持っていたのか聞き込みをした。


「よく調べたな。それこそ一日しかなかったのに」

「あなたに言われた件を調べるついでにね。あなたは、胡散臭すぎる」


 監査局の人間であるから、だけでは片付けきれない得体のしれなさがムクロ・スパルダという男にはあった。


「そして。死ぬ間際にルークはあなたのことを『ギルド戦力』だと言ったわ。あなたの周りでは必ず死者が出る。ギルド憲章違反の非合法戦力だと」


 『ギルド戦力』という言葉が出たとき、ムクロは軽く眉をひそめたが、それは一瞬で消え去り、残ったのは冷笑だった。


「犯罪者の言うことを真に受けてつっかかってきてるのか?あんた騙されやすいぜ。詐欺には気をつけな」

「何よりも怪しいのは!」

 

 ルナの追求を楽しむようにして動じることの無いムクロに対して。ルナは叩きつけるように最大の疑惑を口にした。


「あなたがレベル0のステータス無しってことよ!」

「ギルド職員だぜ?そんなやつはごまんといる」


鑑定(クラ・ヴィジオ )


 ムクロの言葉を無視してルナは『鑑定』の魔法を発動する。

 結果は、《《反応なし》》。ムクロからも、ムクロの装備する剣からも。


「どうだい? オレの潔白は証明されただろ?」

「これがおかしいのよ!」


 そう。ルナ・リングハートにとり、ムクロ・スパルダが信用ならないと感じる最大の理由がそれだった。


「あの下層で、あなたはモンスターを倒した。それなら確実にステータスを得ているはずよ! 今もレベル0なのはおかしい!」

「モンスターを倒してステータスが無いのが、そんなにおかしいかい?」

「おかしいに決まってるでしょ! モンスターを倒せばステータスを得るのは《《世の摂理》》! つまりあなたは何らかの方法でステータスを隠蔽しているのよ!」


 ムクロはルナの突きつけた言葉に一瞬ぽかんとした後、いかにもおかしそうに笑った。


「なるほど。そういう発想になるか。で? 信用できないオレにどうしてほしいんだ?」

「監査騎士団でも衛兵団でも良い。自首して」


 仲間とは言えないまでも、一緒に冒険をした相手を死に追いやる真似に加担させられた。


 ルーク達はは不正をしていた。衛兵や監査騎士団も殺した。同情の余地は無い。


 だが一方で、なんらかの不正をしているムクロ・スパルダがなんらのお咎めなしというのは、ルナの中で道理が通らなかった。


「監査騎士も衛兵もうようよいたんだ。さっきオレを告発して突き出せばよかったろうに」

「人を断罪するのなんて、一日に一度やれば十分よ」


 これまで愚直に、強くなるために戦い、モンスターだけを相手にしてきたルナにとり。今日のクエストは酷く、消耗するものだった。


 それが正義と公正に基づくものだからこそ受け入れられる。

 ならば、正義と公正にもとるムクロを見逃しては、言い訳が立たない。


 つまるところルナが求めているのは一貫性だった。自分で自分を赦すための一貫した道徳的立場。


「それとも、それとも全部私の勘違いで、納得のいく正当な理由があったと説明できるの?」


 それならそれで良い。むしろ、そうであった方が良い。ルーク達が仮にも、一緒に冒険をした相手であったように、ムクロもまた、一緒に杯を交わした相手なのだから。


 だがムクロは、観念したかのように、認めた。


「見当はずれの部分もあるが。まあ概ねあんたの言う通りだ。横流しの件はとっくに調査は済んでて、それでもあんたに依頼した。ルナ・リングハートがどんな人間なのか、それを通して知りたくてな」


 そして、とムクロは続ける。


「お察しの通り。俺はギルド戦力だ。もう何人も殺してる。――|我らが世界を支配せんために《ウト・レガルス・オルベム・ノルストム》」


 標語めいた言葉を口にし、ムクロが腰の剣に手をかけた。

 それに対し、ルナは抜剣した。緑柱剣サーガルドを構える。


「自首を。少し魔力は消費したけど、今日の私は万全よ」


 あの、ダンジョン下層を思わせる薄暗い室内。

 しかし、今はあの時のような無力感は無い。


 地上であるため多少、力は落ちているが魔法もスキルも即座に発動できる。つい先ほど実戦証明も済んでいる。


「残念だぜ、ルナ・リングハート。あんたはいい奴だ。冒険者という同胞を想い、不正を許せず、敵対した相手にも情を抱ける、そんな人間だ」


 臨戦態勢に入ったルナを見ても、ムクロは余裕を崩さなかった。

 むしろ、憐れむような視線すら向けてくる。


「だから、罪悪感を覚えるよ。ルナ・リングハートという冒険者を葬らないとならないことに」


 ムクロが剣を抜く。無骨な片刃剣の刀身が鈍く光る。


 ルナは魔法の発動を決意する。風の鎖で相手を拘束するそれの六重発動。

 ルナの身体が光を放つ。魔法・スキル行使の前駆光。

 

風の鎖(ヴェンテ・カセル)六じゅ(シェク、)、」


 対して、ムクロは左手を差し出し、一言呟いた。


「消去」


 瞬間。ルナを包んでいた光が消えた。

 同時に、ズシリと。今までほとんど意識することのなかった装備品の重さが身体に伸し掛かる。

 両手で握っていた緑柱剣サーガルドの重さに、思わず取り落としそうになる。


「なにを……なにをしたの!?」

「コレをするのに、別に身振りも発音も必要はないんだが……分かりやすいだろ? 何かをされたと」


 ムクロが一歩踏み込み、片刃剣を一閃させる。ルナが反応すら出来ない瞬息の一撃。


 その一撃で、緑柱剣ザーガルドの刀身は断ち割られた。まるでおもちゃの剣のように、あっさりと。


 ルナの誇りであった宝剣は、破壊された魔具の例に漏れず崩壊し、灰となって消える。




「まあ、そんなわけで。無力さを噛みしめてくれ」


 次の瞬間。

 鳩尾に強い衝撃を感じ。

 ルナ・リングハートの意識は暗転した。


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