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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
公女さまは傍観したい

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2.


 私はエリザベスのことをもっと知りたくて、お茶会の前にルイスに調べてもらった。

 すると、大層評判のスマホを製作販売し、そして電子書籍の販売者でもあるということが分かった。

 学園内でも電子書籍は評判で、特に『女騎士マリーの事件簿』の話を学友たちとするといつも物凄い議論になってしまう。


 要は、グイン派とレオン派の争いね。

 私は完全にレオン派よ!

 レオンとマリーは騎士学園の同級生で、レオンは子供の頃からずーっとマリーを好きだったの。初恋がマリーのまま一途なのよ。それを、ぽっと出のおじさんに取られてしまうなんて。レオンの方が先に好きだったのに!


 そして、エリザベスが電子書籍を販売しているということは、この結末を変えた物語をも作って売ることが出来るのではないかと、私は気付いてしまったの。

 それで、レオン派の学友たちを集めたお茶会を開き、そこにエリザベスを招待した。


 私の目論見通り、エリザベスはその場でレオンが選ばれる物語を見せることを約束してくれた。私と学友たちは浮かれ騒ぎ、とても興奮した。

 お茶会の後、ルイスには物凄く文句を言われた。


「セリーヌさま、どうして狩猟祭に行くなどと約束したのです」

「行く約束はしていないわ。行く許可を取るって言っただけよ」

「そんな言い分が通るわけがありません。あの王妃さまは、セリーヌさまを王太子妃にしたいと考えているんですよ。あの娘はその手先です! それなのに、狙いのままに餌に食いついてどうするんですか!」


 それでもレオンが選ばれるのは見たいじゃないの。

 そう言ったら更にお説教が長くなるので、私は別の事を口にした。


「王太子妃になるつもりはないわ。大体、ランベール王子はあの娘にご執心じゃないの」

「流石にそこは分かっていらっしゃったんですね」

「それは分かるでしょう。王妃殿下は、息子の想い人に私との婚約の後押しをさせているのだから、恐ろしい方よね」

「だったらどうしてその後押しに乗るようなことをされるんです」


 私はフフッと笑って口を開いた。


「彼女も狩猟祭に行かせて、逆に二人の既成事実を作り上げてしまえばいいわ。ルイス、エリザベスの恋人のアラン魔術伯は我が公国で暮らしていたらしいわよ。そしてホルト侯爵令嬢の後見人となって、今はここに居ると。侯爵令嬢とコンタクトを取って、彼女も狩猟祭に呼んでちょうだい」

「かしこまりました」


 恭しく頭を下げるルイスは、流石でございますと私のことを内心褒めているようだった。

 私はルイスにニコッとほほ笑みかける。

 しかし、ルイスと私の蜜月はそこまでだった。

 これ以降、私とルイスの仲は急速に悪化することになる。


 最初の揺さぶりは、『女騎士マリーの事件簿』の舞台化発表だった。

 エリザベスが予告した通り、原作通りの結末と、それとは違うレオンが選ばれるハッピーエンドの物語もあるのだ。


 私はすぐに彼女と話がしたくなって、またお茶会に呼びつけた。

 だが、都合が悪いと断られてしまった。

 日を変え名目を変え、何度読んでも断られる。

 私はルイスをしっ責した。


「ちょっとルイス、どうなっているの。きちんとお招きしているの」

「していますが、足元を見られている状態です。たかだが公爵家の娘が、セリーヌさまに無礼な」

「貴方の態度に問題はないのね?」

「……おそらく、実業家の業務が忙しいのでしょう。落ち着いたら向こうから面会の要望がある筈です」


 ちょっと間が気になったけど、まあそうかもしれないと私は引き下がった。

 けれど、それ以降もエリザベスは私の元に来なかった。

 やっと連絡が届いたのは、王宮で王妃殿下と会うからついでにという屈辱的な状況だった。


 正直、腹立たしかったけれど、それでも彼女が創る舞台は観たい。

 私はそこに出向き、まんまと舞台観劇と引き換えにランベール王子からの狩猟祭の招待に応じることになった。まあ、それは計画通りだからいいでしょう。

 問題は、ルイスとエリザベスの仲が険悪だったことだ。

 そのルイスが、お茶会後にまたぐちぐちうるさく言ってくる。


「セリーヌさま、いい加減舞台観劇から手を引いて頂きたい。セリーヌさまのその困った趣味のせいで、ランベール王子を押し付けられているのですよ」

「……私のスケジュール、来年まで埋まっているですって? 王宮外には出掛けられないとも言ったようね。その態度、改めなさい。いくら私の側近といえど、貴方はこの王国では何の立場も得ていないのよ」

「あの娘に阿るなど、必要ないことです」

「あるわよ。彼女とランベール王子の既成事実を作る計画はこれからなんだもの。失礼な言動は改めて、もっと仲良くお喋りでもしなさい」

「…………かしこまりました」


 不承不承の返事だけれど、まあ良いでしょう。

 こうして私は、『女騎士マリーの事件簿』の舞台を観劇することが出来た。

 ミュージカルとして、歌って踊ってくれる舞台はとても良かった。素晴らしかったわ。

 何度でも観たいくらいだもの。


 けれど、レオンが選ばれるのはおめでたい筈なのに、私はその時にはグインが気になってしまった。

 マリーに、貴方への気持ちは愛のうちでも敬愛と尊敬だと言われてしまった辛そうな横顔が忘れられなかった。最後のレオンとの決闘の後、黙って去っていく背中の哀愁も、目に焼き付いていた。

 原作ではグインのことなんて、全く気にしていなかったのにどうして。


 そして、原作通りのグインが選ばれる初日も、貴賓室から観劇させてもらった。

 やっぱり、私が好きな『女騎士マリーの事件簿』はこれなんだ、と思った。

 選ばれなかったレオンの悲哀がたまらなくて、私はうっとりとしながらときめいた。

 その後、エリザベスとお茶をする機会があったから、私はそのことを話した。


「私、レオンさまが選ばれる舞台を観た時は、グインが気になったの。けれど、原作通りの展開だと、レオンさまがお気の毒すぎて胸がぎゅーっとなるの」

「ははあ。セリーヌさまは、当て馬がお好きなんですね」

「当て馬、って何かしら?」


 私の質問に、エリザベスはうーんと人差し指を顎に置いて少し考えてから口を開いた。


「ヒロインのことをとても好きだけれど、選ばれずに、ヒロインが他の男性と結ばれるのを見守る役目のキャラクターですよ」

「他の男性と結ばれるのを見守る! まあ、それかもしれないわ」

「萌え、ですね」

「萌えって言うのね……」


 そして、私は唐突に気付いてしまった。

 ランベール王子に対しての私の気持ちも、萌えなんだってことに。

 エリザベスが他の男性と結ばれているのをじっと見守るランベール王子は、傷ついていてその悲哀がたまらない。

 そこは少し可哀想なので、二人の仲を現実のものと出来るように協力してあげましょう。


 私は予定通り狩猟祭に参加し、エリザベスとランベール王子を接触させるよう協力した。

 前夜祭では二人でダンス出来るように足の負傷を装ったし、当日は偽の呼び出しをルイスにさせて、離れ小屋に二人きりになれるようセッティングした。


 なお、エリザベスは恋人の同僚にも憎まれているようで、二人の仲を引き裂きたいというロイという魔術伯が色々協力してくれた。雨を降らせたのも、その魔術伯の力だ。

 濡れた二人が小屋で二人きりになって、暖炉で服を乾かすのよ。

 何も起こらないわけがないでしょう。


 けれど、どれも上手くいかなかった。

 せっかく二人きりになった筈なのに、ランベール王子はやはり当て馬だったようだ。

 私は二人が何を話したか、聞きたくて仕方がない。晩餐会の時、ランベール王子は静かに食事をして、ゲストたちとまんべんなく会話をしているが、決してエリザベスの方は見なかった。微笑を貼り付けた貴公子の振る舞いだけど、ふと陰る表情に彼が落ち込んでいるのが分かる。


 一体、何があったのかしら。

 聞きたいけれど、私たちの周囲には常に人が居るから迂闊な話は出来ない。

 そうこうしているうちに晩餐会は終わって、エリザベスは席を立って退室してしまった。これから夜会もあるというのに。

 彼女の背中を見送ってから、ついランベール王子を見てしまうけれど、彼はやっぱり無言でエリザベスに視線を動かさなかった。


 何があったか、お願いだから教えてほしい。

 私があまりにも、そわそわして聞きたい様子だったからか、ランベール王子は「はぁ」とため息を吐いてから私を誘ってくれた。


「どうにも話を聞きたい様子ですね」

「勿論ですわ。私だって協力したのだから、聞く権利はあるでしょう」

「分かりました。では、バルコニーへ」


 風光明媚なナインヴァンス城のバルコニーからは、湖と遠くの山々が見えるように設計されている。

 月と星が明るく輝く夜空が湖にぼんやりと映っていて、昼間とはまた違った美しさがある。

 バルコニーにはソファセットやカウチなども設置されていて、昼間は景色を見る為に寛ぎ、夜間は酔客が酔い覚ましに使っているのだろう。


 私とランベール王子は正しい距離感を持ってソファに向き合って座った。

 当然、二人きりではない。私たちの背後にはそれぞれ護衛の騎士が立っているし、側付使用人だって控えている。

 ただ、ランベール王子が手を振って合図をすると、彼の騎士たちは声の届かない距離まで下がった。


「あまり言いたくない話だが……」

「分かりました。皆、少し離れなさい」


 私も皆を遠ざけるよう命じると、ルイスを始めとする護衛が恭しく頭を下げて離れた。

 それを見てから、彼は口を開いた。


「あいつは頭がおかしい」

「えっ」


 仮にも好きな人のことだろう。普通、そんな風には言わないと思うわ。

 私が戸惑っていると、彼は続けた。


「本人が認めていた。自分は頭がおかしい悪しき令嬢だと。だから、自分の想いの為にはどんなことでもするらしい。そして、想い人も同じ気持ちだと」

「まあ。情熱的なのですね。そして同じくらいの熱をぶつけなければいけないと。殿下はそのようにはなされないのですか」

「私には無理だな。そのように勝手に振る舞うには、背負うものが大きすぎる」

「しかし、殿下はそのように情熱的な振る舞いをされる彼女がお好きなのでしょう」

「あいつには私の隣に立って国を背負う役割は無理だろう」


 私はフフッと笑ってしまった。眉根を寄せて非難の眼差しを寄せる彼に言い訳をする。


「ハリネズミのジレンマならぬ、王族のジレンマですわね。殿下のお好みは、淑女教育も施されていない天真爛漫なご令嬢。けれどそれでは殿下の妃となるわけにはいかない。お妃教育を受ければ、王族としての振る舞いは出来るようになるけれど、殿下が愛する彼女の情熱も失われてしまう」

「……無理を通せば、強引に召し上げることは出来たかもしれない。けれどやはり、今のあいつを失うことになるのは嫌なんだ」

「では、このまま諦めるのですか」


 その声は、少々尖っていた。

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