11-10
夜の街をユートは走る。
土地勘のない街、そのうえ闇夜。
本来であれば積極的な行動を避ける状況であったが、強行する理由があった。
一つは、勝手に飛び出した少女。
もう一つは、その少女を追いかけていれば、道に迷うことはないと言う事だった。
(くそ、早いうえに向こうは建物の敷居を越えたり、横道に入りながら進んでる。気を抜いたら見失う)
だが、姿が見えたのも中央区を抜けるまで。北区に入ってから、ユートの速度は目に見えて落ちていた。時折聞こえてくるクラマの声を頼りに道を行くが、それも徐々に小さくなってくる。
(方角はあってるよな? 逆方向だったらシャレになれないぞ)
内心焦りつつも、足は止めない。だが、目の前に広がる夜の闇は、不安をかきたてた。
「シーナ、工房の方の通信機から何か情報はある?」
『いえ、悪党も撤収したようです。誰も居ません』
「わかった」
情報が途切れる。焦りを感じたユートは、若干速度を緩めた。
その時だった。
「ま、アタシのやることは変わらない! 悪は苦しめっ! 苦しんで後悔しろっ! たとえ月の光から隠れようと、このテン・グーの瞳からは逃れられやしないよ!」
夜の闇に響く誰かの堂々とした声。その自信満々の顔が思い浮かんで、思わずユートは噴き出してしまう。
「あれ、クラマだよな」
『ええ、間違いないでしょう』
ユートはすぐさま大地を蹴る。目標は、声のなる方。
◆◆◆
市街地を抜けると、目標の廃屋はすぐに見えて来た。
蹴り破られた壁に、武器を構えた悪漢たち。取り囲まれているのは、クラマとムラマサ。
「くそっ」
すぐさまホルスターから銃を引き抜く。走りながら観察をして状況を観察する。
(クラマが構えを解いた……それに、親玉らしいハゲが拘束している女の子は――)
通信機から聞こえて来た言葉を思い返す。
――そう、人質の娘のものだ。悪いが、俺たちも――
(人質!)
ポーチから銃のマガジンを取り出す。識別記号だけを素早く確認すると、迷いなくセットする。
「クラマ、"合わせて!"」
有効射程内に入るとともに声をかける。少女の髪が僅かに揺れることを確認すると、すぐさま発砲。
放たれた銃弾はクラマを追い越し、人質を拘束している悪漢の腕に突き刺さる――と同時に、破裂すると白い粘性の固体が炸裂する。
「トリモチバレット!」
腕を衝撃で吹き飛ばすと同時に、粘着する。
「なっ――腕が!」
「思うように動かないだろ!」
――トリモチバレット――対象を物理的に拘束する際に使用する、弾丸。
白い粘性の固体は、モチのようだと言うことでそう命名されている。
殺傷力は殆どない。だが、遠距離から四肢の拘束などを可能にする――
――そして、突入の援護になる。
「はぁぁぁぁぁあっ!!」
気合と共にクラマが一気に踏み込む。悪漢が声を出す間もなく、拳が腹に突き刺さり、吹き飛ばされる。
「さあ、こっちに来て!」
すぐさま人質の手を取ると、再び距離を取る。
「ほら、手をしっかり握ってな!
そして、ムラマサに引き渡した。
「父ちゃん!」
「お、おおおおおお!!」
感動に声を震わせながら、二人は戦場から距離を取るために走る。
それと交差するように、ユートが前に出る。リキッドメタルブレードを引き抜くと、クラマの隣に立つ。
「まったく、勝手に飛び出すから」
「それを言うならアンタの行動が遅いんじゃない」
憎まれ口に苦笑いで応じると、共通の敵を睨みつける。
「数は30くらい……どこに居たんだか」
嘆息しながらも、焦る様子は一切ない。それはクラマも同じだった。
「余裕そうだな、子供二人で俺たちを制圧できると思っているのか?」
廃屋の中からはまだ人が出てくる。思わず数だけは多いと愚痴を言いたくなるが、ユートは冷たい視線をおくるのみ。
声一つ出さない態度は、逆に悪漢どもを苛立たせた。
「くそ、自信ありってことか。おい、次の人質を引っ張ってこい」
その言葉に、思わずユートは身構えた。クラマもユートの顔を見る。
(まずいな、まだ人質が居るのなら、さっきと同じ方法で解放できるか?)
銃を握る手に汗が浮かぶ。
「おい、早く連れてこい!」
親分であろう禿げ頭が怒鳴る。だが、一向に誰も出てこない。
――そうはいくかな!
ようやく人影が見えた。
だが、それは悪党どもが望んだ姿ではなかった。
「げえ、お前は」
覆面をつけた男が二人、片方は杖を、片方は刀をだらりと下げながら悠々と出てくる。
「覆面の男が二人――変態か!?」
「くそう、おれたちゃ悪党だが、変態じゃねえってのに!!」
悪党たちは突然の乱入者に混乱する。
だが、ユートには二人の姿に見覚えがあった。
「……来ちゃったんだ、ウエ様」
エドンに来た夜、街で二人の戦いの後始末をした男の姿そのものであった。
「勇敢な少年少女よ、人質たちは我々が解放した。もう、遠慮することはないぞ」
堂々と前に進み出る男を囲む悪漢たちの顔が歪む。
「このぉぉぉぉっ!」
たまらず一人が飛び込む。だが、ウエは涼しい顔で受け流すと、峰で打ちのめす。
それが合図であった、囲んでいた男たちが一斉に動き出すと、ユートたちに殺到する。
「ユート、どっちが多く倒せるか勝負だよ」
クラマは拳を鳴らすと、悪い顔で悪い提案をする。
「油断すると負けるよ」
「ハッ、アンタは敵の力量も見抜けないのかい? こいつらなんて、油断し腐るくらいがちょうどいいよっ」
「もっともだ!」
リキッドメタルブレードを構えると、ユートは戦いに飛び込んでいく。
数は圧倒的に不利である。
だが、結果は火を見るよりも明らかであった。




