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幕間 11-0.5


 ――コロニーの地上拠点――

 ――ユート不在の朝――


 コロニーは太陽が地上へ昇ることを観測し、地上では東の果てから太陽が昇ってくることを観測する。

 主であるユートが旅立っても、星は空を巡り、朝は訪れる。そして、人は目覚める。


「ん、んん~あーっ」


 オートマトンが走り回り、風力発電の風車が空気を揺らす中、一人の女性が深呼吸をする。

 洗ったばかりの顔にはまだ水滴が残っていて、瞳はまだ半分夢心地。目覚めたばかりのライカは、数日ぶりの外の空気を思いっきり吸い込んだ。


(うん、体力は多少落ちたけど、体を動かすことに苦はないかな)


 伸びをしながら軽くストレッチ。ボロボロだった身体に温かい血が徐々に巡ってくる。

 呪いによって療養を強いられていたライカも、十分に回復をした。外に出ると言った時、いつもは怪訝そうな顔で止めるルーブも、今日は何も言わなかった。


 そんな心配性のコマンドが、ちょうど彼女に声をかけた。


「ライカ様、ご飯、用意が出来ていますよ」


「うん、ルーブちゃんありがとう。調子を確認したらすぐにいくねっ」


「了解しました。食事は大切。特に、今のアナタには」


 几帳面にくぎを刺すと、ルーブはそそくさと立ち去ってしまう。

 その後ろ姿をライカはにこやかに見送った。


(ダメだなあ、ここに居るとみんながお世話をしてくれるから、甘えちゃう)


 弟子であるある身の上では、師の世話をすることが多かった。それだと言うのに、シーナたちと一緒に居るとついつい甘えてしまう。


(ユートちゃんにもだけど、しっかりとお礼をしないと。ルーブちゃん達は、どんなものが好きなのかな。どんなことを喜ぶのかな)


 考えてみても分からない。まだ自分は恩人たちのことをよく知らないことを、ライカは寂しく思う。


(うん、でも、これから知っていこう)


 両手を胸の前で握って気持ちを持ち直す。焦ることはないと、自分に言い聞かせた。


「さて、それじゃあ」


 ライカはもう一度深く息を吸い込むと、手のひらを広げて前に突き出す。

 

「――ライズ――」


 小さく呟いた呪文に反応するように、彼女の周囲に黄金の粒子が浮かび上がる。

 魔法の発動時よりもゆったりとしたマナの流れ。朝の風に吹かれて、浮かび上がった粒子は空へと溶けていく。


「……うんっ」


 目を開けて確かに頷く。満足気に微笑んでいた。

 ちょうどその時、シーナからの通信が届いた。


『おはようございます、ライカ』


「おはようシーナちゃん」


 もうすっかりと親しい様子で挨拶を返す。


『魔法の訓練ですか?』


「うん、こうやって朝の大気からマナを集めるの。空の呼吸に大地の息吹」


 太陽の光を浴びて、熱を蓄え始めた大地に風が吹く。それは、世界そのものが呼吸しているかのようだった。

 風の吹く先――遥か西の空をライカは見つめる。遠く霞む景色の先に大地に突き刺さる杖があり、その先端が光っているようだった。


「そして、杖の輝き。この世界のマナの流れに逆らわず、一部となること。その訓練はちゃんとしないとすぐに衰えちゃうんだ」


『申し訳ありません。完全には翻訳できませんでした』


「あ、ごめんね。嬉しくて早口になっちゃったかな」


 配慮が足りなかったと、反省する。


「うーん、ユートちゃんが居ればいいんだけど」


『そうでした、ユートですか――』


 シーナが情報を伝えるべきか、一瞬迷う。

 そこに割り込むように、ライカは嬉しそうに語り始める。


「今日帰ってくるんだよね! 早く元気な姿を見せたいなあ」


 笑顔の彼女の前に、シーナの音声は途切れていた。


『あの……』


「ねえ、お家にとっておきの服を取りに行っていいかな」


『その……実は……』


 さすがに少し様子がおかしいと気が付いたのか、ライカは黙ってしまう。

 東の果てに沈黙が流れる。間の悪さに通信シャットアウトして逃げたくなる衝動に耐え、シーナはようやく情報を伝えた。


『ユートは、もう少しエドンに留まるとの、ことです』


 瞬間、ライカの笑顔が崩れた。


「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!?」


 絶叫、うっすらと瞳には涙が浮かんでいる。

 ただ事実を伝えただけなのに、この反応。シーナは思わず愚痴りそうになるが、疑似人格が全力でストップする。


『申し訳ありません。昨夜、ユートと話して決定したことです』


 極めて事務的な口調で、そう伝えた。


「どうして?」


『いえ、ライカに確認するかはユートも気にしていたのですが、既に眠っていると聞いたので』


「違うよ、理由。ユートちゃんが帰ってこない理由」


『それは……金銭を稼ぐ手段を得るためです』


 その理由に、ライカは黙ってしまう。


『安定した収入を得るための方法を考えるから、街を見て回りたい、と』


「……そうだよね、お金は大事だもんね」


 至極当然で、まっとうな理由。それに文句を言うほどライカは我儘ではない。


「むーん、それじゃあユートちゃんとお話させて」


 ただし、多少の我儘は言う。


『いいですが、要件は?』


「お土産のおねだり! 私と、ルーブちゃんが喜ぶものを買ってきて!」


 数分後、通信を受けたユートはシーナと一緒に頭を抱えるのであった。


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