22-22
夕日が地平線にかかり、夜が訪れる僅か前。紫色の空が地平線から広がっている時間帯。その頃になって、ようやくユートたちは庁舎を出た。
長く続いた話し合いで疲れたのか、クレオとパトラはとぼとぼと歩いている。後ろのユートたちも、疲れた顔をしていた。
太陽が大地に沈むと、一気に空が暗くなる。それと同時に、夜の訪れを告げる鐘が鳴る。
クレオとパトラは目を覚ましたように背筋を伸ばすと、思わず上を見る。
庁舎の上、古い鐘楼にある鐘は、大気を振るわせていた。
やがて、残響を残して鐘の音は消えていく。
それすらも遠くへと去って言った時、シルリアが呟いた。
「鐘の音が、聞こえた」
すると、ライカが前に出て得意気に言う。
「夜の訪れを告げる鐘の音だよ、エドンのみんなは、この音を頼りに一日を過ごすんだ」
「……そうなんだ」
もう一度、シルリアは鐘楼を見上げる。
「すごい大きいけど、すごい優しい音色がする」
さて、そんな余韻に浸っているのはシルリアだけで――
「それよりおなかすいたー」
「ぺこぺこ」
子供二人は、そんな我儘を言っていた。
「ごめんなさいね。育ち明かりなので」
「はっはっは、子供はそうでなくてはな」
アキヤマはそう言うと、皆の前に立つ。
「さて、頃合いもいいだろう、いくぞ」
「どこにですか?」
ユートが問いかけると、老人は北東の方角を指さした。
「おれの家だ。オハルが待っている」
◆◆◆
中央区から北区へ向かう橋を渡り、東へ向かう。
家へと向かう人々と一緒に道を流れるように進む。
大通りから外れた堀の傍、アキヤマの隠宅。玄関にはオハルが立っていた。
オハルは一行を見つけると、パタパタと駆け寄ってくる。
「おかえりなさい、先生!」
「うん、長く留守にしてすまんな」
「そうですよお、それなのに、ウエ様からつかいがあったと思ったら、帰るからみんなの食事を用意しろ、だなんて」
皆の視線が一斉にアキヤマに集まる。その視線に居心地が悪そうにアキヤマは目を逸らす。
「先生、それはオハルさんに謝らないとダメですよ」
思わずライカが言うと、オハルも頷いて。
「そうですよ、ライカちゃん、もっと言って言って」
「やれやれ、オハルには負けるなぁ」
◆◆◆
アキヤマの隠宅に上がると、ユートたちは広間に通された。
広間には全員が吸われるテーブルが用意され、湯気の上がる鍋を中心とした料理が用意されている。
全員が集まり、着席をすると「いただきます」と挨拶をする。
アキヤマの合図で鍋の蓋を開けると、出てきたのは黄金の汁と香ばしい香り。
エドンの野菜と鶏肉の鍋があった。
「これは」
「鴨の鍋だ」
オハルが得意気につけたす。
「鶏ガラで出汁もとって、準備したんですからね。さあさあ、召し上がってください」
促されるままにユートは椀にスープと肉をよそい、おもむろに口に運ぶ。
そこで、『違い』に気がついた。
「……これはっ」
思わず声が出ていた。
「濃厚な出汁と、それに負けないくらい甘い油……それに、なんて柔らかいんだ!」
「ほほう、おれに言われたからか、まともに評するようになったか」
アキヤマは得意気に笑うと、皆に食べるように促す。
「さあさあ、くえくえ」
そう言うまでもなく、クラマはすさまじい勢いで鍋を食べる。
「かああああ、うんめええ!!」
「クラマきたな~い」
思わずパトラが言うが、その隣のクレオは――
「パトラ、それより食べないと、もったい、ない」
「ちょっと、クレオも落ち着いてよ」
負けないくらい汚い食べ方をしていた。
「オハルさんでしたっけ、よければどんな料理か教えてくれませんか?
この場にいない夫にもいつか食べさせたいので」
「あらら、それなら今度うちに呼びなさいな」
アパシアはオハルと一緒に話に花を咲かす。
そして、ユートは鍋だけではなく米を食べ――
「くそ、このライスだって全然味が違う……俺が今まで食べてきたメシはいったいなんだってんだ!!」
やはり、違いに驚いていた。
クラマも何度も頷き、同意する。
「気持ちは分かるぞ、アタシもここまで美味い飯は初めて食べだ」
「ふふふ、だから言っただろう。美味い飯を食べ、それを味わい、言語化出来るようになる。そうすれば、より人生は豊かになる、とな」
その賑やかな光景を、ライカとシルリアは眺めていた。
「……」
「シルリアちゃん、どうしたの?」
「……鐘の音と同じ……大きな音なのに、心地よいから」
騒がしいくらいに音は響いている。
けれど、不快感はない。
知らず知らずのうちに、シルリアも顔を和らげていた。
「ふふ、そうだね」
「賑やかって、こういうことだよね」




