22-20
ブランシュの街の中央広場。マナタイトが失われて以来、どこか活気のなかった区画に、久しぶりに人々が集まっている。
ユートの手によって奪還されたマナタイトの設置のため、ブランシュの兵とエドンから派遣された冒険者たちが作業していた。
その様子を横目に見ながら、ユートは周囲を確認しながら歩いている。
――目的は、ライカとシルリア。
◆◆◆
会議が終わった後、ユートはすぐにライカとシルリアの姿を探した。
――すべては彼女が決めることでしょう――
――どの道を選んでも、ブランシュの民は受け入れます――
シルリアの処遇について尋ねたところ、ブランシュの太守はそう言って、彼女の自由意思に任せることを保証してくれた。
さっそく確認を――と一階に行ったところ、クラマたちが待つ部屋には姿はない。
尋ねても、居場所は分からない、とのことだった。
館の人たちに聞いたところ、二人で外に出た――までは分かった。
仕方なく、ユートは外に出て二人を探すことになる。
◆◆◆
騒がしい広場を抜けて山へと向かう道を歩く。
周囲をそれとなく見渡しても、目当ての人は居ない。
「どこにいるんだろう」
『通信機を持たしておけばよかったですね』
「本当だよ……」
溜息を吐いて立ち止まる。
(当てもなく探しても仕方がない)
一先ずユートは二人が行きそうな場所を考えてみることにした。
「二人が行きそうな場所……」
ライカとシルリア、二人が行きそうな場所を考えてみる。
ブランシュの街で、ユートはシルリアと一緒に時間を過ごした。その中で、頻繁に訪れたのは図書館と湖の傍の花畑。
「図書館……は、どうなんだろう」
『候補の一つではありますが、今、二人が行きますかね』
だが、シルリアはともかくライカは一度図書館で目撃されただけだった。そもそも、このタイミングでは、ライカもシルリアも行く理由がない。
『二人に共通するもの……』
「この土地で二人が一緒に居た場所……ヒストリの館か……」
ユートは考える。
ブランシュの街で、ライカはどこにいたか。
どこで、ユートと顔を合わせたか。
「あっ……もしかして」
一つの考えに至り、ユートは自然と歩き出していた。
◆◆◆
ユートが向かったのはブランシュ近くの山の中。人が通らなく、荒れ果てた石畳の道。
そこに、真新しい足跡があった。
(やっぱりか)
考えが間違っていなかったと確信したユートは、ゆっくりと山道を登る。
その先にあったのは、朽ちた建物――孤児院の廃墟であった。
山道を登りきり、廃墟の前にたつ。
朽ちた扉がガタリと落ち、その先には来訪者を見つけたライカとシルリアの姿があった。
「ここだったんだ」
――かつて、ライカとシルリアが一緒の時を過ごした孤児院。
既に誰も訪れず、静寂に包まれたこの地であっても、二人にとっては出会った思い出の場所である。
わざわざここで何をしていたか、ユートはあえて問うことはしなかった。
「ユートちゃん、話は終わったの」
「ああ。色々決まったけど……一つ、決まってないことがある」
ユートはシルリアの顔を見る。
名前を呼ばれた少女は、首を傾げてユートを見つめ返した。
「シルリア……太守様も、君がどうするかは、君自身が決めて欲しいって。
この地に残るか、俺たちと一緒に行くか。それとも、別の道を選ぶか――君自身が決めるんだって」
――シルリアはただ黙ってユートの言葉を受け止める。
「……」
朽ちた孤児院を振りかえる。
風が吹いた。辛うじて屋根の形をしていた木材の一部が落ちると、柔らかい音をたてて地に落ちる。
「……不思議だよね。ライカと一緒に過ごしたのは、きっとそんなに長くないのに」
既に朽ちた孤児院は、転移魔法の素質を持つ魔法使いを集める実験場であった。
ライカもシルリアも素質があり、たまたま一緒になった。
そして、その偶然から重なった時間も、けっして長くはない。
「でも、ライカと一緒だと……この場所の空気も……懐かしくなる」
それでも、もう一度訪れたいと思う程には愛着があった。
それは、ライカが居たから。
シルリアはライカを見る。
「ライカは……私にどうして欲しいの?」
「それは私が答えられないよ。言えるとしたら、シルリアちゃんが望む道を選んで」
ライカは甘さを捨てた瞳で、シルリアの問いに自分で決めることを求めた。
「……自分で決めるのって、難しいね」
そして、シルリアは困ったように笑うと、見守る二人の顔を交互に見る。
二人とも、何も言わずに少女の答えを待っていた。
「私は、この先どうしたらいいか分からない。ブランシュの街でやりたいことも分からないし、外の世界もわからない」
そして、今度は戸惑いながらも微笑んで、二人の前に立つ。
「でも、分からないなら……何かをしたいと思ってる……」
そして、両手を二人の前に出した。
「きっと、それはライカとユートの二人と一緒にいればわかると思うから」
最初の応じたのは、ライカだった。
優しい笑顔で応じると、その右手を取る。
「シルリアちゃん……うん、大丈夫。お姉ちゃんは、一緒に居るからね」
そして、ユートは左手を取った。
「ああ、行こう、シルリア」
ライカは頷くと、改めて二人に言った。
「二人とも、よろしく……」
言葉を告げた時だった。
まるで示し合わせたかのように、ブランシュの街から光が溢れる。
三人が思わず振り返る。光が溢れ出たのは、街の中央からであった。
「マナタイトの光が」
街を守る、ウォール・マナタイトが輝き出す。
以前の銀色の光に、赤い輝きが混ざっていた。
「ロゼルロンさんの魔力の影響かな。少し性質は変わるけど、きっと大丈夫だよ
「……うん」
シルリアは頷くと、自然と言葉を零していた。
「行ってきます」




