22-17
一機の巨人が、宇宙に浮かぶ空母に接近する。
フラット1からのガイド信号に従ってユートは着艦作業を行う。
開け放たれた甲板に降り立ち、通常歩行で歩み、開かれた格納庫の中へ。
扉が閉じられ、機密が完了した通知が来るとコックピットを解放する。
ちょうど、目の前まで艦のスタッフが来ていた。手信号で奥のエアロックを指さしている。
◆◆◆
ユートは案内に従ってエアロックに入る。気密の調整の後、奥の通路へと進む。
現在進行形で運用されている戦艦の通路は、ワンドガルドに残された遺跡と違い、生まれたばかりの傷や汚れがあった。
どこか懐かしさを感じつつも、ユートは通路を進む。
案内された先で、自動扉が開く。
「うおおおおおおおおおお!!」
「来たぞ! あれがユートだ!!」
そこで少年を出迎えたのは、惜しみない拍手と歓声であった。
扉の先――格納庫には、多くの人々が待っていた。床だけでは収まり切れず、無重力を利用して空間上の多くの人が浮かんでいる。中には気密服を装着していないスタッフもおり、艦中の人間が駆けつけてきたようだった。
ユートは圧倒されつつも、ヘルメットを取って顔を見せる。
再び歓声があがり、ユートは落ち着かずにきょろきょろと視線を泳がせる。
「単機でコロニーを止めたなんて話を盛り過ぎだと思ったが、本当だったんだな」
「あんな若い子なのに、やっぱりアンリミテッドって凄いのね」
聞こえてくる称賛の言葉を前にただ困惑するユートに、一人の男が近づく。
厳つい顔をした男性。見ようによっては30代ほどであるが、今は珍しく顔を緩ませていて、本来の年相応の様子を見せていた。
彼の顔を見た時、ユートは安心し、その名を呼んだ。
「ロックさん」
ユートと同じアンリミテッド。その兄貴分にあたる人間であった。
ロックはユートの肩を叩くと、静かに言った。
「壮健であるようだな」
「ロックさん、それに、みんな」
ロックの後ろから何人もユートに駆け寄ってくる。
同年代の少年も居れば、ユートよりも一回り小さい子供。少女も何人か混じっている。
皆が、ユートが顔に覚えのある仲間であった。
「まったく、簡単に死ぬとは思わなかったけどな」
「ほんと、あの子を泣かせるんじゃないよ」
「ふふ……そう簡単に縁は途切れないよね」
肉体的なスキンシップも含めてもみくちゃにされていると、大きな咳払いが聞こえてくる。
白い髭の老人。艦長のリダであった。
「ごほん、積もる話はあるであろうが、いいかね」
「はい」
アンリミテッドたちは即座に空気を読むと、ユートを囲むように距離を取って。姿勢をなおした。
リダは、ふむ、と小さく言うと、ユートの顔を見る。
「改めて、二度も地球を救ってくれたことを感謝したい」
老人が頭を下げる。ユートもまた、自然に頭を下げていた。
「本来なら私のような老人ではなく、然るべき立場の人間から言葉をおくるべきだが、そこは許して欲しい」
「いいえ、自分は自分が必要だと感じた行動を取っただけです」
「それでいい。英雄と呼ばれる人が、その言葉を言ってくれたことが嬉しい」
老人はユートに対して手を差し出した。皺だらけの手は、少年の握手を待っている。
ユートはグローブを取ると、確かにその手を握り返す。
老人の手は未だに力が宿り、少年の手を握り返してくれる。
「これは勝手な話ではあるがね。大人の都合で生み出された君たちアンリミテッドが健やかであることが我々にとって救いになるのだ」
ユートは、ただ黙って頷いた。
――大人の都合で生み出された君――
ふと、ユートはタエナリウムのことを思い出す。
立場も状況も違う。それこそ、自分は人間で、相手は機械である。それを分かったうえでも、ユートはその最期に感じた寂しさを思い返す。
(……健やかであること、か)
胸の内にある寂しさを埋めるように、その言葉を口に出さずに繰り返した。
「さて、時間が押していることは聞いているが、一つ頼みたいことがある。
君が異世界で見たことを、聞きたい。それは、ここに居る皆も同じはずだ」
周囲の視線が一斉にユートに集まる。皆が、少年の言葉を待っている。
興味が集中しているのは同じだが、不思議とユートは格納庫に入った時のような恥ずかしさは感じなかった。
「それでは、最初は――」
最初は、必死にコロニー落としを止めようとしたところから。
コロニーに居た謎の存在。転移した先で必死にコロニーを接岸させたこと。
大地の裏側で出会った竜との戦いから地上へ――
生活環境を整えながら大地を探り、仲間たちと出会い――魔法と呪いを知った。
波乱万丈の旅は大幅に話を端折っても終わらず――
『ユート、そろそろお話を切り上げてください』
と、シーナに忠告をされるまで続いた。
リダは満足げに頷くと、スタッフに声をかける。
すると、皆がユートに拍手をした。
そこからは、大急ぎで作業が進められていく。
「アンリミテッドー10、貴官の船にありったけの物資を送るぞ」
「ついでに俺たちのおススメのデジタルデータもな」
「……諦めないから……異世界程度でならアタシも――」
「はいはい、この子は放っておいて」
地球の仲間から、言葉と贈り物を受け取って――
「シーナ」
『こちらからもワンドガルドのデータについて送ります』
――そして、ユートたちからもワンドガルドの情報を残して――
◆◆◆
ありったけのコンテナと一緒にユートはウツロブネへと帰還した。
ロゼルロンは領域を抑えたまま、ユートの方を見る。
「もう、いいのか?」
「うん、大丈夫」
「そうか」
それだけを言うと、ユートはウツロブネへと着艦した。
エクステンションマッスルを降りて艦を進み、管制室へ。帰還の挨拶を告げる。
「みんな、お待たせ」
「よかったーっ!!」
すると、すぐにライカが飛び込んできた。
不意打ちを回避できずに、ユートはライカに抱きつかれてしまう。
「ちょ、ライカァ!?」
急に飛び込んで来たライカ。大きな瞳が目の前にある。
匂いも、呼吸の音も感じられる距離に、ユートも思わず赤面してしまった。
「おやおや、ユートが珍しく照れてるねっ」
「ふふっ、シーナ、映像は録画してる?」
『もちろんです』
「「やったーっ!!」」
すぐにライカを引き離すと、ユートは抗議の声をあげる。
「あのなあっ! 今すぐに消せっ!!」
「ダメダメ、パパとママに見せないと」
「それだけじゃない。お爺ちゃんもウエ様にも、もちろんクラマにだって見せないといけない」
クレオとパトラはクスクスと笑っている。ユートはたまったものではなく、叫びそうになるが、なんとか踏みとどまる――
「すまんのう、ワシにも見せてもらえんか?」
「あのなあっ!!!!」
だが、ロゼルロンの揶揄いに、ついに声をあげてしまった。
◆◆◆
地球からの贈り物の格納が終わると、ウツロブネはついに動き出す。
ゆっくりと浮かび上がると、転移空間の前に移動する。
モニターが捉えた空間の先には、うっすらとワンドガルドを支える杖が見えた。
管制室のモニターが地球をうつす。
周辺には、エクステンションマッスルたちが集まっていた。
彼らから、通信が入った。
『それでは総員』
『これより、二度地球を救った英雄の旅立ちに敬意と願いを込めて』
『敬礼!』
機械の腕が一斉に敬礼をする。
『極めて近く、限りなく遠い世界へ旅立つ我らの同胞よ、その旅路に祝福があるように!』
クレオとパトラは自然と手を振っていた。
ユートもまた、仲間たちへと敬礼を返す。
ウツロブネは転移空間へと進む。真っ白な空間を一瞬で通り過ぎると、見慣れたワンドガルドの宙域へと出る。
ロゼルロンがウツロブネに次いで転移空間を抜けると、待っていたかのように宇宙を切り裂く断裂は消えてしまった。
もう、地球は見えない。
「ユートちゃん、本当に良かったの?」
「うん」
そして、顔を上げた。
うっすらと涙ぐんでいることに、ユートだけが気がついていない。
けれど、誰もそれを口にしない。
『さて、ユート』
――かわりに――
『これから、どうしますか』
自分たちのリーダーに、『次』は何をするかと尋ねる。
ユートは力強く頷くと、モニターに表示された平面の星を指さした。
「もちろん、帰ろう。俺たちを待ってる人たちの元へ」




