22-16
機械龍は完全に動きを止めた。ユートもそれを確認すると、リキッドメタルブレードを収納し、戦闘状態を解除する。
周囲に残っていた敵もエーテルの粒子となって消えていく。
通信機越しに音声が聞こえてくる。困惑するもの、安堵するもの、様々であるが、皆が戦いの終わりを確信していた。
マガハラと機械龍の残骸が漂う宙域、その中心に居るのはユートのファルコンと、エールが操縦するファイターユニット。
ファイターユニットは僅かにエンジンを噴かした。それが、死を慎む弔砲のようにユートには見えた。
「エールさ」
『どうしました、マスター』
エールは普段と変わらない調子で応じてくれた。
「タエナリウムに送った言葉って、どうしてそう思ったんだ?」
おおよそ機械らしからぬ哲学的な言葉の数々を思い出す。それらすべてには、AIがただ学習したとは思えない迫力があった。
『……マスターは既知であると思いますが、本機が所属していた衛星基地は、僅かな時間で多くの生命が消えていきました』
無人となったあともエールが守り続けた衛星基地。ユートも残された情報から、そこで壮絶な内乱が起こり、命が消えていったことを知っている。
『なんで戦うのか……それは、戦うことが彼らにとっても生存条件であったから。資源も空気も限られた空間で、より長く生き延びるために他者の命を吸ったから……その是非は分かりません……一つ確かなのは、基地に遺された人々は、死にたくないから戦っていました』
生きたいから、みっともなく足掻く。
他者にとっては愚かなことでも、必死な当人たちにはそれだけしかない。
『それを……見送ってきた自分の結論です』
「……そうか」
ユートはただ、それだけ応えた。
「エール、ライカを連れて先に戻ってて」
『了解しました』
ファイターユニットは再びスラスターで反転し、ウツロブネへと飛んでいった。
それを見送って、ユートは一息つく。
(さて、いつまでもここに居るわけにはいかないか……まずはライカたちの様子を――)
これからのことについて、改めてユートは考える。
ちょうど、シーナから通信が入った。
『ユート、通信が入っています。あの艦の艦長からです』
サブモニターにずっと支援をしていたフラット1の姿が映る。周囲には作戦を終えたエクステンションマッスルが何機か待機している。
「了解、繋いで」
すると、サブモニターが切り替わり、白髭の老人が姿を見せる。
『失礼する。これで作戦は完了と見ていいのだね』
「はい、間違いありません」
迷いなく答えると、老人が深い息を吐き、顔を緩めた。
巨大構造物の落下阻止も、機械龍の破壊も無事に終わらせた。なにより、ユートはライカとシルリアの救出も果たした。
(ヒストリの行方は気になるが……今はひとまず良しとしよう)
未だ姿を見せない敵について気になるが、ひとまずユートはその問題を保留にした。
『さて、ユート君だったな。よければ、落ち着いて話をしたいのだが』
「少し待ってください」
ユートはコンソールを操作してメインモニターに小さくウィンドウを表示する。
終式ウツロブネと、ワンドガルドとを繋ぐ空間転移領域を支える赤龍の姿を確認する。
ロゼルロンが支える領域は今も健在であるが、その端は揺らいでいて、どこか不安定さをユートも感じていた。
「ロゼルロン、空間転移のためのフィールドの維持はどれくらい出来る?」
「体力だけで言うのなら、一日は余裕じゃろうが、まあ、早い方がいいな。何せ、閉じたら繋ぎ直す手段がない」
地球とワンドガルドを繋いだのは、マガハラで計算を行った結果があるから。
シルリアがライカとユートに呼びかけて空間を繋いだが、もし仮に今空間転移領域が閉じたのなら、再び繋ぎ直す手段をユートたちは持っていない。
『マガハラを破壊した以上、いつ閉じるか分かりません。急ぐべきです』
「わかった。なるべく急ぐ」
話を切り上げると、リダに向きなおる。
「すみません、仲間に確認をしました。
可能な限り急ぎたいので、お話は早めに切り上げさせてください」
『それはどうしてかね?』
「我々が帰還するための環境がいつまで維持できるか分からないのです」
『なるほど……君は、また異世界に戻ると言うのだね』
「はい」
ユートは迷いなく答えた。
リダは髭を弄ると、僅かに考えこむ。そして、わざとらしくねっとりと声を出す。
『地球圏に留まれば君は英雄だ。誰も邪険にしないだろう。それでも、かね』
ユートは思わず笑うと、明るく返した。
「はい。ワンドガルドにはコロニーが残されています。それに、向こうの世界で頼まれたことは沢山残っているので」
すると、老人もまた笑顔で応えたのだった。
『わかった。なら、せめて顔だけは見せて欲しい。
艦の格納庫を開いておく。私もすぐに向かおう』
「わかりました」
ユートは通信を一度切る。
サブモニターの表示はフラット1に戻った。確かに、ユートを迎えるようにカタパルトと直結した格納庫の扉が開いている。
コントローラーを握り、戦闘機動よりも一つ落として移動をする――そこで、ふと気になった。
クレオとパトラに通信を繋ぐと、二人に呼びかける。
「クレオ、パトラ」
『何~? あたし達も戻りたいんだけど』
『うん、疲れた』
通信越しの二人は、確かに疲れからダルそうな声を出していた。
今すぐ休みたい、と言った態度であるが、一つ確認をしないといけないことがあった。
「二人は、ワンドガルドに戻るんでいいんだよね」
ここは、地球である。ユートはワンドガルドに戻らないといけないが、二人はまだ選ぶことが出来る。
けれど、それがすぐに無駄な質問であることを理解した。
『どうして聞くの?』
『パパとママのところに戻らないと』
あっけらかんと、当然のように言う。
ユートは自分が間違っていたと悟ると、すぐに話を切り上げた。
「そうだね、変な事聞いた」
二人にとって帰る場所は、もう、ワンドガルド――正確に言うのであれば、アパシアとロジッスの元なのだから。
そう分かった時、ユートの頭には、ふと、一人の女性の顔が浮かんだ。
(ライカは……)
気になって声をかけようとした時、急に通信が割り込んできた。
「ユートちゃーん! お姉ちゃんは無事だよ! シルリアちゃんも無事だから、一緒に帰ろうね!!」
ヘルメットを脱いでボサボサの髪。後ろではぐったりとしたシルリアが、ドリーとルーブに介抱されている。
『すみません。艦に戻ったところ、どうしても声をかけたいと』
呆れたようにシーナが言う。けれど、どこか嬉しそうだった。




