22-15
機械龍の腕が振るわれる。
無意味に、無駄に、振り下ろされる。
一撃目は距離が間違っていた。二撃目は方向が間違っていた。三撃目はファルコンの肩に触れたが、力の入れ方が無茶苦茶で弾かれてしまう。
そして――四撃目を放った時、腕がついに崩れた。
腕が接続されていた箇所から亀裂が広がっていく。もはや満身創痍であった胴体は連鎖的に崩壊する。
内部にとどめていた龍の鱗が飛び散っていく。深紫のエーテルが拡散し、そして宇宙に溶けていく。
――もはや、機械龍タエナリウムに戦闘能力は残っていない――
ユートがこれ以上、手を下すまでもない。この機械の化け物は、ここで果てるだろう。
戦いは終わった――
そう、終わったのだ――
マガハラの破壊、人質の奪還、敵の撃破。その全てを果たしたと言うのに、ユートの胸には勝利の高揚はなかった。
少年は、崩れていく怨敵を見すえる。あれだけ手こずらせ、手間取った相手が倒れていく。
コントローラーを握っていた手から力が抜ける。だらりと脱力をすると、コックピットで深く息を吐いた。
目を閉じ、僅かに瞑想する。
そして、次にコンソールを見る。
タエナリウムとの通信接続は、未だに残っていた。
「タエナリウム……お前の人生はなんだったんだ」
自然と、問いかけていた。
『わたしは、ひとでは、ありません』
機械に『人生』を問う。そのナンセンスさを指摘する言葉には、もはや力もない。
「それなら、何のためにここまで戦ったんだ」
『わかりません』
ユートは思わず拳を握った。意味もなく八つ当たりしたくなる感情を押さえつける。
――戦いのために生み出された道具が壊れる。
――壊した本人が、それに哀愁を感じる。
どちらも人間の生み出した結果であり、身勝手さの果てである。ユートはやり場のない感情を必死に飲み込んだ。
『そもそも、『生きる』、とはなんでしょうか。
ただのきかいが、いきていたのでしょうか』
その言葉は、ユートの胸に突き刺さった。
『つくられたそんざいが、やくめをはたさずに、いきた、と、いえるのでしょうか』
――生きるとは、なんだろう――
――人に造られた存在が、生を全うするのはどういうことだろう――
――遺伝子を調整して生み出されたユートと、機械の体に感情すら理解出来る頭脳を与えられたタエナリウムと、何が違うのだろう――
「それは……」
問いに詰まるユートに、別の通信が割って入る。
『マスター、少しよろしいでしょうか』
「エール」
『最後に、自分と彼女とで交信をさせてください』
ユートは無言で頷くと、エールとタエナリウムの通信を繋ぐ。
『16号、ですか』
『お久しぶりです……タエナリウム』
古い名で呼ばれたエールは静かにそれを肯定する。
『これは、私の私見になりますが――』
感情がない筈のオートマトンの言葉が、コックピットの中に優しき響いた。
『あなたは、マガハラから脱出する際に、少しでも自らの生存が高い道を選んだのではないでしょうか』
『不明……不明』
タエナリウムの返答には、困惑の代わりにノイズが混じる。
『仮にそうだとしたら、あなたは自己の存在を惜しんだ』
『バグであると、指摘するのですか』
『いいえ。自らの存在を惜しむことは、生きていると言うことです』
生きたいと願ったのなら――それは、生きている証なのだ、と。
それが人であっても、機械であっても、存在を繋ごうとすることは生きることであると。
『生きる……何のために……ああ……生まれた……使命を……果たすために』
『そうでしょうね』
それは、悪意から生まれた存在かもしれない。
それでも、生きようとした意志自体は否定できない。
破壊を為すために生まれ、一歩間違えれば大災厄を生み出そうとしたことは悪である。
けれど、悪も生きていた。
――だから、その先で――咎を背負い、生を終えるのだ。
『失敗したことも含めて、考え、選び、生きた結果なのだと、私は思います』
ユートはエールの言葉に何も言えなかった。
それを肯定するには、彼の生きてきた人生は短すぎる。
だが同時に――否定も出来なかった。
『……16号、最後に』
タエナリウムの言葉が、また、戻った。
『タエナリウムより、16号――いえ、ラグランジュⅣ7番コロニー所属のオートマタ―・コマンド、エールに権限を委譲します。
今後、アルテミス小惑星偽装基地に戻ったのなら、全ての情報の閲覧と施設の利用を許可します』
『それは……』
『その情報をどうするかは、あなた次第です』
そして、感情が声に載る。
『ああ……悔しい……なあ』
それが、最後の言葉だった。
機械龍から光が消える。それは、『死』であった。




