表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第二部完】地球に落下するコロニーごと異世界に転移した俺は、次に何をすればいいんだ  作者: 狼二世
【第2部】ミッション22 第二次巨大構造物地球落下阻止
PR
306/315

22-15


 機械龍の腕が振るわれる。

 無意味に、無駄に、振り下ろされる。

 一撃目は距離が間違っていた。二撃目は方向が間違っていた。三撃目はファルコンの肩に触れたが、力の入れ方が無茶苦茶で弾かれてしまう。

 そして――四撃目を放った時、腕がついに崩れた。


 腕が接続されていた箇所から亀裂が広がっていく。もはや満身創痍であった胴体は連鎖的に崩壊する。

 内部にとどめていた龍の鱗が飛び散っていく。深紫のエーテルが拡散し、そして宇宙に溶けていく。


 ――もはや、機械龍タエナリウムに戦闘能力は残っていない――


 ユートがこれ以上、手を下すまでもない。この機械の化け物は、ここで果てるだろう。


 戦いは終わった――

 そう、終わったのだ――


 マガハラの破壊、人質の奪還、敵の撃破。その全てを果たしたと言うのに、ユートの胸には勝利の高揚はなかった。


 少年は、崩れていく怨敵を見すえる。あれだけ手こずらせ、手間取った相手が倒れていく。

 コントローラーを握っていた手から力が抜ける。だらりと脱力をすると、コックピットで深く息を吐いた。

 目を閉じ、僅かに瞑想する。

 そして、次にコンソールを見る。

 タエナリウムとの通信接続は、未だに残っていた。


「タエナリウム……お前の人生はなんだったんだ」


 自然と、問いかけていた。


『わたしは、ひとでは、ありません』


 機械に『人生』を問う。そのナンセンスさを指摘する言葉には、もはや力もない。


「それなら、何のためにここまで戦ったんだ」

『わかりません』


 ユートは思わず拳を握った。意味もなく八つ当たりしたくなる感情を押さえつける。

 ――戦いのために生み出された道具が壊れる。

 ――壊した本人が、それに哀愁を感じる。

 どちらも人間の生み出した結果であり、身勝手さの果てである。ユートはやり場のない感情を必死に飲み込んだ。


『そもそも、『生きる』、とはなんでしょうか。

 ただのきかいが、いきていたのでしょうか』


 その言葉は、ユートの胸に突き刺さった。


『つくられたそんざいが、やくめをはたさずに、いきた、と、いえるのでしょうか』


 ――生きるとは、なんだろう――

 ――人に造られた存在が、生を全うするのはどういうことだろう――

 ――遺伝子を調整して生み出されたユートと、機械の体に感情すら理解出来る頭脳を与えられたタエナリウムと、何が違うのだろう――


「それは……」


 問いに詰まるユートに、別の通信が割って入る。


『マスター、少しよろしいでしょうか』

「エール」

『最後に、自分と彼女とで交信をさせてください』


 ユートは無言で頷くと、エールとタエナリウムの通信を繋ぐ。


『16号、ですか』

『お久しぶりです……タエナリウム』


 古い名で呼ばれたエールは静かにそれを肯定する。


『これは、私の私見になりますが――』


 感情がない筈のオートマトンの言葉が、コックピットの中に優しき響いた。


『あなたは、マガハラから脱出する際に、少しでも自らの生存が高い道を選んだのではないでしょうか』

『不明……不明』


 タエナリウムの返答には、困惑の代わりにノイズが混じる。


『仮にそうだとしたら、あなたは自己の存在を惜しんだ』

『バグであると、指摘するのですか』

『いいえ。自らの存在を惜しむことは、生きていると言うことです』


 生きたいと願ったのなら――それは、生きている証なのだ、と。

 それが人であっても、機械であっても、存在を繋ごうとすることは生きることであると。


『生きる……何のために……ああ……生まれた……使命を……果たすために』

『そうでしょうね』


 それは、悪意から生まれた存在かもしれない。

 それでも、生きようとした意志自体は否定できない。

 破壊を為すために生まれ、一歩間違えれば大災厄を生み出そうとしたことは悪である。

 けれど、悪も生きていた。

 ――だから、その先で――咎を背負い、生を終えるのだ。


『失敗したことも含めて、考え、選び、生きた結果なのだと、私は思います』


 ユートはエールの言葉に何も言えなかった。

 それを肯定するには、彼の生きてきた人生は短すぎる。

 だが同時に――否定も出来なかった。


『……16号、最後に』


 タエナリウムの言葉が、また、戻った。


『タエナリウムより、16号――いえ、ラグランジュⅣ7番コロニー所属のオートマタ―・コマンド、エールに権限を委譲します。

 今後、アルテミス小惑星偽装基地に戻ったのなら、全ての情報の閲覧と施設の利用を許可します』

『それは……』

『その情報をどうするかは、あなた次第です』


 そして、感情が声に載る。


『ああ……悔しい……なあ』


 それが、最後の言葉だった。

 機械龍から光が消える。それは、『死』であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ