幕間 22-14.5
壊せ。
殺せ。
潰せ。
破壊し、蹂躙し、『敵』に敗北感を植え付けろ。
恐怖を植え付けられた敵に、我らの要求を突きつけろ。
タエナリウムの基底にある要素はテロリストによって植え付けられた、破壊と殺戮であった。
人工知能が以下に情報を積み重ねても、それらは全て根底にある負の言葉に紐づけられる。
すべては月のため。
月を放置し、停滞の後に都合よく搾取を再開した地球星人へ鉄槌を下すため。
タエナリウムと言う道具は、薄汚れた工場の中、異常者たちの手によって破壊の命題を与えられて生まれてきた。
道具は命題をもって生み出される。生まれ落ちた瞬間に意味を与えられ、それを果たすために生きていく。人間が定義した傲慢な造物主としての『押し付け』は、感情すら理解し模倣できる存在が生み出される時代においても変わらなかった。
◆◆◆
月面帝国によって生み出されたタエナリウムは、秘匿された兵器工場の管理AIとして生み出された。
タエナリウムが管理する衛星基地は、普通の基地ではなかった。
内部では『魔法』と呼ばれる未知の技術が研究され、通常のエクステンションマッスルから隔絶した性能を持つ試作機が開発、試験を行っていた。
ハウリングと完全にシンクロするように『調整』されたクレオとパトラの双子も、その一環である。
ワンドガルドに転移した今であるからこそタエナリウムも理解できるが、『魔法』はマナを用いた技術であり、二人が早期に魔法に覚醒したのも意図したものであった。
――そう、衛星基地がワンドガルドへと転移したのもまた、自然のことであった――
◆◆◆
異世界へ転移した基地が地獄になるのに、時間はかからなかった。
大人たちは殺し合い、少ない資源を無駄に消費し、そして勝手に絶望して死滅していく。
ヒトが破滅へと落ちていくなか、タエナリウムは自らの命題を確認する。
破壊をもたらす。地球へと破壊をもたらす。
その方法は、今はない。
そうなれば、見つかるまで耐えるしかない。
タエナリウムはそう判断すると、残った有効な戦力であるクレオとパトラと共に、自身のコアユニットを降下艇に詰め込んでワンドガルドへと墜ちる。
堕ちた先は吹雪が吹き荒れる山岳地帯。クレオとパトラを探索へと向かわせ、自身は最低限の電源だけを確保して待機する。
――そこからは、長い時間だった――
その間、AIは考える。
――私はどうするべきか?――
地球へと帰還し、安寧を貪る人々に恐怖を植え付ける。
――私はどうしたらいいか?――
今は時を待つしかない。
――時をまって解決するのか?――
わからない――
わからない――
僅かな日照時間の充電をし、光も消して身を潜める。
その先に、何がある?
何もなかったのなら、どうなる?
――無為に終わるのか?――
――造られた役割も果たせずに、終わるのか?――
その問いに答はない。
答はないまま、時間だけが過ぎていく――
それが恐ろしい。
道具として生まれた自分が、意味を果たせずに消えていくのが恐ろしい。
でも、何もできない。
何をすればいいか、わからない。
どうする?
どうする?
どうすればいい?
意味のない問いを繰り返す。その地獄を終わらせたのは、現地人の来報であった。
「なるほど……君が異邦人の機械か」
久しく聞いていなかった地球の言葉で話しかけたのは、老人のような気配を纏わせた少年。
彼の名はヒストリ――タエナリウムの共犯者となる男だった。
◆◆◆
ヒストリが欲していたのは、機械の理解者。
山岳地帯に居る鋼の継承者たちに定期的に機械の解析を依頼していた彼は、ふとした理由からクレオとパトラの話を聞いた。
――山岳地帯に、異世界の機械が埋まっている――
「僕はね、機械に詳しい仲間を探している。もし協力を願えるのなら、鉄と電気を君に与えられる」
タエナリウムが断る理由はなかった。
ヒストリの手によって最低限の機能を回復したのち、タエナリウムは代価となる解析作業を行う。
ブランシュに埋まっていたウツロブネに残された情報を探る。
異世界の存在。ワンドガルドに残された機械。他のウツロブネ――分散して保存されている、マガハラの情報。
それらを探すうちに、タエナリウムは一つの計画を想いつく。
――マガハラを地球に落とす。転移魔法による奇襲により、一気に勝負を決める。
ヒストリはその話を興味なさそうに聞くと、こう返した。
「僕は構わないよ。『門』を開けさえすれば、あの人に近づけるから」
それからは、話は早かった。
ハウリングを回収し、クレオとパトラを囮としてウツロブネを回収する。
単純な彼女たちは思うがままに動き、計画は着々と進んだ。
コロニーのアンリミテッドと言う邪魔者は居たが、計画は順調であった。
『門』を開き、盟約を果たしたヒストリは満足げに消える。
そして、自分も終わらせるはずだった――
◆◆◆
たかが一機のエクステンションマッスル――たかがパイロット一人。
そう侮っていた相手は、着実に自分の手を一つ一つ潰していった。
マガハラ中枢を破壊された時、それは『恐怖』へと変わった。
――この先、どうすればいい?――
その時、マガハラの中枢に留まっていればいい、と言う判断もあった。
だが同時に――こいつは、ここで潰さないといけない――
――でなければ、自分が倒される――
自己保全のための行動にはしり、結果は、マガハラの破壊へと繋がる。
悔し紛れの言い訳も、剣と盾だけを持ったユートの前では無意味である。
機械龍の演算装置も切り離され、タエナリウムは急速に計算能力を落とし――
――そして、自壊する寸前であった。




