22-14
巨大な鉄の塊の周囲を、翡翠の光が舞う。
光の線を引きながら、花の合間を飛び交う蝶のように飛ぶ。
エーテルの粒子を巻き散らして宇宙を飛ぶユートとファルコンは、機械龍の周囲を飛び回り、的確にリキッドメタルブレードで一撃を入れていく。
装甲が剥がれ、内部回路が露出し、それも薙ぎ払われる。繋ぎを失った鉄の塊が本体から分離し、散らばっていく。
機械龍は荒れ狂うように残った手足と身体をよじる。残された装甲の隙間から濃紫のエーテルの光線が放たれるが、自棄じみた攻撃はユートを捉えることは出来ない。
翼はとうになくなっている。攻撃デバイスはユート、そして彼を援護する仲間たちの手によって全て撃墜された。
丸々と太っていた胴体に最早面影はない。
外皮にあたる外面の装甲は全て剥がれ落ち、内部も削り取られ、ギリギリ半円を満たしている程度であった。
「シーナ、ウツロブネと比べてどれくらい削れた?」
『ユートが望む精密な値は出せませんよ』
「そこまで気にしない!」
回避機動を取りながらもユートは状況を確認する。
『4~5割ほどです。破壊は正面に集中しています』
「ならっ」
機体を反転させるとスラスターを噴かす。ちょうど放たれた光線と交錯するように突撃する。
攻撃は掠りもしない。ファルコンは右腕のリキッドメタルブレードを突き出す。そして、機械龍と接触した瞬間に上昇。
火花が散り、縦一文字に斬撃痕が伸びていく。
最後に、シールドで無理矢理殴り飛ばす。
『攻撃――攻撃!』
機械龍の腕が振り抜かれる。
ユートはとっさにシールドで受け止めるが、衝撃までは完全に殺せなかった。
そのまま吹き飛ばされ、スラスターを使ってバランスをとる。
ユートはすぐに相手との距離を確認する。コンソールに表示された数値と、モニターの映像を確認。
距離を取ったことで、機械龍の全身が見えていた。
壊れた玩具のように装甲がはがされると、その下から出てきたのは機体を貫く円筒状の空間。
外壁には螺旋階段がある――管制室へと続く中央の階段である。
(まるで脊椎だ……)
螺旋階段から伸びる機体の各部は既にボロボロで、肋骨のようになっていた。
しつこく挑んできた敵の満身創痍の姿、それに感慨が無いわけではないが、それよりもユートには目的がある。
『ユート、あそこです!』
「わかってる!」
シーナがコンソールに情報をおくる。
螺旋階段の先、『管制室があるブロック』に、光が灯っている。
人工の光ではない――魔法の光。
それを誰が発しているか、ユートには分かった。
ファルコンは一気に加速する。最終的な目標が分かった。ならば、迷うことはない。
『くっ……』
「『表情』が変わったな! そこが目的だって言ってるようなもんだ!」
漏れ出てきた通信越しの声には、悔しさが滲んでいた。
機械龍に既に顔はない。だが、ユートにはハッキリと敵の表情が見えていた。
『狙いが分かっているなら迎撃も!』
最後のあがきと言うかのように、タエナリウムは自身の機体をパージする。
質量そのものを防壁として、直進してくるユートにぶつける――だが、それは――
『それはわたしたちも!』
『同じだよっ!』
ビームと弾幕の嵐によって最後の悪あがきは防がれる。
仲間の援護を受けて、ユートはファルコンを更に加速させる。
――そして――
『今です、ユート!』
「うおおおおおおおおおおっ!!」
リキッドメタルブレードが光を発するブロックを切除する。
すぐさま外壁が切り拓かれると、中からスラスターユニットが飛び出した。
乗っているのは青いボディのオートマター・コマンド。そして、宇宙服を着た二人であった。
「ルーブ!」
コックピット内で叫ぶと、呼応するかのように通信が復活する。
『ユート様、二人は無事です!!』
飛び出したスラスターユニットには、確かに二人――ライカとシルリアの姿があった。
『回収は本機に任せてください』
即座にエールがファイターユニットをスラスターユニットの先に移動させる。
それに立ちはだかるように、ユートはシールドを構えてタエナリウムの前に立つ。
龍は、動かない。
代わりに、ノイズ混じりの音が聞こえた。
『演算装置分離――機能低下――計算能力――』
機械音声は途切れ途切れであり、かつて挑発をしてきた面影はない。
機械龍の残された手が動いた。
『そうすること』とプログラムされたかのように、機械的に――空虚な一撃が振るわれる。
一撃が空を切る。
誰にも、何にも当たらずに、空を切る。
「今のは……」
『距離も測定出来なくなったのでしょう』
何度も、何度も手が振るわれる。
だが、その全てがユートに届くことはなかった。




