22-13
宙域に光の粒子が舞っていた。
龍の発した赤と黄金の粒子、それに、マナタイトの砕けた緑の破片が散らばっていく。
あれほどの威容を放っていたマガハラは一撃にして爆散し、残ったのは文字通り塵とゴミだけ。
敵も――味方も――誰もが茫然とその景色を眺めていた。それはタエナリウムも例外ではない。脚に突き刺さったアンカーを放置し、ただ宇宙空間に浮かんでいた。
――戦闘は終わった――
――地球へ巨大構造物を落とすと言う狂気の発想はまたしても防がれた――
誰もが確信をする中、ユートは怨敵に向かって回線をつなぐ。
今までとは逆に、ユートから挑発じみた勧告を告げる。
「最後の通告だ、このまま投降して人質を解放するなら破壊まではしない」
音声の送信。すぐに返って来たのは沈黙。
ユートはじっと、何と答えるのかを待つ。ただ、手はコントローラーを握り、いつでも行動に移せるように待機する。
『何故――』
数刻の後、答は返って来た。
『何故、それをする必要があるのですか?』
僅かに揺れる音声を、ユートは舌打ちで受ける。
「見ての通り作戦は失敗した。お前だけで何が出来る」
『失敗? いえ、それは違う』
機械龍は乱暴に脚を振った。アンカーが突き刺さった脚はもげ、拘束していた鉄棘ごと宇宙空間に投げ出される。
『テロの目的は被害を出すことではありません。危機を煽ることによって市民たちに敗北感を与え、世論を動かすことです』
そう、タエナリウムは言い切った。
――テロによって、恐怖を植え付ける。実際に未然に被害が防がれたとしても、危機がそこにあると人々の心に刻み込む。
それは軍隊や警察のものではない。暴力を悪用する悪そのものの発想であった。
『我々が無様に許しを請うなど許されることではありません』
だから、恐怖の対象が許しを請うなど許されない。
最後まで戦え。戦って、けっして分かり合えないと刻み込め、と。
ユートはただ強く唇を噛む。半ば覚悟はしていたことではあった。それでも、正面から断絶を叩きつけられ、怒りと悔しさが胸の内を焼き尽くしていた。
それは、仲間たちも同じであった。
『ユート……もう無理です』
クレオの声には悲しみが――
『うん、あたし達もそう教わった。最後の最後までムカつくことして嫌われるのが仕事だって』
パトラの声には諦めがあった――
アルテミスの教えを知り、そして、実際にタエナリウムとも接触がある二人の言葉は、ユートに自身の抱いた痛みが誤解ではないと教え込む。
「……わかった」
ヘルメットを外し、息を大きく吸う。
コンソールを操作し、武装の『パージ』を選択する。
ファルコンの左腕からガトリングが脱落する。右腕からはビーム・カノンが外れる。
残ったのはシールドとリキッドメタルブレード。ユートはファルコンの右腕に手甲と一体化した剣を形成すると、切っ先をタエナリウムに向ける。
「なら、力ずくでもお前を止め! ライカたちを助け出して見せる!!」
そして、スラスターがエーテルを吹き出した。
翡翠の粒子を巻き散らして、再び機械龍へと小人が挑む。
「みんな、俺に任せて!」
ユートは周辺の味方へとそう告げる。
『え、でもユート』
『独断専行は見過ごせない』
クレオが、リダが口を挟むのももっともである。
だが、それを制止したのはシーナであった。
『いえ、任せてください。ユートがここまで思い切りがよく飛び出すのは、勝算がある時です。
既にマガハラも破壊されている。この包囲網から逃れることも出来ない。懸念があるとしたら、人質だけ――それなら、ユートが見過ごす筈がありません』
そして、周辺を守るエクステンションマッスルたちも従う。
『へいへい、俺たちはその援護としますか』
そう言って、タエナリウムを援護しようとする残党たちへと銃を向けた。
◆◆◆
ガトリングとビーム・カノンをパージする。
その不可解さに、タエナリウムは理解が出来ずに硬直をしていた。
その一瞬の間に、ユートは接近する。
『剣と盾だけで何を!』
「こうするんだよ!」
リキッドメタルブレードの刃が腹部の装甲へと突き刺さる。
そのままスラスターの推力を頼みに真一文字に切り裂いていく。
痛みはない、だが、不快感はあった。
タエナリウムは装甲の一部を展開する。隙間から漏れ出る細い光線は放射線状に広がっていく。
だが、ユートはもはやその一撃を受けない。ある程度後退するとビームの隙間に飛び込んで回避。再びタエナリウムへと接近する。
ブレードの一撃が装甲を切り裂く。
すると、外壁がずるりと剥がれていく。
「よし! 狙い通りだ」
装甲の下にはエーテルの塊と無造作につながったケーブル。
ユートは続けざまに装甲を切り裂くと、鱗をはぐかのように一枚一枚を解体していく。
『まさか、外壁を一枚一枚解体していくつもりですか?』
コックピットの中でユートはニヤリと笑う。
左腕のシールドを装甲の隙間に突き刺すと、強引に引き上げる。
すると、内部のブロック――おそらくは船室の一つであろうが、タエナリウムから引き離された。
「まさか。おおよその構造は推測が付いてるんだよ。何せ、姉妹艦が参考になるからな!」
露出した胴体の隙間にリキッドメタルブレードを突き刺す。今度は、その切っ先から紫のは麺が飛び散った――
――フロラフールの鱗――タエナリウムを動かしている魔力の動力であった。
その時、周辺で交戦していた魔導鎧の一体が動きを止めた。
機械であるタエナリウムには魔力がない。骸竜から奪った鱗がその動力であった。
それが、一つ一つ奪われていくのだ。
『それでも、一ブロックずつ切り取っていくのにはとてつもない集中力がなければ――』
「それがあるなら出来るんだろ!」
外壁を一枚ずつ剥がし、ブロックごと引き離す――強引ではあるが、そうすれば人質ごと救出が出来る。それが、ユートには可能である、と。
再びファルコンは飛翔する。翼の攻撃デバイスがそれを追いかけるが、接近した瞬間にリキッドメタルブレードによって切り裂かれる。
その作業において、銃はただのデッドウェイトでしかない。
事実、剣戟のみに集中したファルコンは、ユートの技量によって機械龍を解体していく。




