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「くそっ!なぜっ!」
赤の神は暴れようとしたがヘリオスの身体には力が入らない。先ほど見えた白い光のせいで赤の神の力はほとんどが吸収されてしまっていた。
「気づいたのですよ、私は幸せだったということに。ある方のおかげで」
ウォルフの幸せはアマンダと共にいることだった。これから一緒にいられなくなることはとても辛いことだが、自分はこの世から去るだけだ。だが、これからも生きていかなければならないアマンダは違う。きっと自分がいなくなってしまえば辛くなることもあるだろう。だからこそウォルフは最後の時間、アマンダに幸せだと感じてほしかった。
「一時でもあなたにこの身体を使われたからでしょうか。あなたの考えが少し感じられます」
ウォルフは赤の神へと向きなおり、その瞳を見つめた。赤の神から感じられた感情は人間に対する嫉妬、憎しみ、そして絶望。人間の醜い感情から生まれた存在でありながら、それを否定されたこと。そのことから赤の神は人間に復讐しようとした。
「あなたは人間から認めて欲しかったのですか?それまで必要とされていたのに突然存在を否定され、悲しかった」
「…そうかもしれないな。私たちは人間を滅ぼすことばかりに執着してきたのだから」
赤の神は最初沈黙していたものの、疲れたようにそう呟いた。
「思えば長い間、人間を滅ぼすことだけを考えていた。だが、私たちが何か仕掛けようとも人間たちはそれを回避し、いつも幸せへと進もうとした。もう…早く終わりにしたかった」
その時、窓の外からまばゆい光が見えた。明るく白い色に光るその色は部屋全体を包み込んだ。
「これは…」
その温かい白い光は赤の神が入っているヘリオスの身体を包み込んだ。
「どうやら私たちはまた失敗したようだな…。だがもうこれで…」
その光に包まれて赤い石がヘリオスの身体から出てきた。その石はふわふわと浮かび上がり、まるで光の中に溶けるように消えていった。
「…」
白い光が消え、そこに残ったのは意識を失ったように椅子に座り込むこの国の王の姿だった。窓の外から聞こえていた人の声や、建物の倒壊音も全て消え、辺りは静寂に包まれた。
「終わったのでしょうか…」
「そう…だと思う」
アマンダとウォルフは一時呆然としていた。
「あっ…なくなってる」
アマンダは先ほどヘリオスの懐から出てきた赤い石と、その赤い石を保管していた白い箱がなくなっていることに気づいた。
「ここは…私は…」
その時、アマンダとウォルフの近くから声が聞こえてきた。それは先ほどまで意識を失っていたヘリオスが目を覚ました。
「ここに新たな王の誕生を祝福する」
あれから数か月、破壊された街のあちこちがようやっと回復の兆しを見せてきたその頃。王宮や街のあちこちで盛大な宴が催されていた。その宴は新たな王の戴冠式が開かれたために行われていた。それに付随する目的として街の復興に勢いをつけようというものだった。あれから目を覚ました王は自分の行動を認め、息子であるソルに王位を受け渡すことを宣言し、まだ成人前であったソルは成人と共に王になることになった。まだまだ前王や周りの者たちに支えられながらではあるが、ソルは立派な王として今日、壇上に立っていた。
王宮の夜会に招かれていた聖女ヒカリはアマンダと共にいた。王宮に魔女が入ることなど今までなかったが、ソルの意向によりアマンダは王宮へと招かれていた。
『これからは人も魔女も魔術師も共に暮らしていける世の中に。人々が共に認め合っていける世界を作っていきたい』
人々の概念がある限りそんな理想の世界の実現は難しいかもしれないが、少しでもみんなが暮らしやすい世界になるようにしていきたいとソルは宣言したのだった。
「まさかあそこで魔法が発動するとは思わなかったよ。無我夢中でやってたから」
あの最後に見た白い光の正体はヒカリの魔法であった。あの時、人々の混乱を鎮めるために飛び出したソルたちは死を覚悟するほどの大けがを負ってしまった。それを見たヒカリは聖女としての力に覚醒し、赤の神の魔法をも凌駕するような魔法を発動させたのだった。そのおかげで死者はおらず、また傷を負った人々も軽傷で済んだ。
「あれが『火事場の馬鹿力』ってやつなのかな?」
「火事…?」
「ああ、ごめん。私の世界の『ことわざ』なんだ」
「はあ…」
ヒカリたちが話していると向こう側からソルがやってきた。
「聖女ヒカリ様、そして魔女アマンダ様。この度はこの国の危機を救っていただきありがとうございました」
「そんな。こっちこそソル君には助けてもらってばかりだし」
「新しき王のお役に立てたなら、光栄に存じます」
「どうぞ今宵は楽しんでいってください」
そう言うとソルはまた別のグループへと向かっていった。あいさつ回りで忙しいようである。
「ヒカリ」
「あっ、みんな」
その後、カウザ、サジェス、レーブと合流しヒカリは庭園を見に行った。
「ふう…」
アマンダは庭園にはいかずバルコニーから星空を眺めた。そこから見える星空はあの日ウォルフと共に見た景色と同じように美しかった。




