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きらきらとした星が夜空にいくつも輝いている。闇の中に紛れてブーイオは王宮のバルコニーに立っていた。
「まさか君がここにきているとは」
そこには黄金色を象徴としたこの国の王、その弟であった男が1人近づいてきた。
「どおりで思い通りに進まないはずだなあ。まあ、お陰で私の望むようになってくれたのだけれど」
エトワールはバルコニーの手すりに両腕を預け夜空を見上げた。
「最初は本当に驚いたよ。私が伝えていた予言がいつの間にか書き換えられていたのだから」
この世界へと伝えられているエトワールの予言。
『まばゆい光と共に呼び現れたる清き者、その力をもってこの世界を救わん』
聖女にも伝えられたこの予言は実は元は別の予言であった。
『まばゆい色をもつ清き者、その力をもってこの世界を救わん』
まばゆい色をもつ清き者、それ即ち白の神になる前の黒の神。エトワールが伝えた予言は黒の神の末裔がこの世界を救うというものであった。だが途中、エトワールにも感知できない力でその予言は捻じ曲げられて人々に広められた。
「それに神話に協力魔法の魔法陣も。あれを考えたのも君だろう?聖女の登場なんて私のシナリオにはなかったのに」
エトワールは体を起こしブーイオへの方を見た。ブーイオは静かにエトワールの方を見ていた。
「いつまでも引きこもってもらっては困るからな。仕方なくだ」
「その割には君も楽しんでいたんじゃないか?あの2人の結末も…ああ、そんなに睨まないでくれよ」
こわいこわいとわざとらしくエトワールは自分の両腕をさすった。エトワールの様子にブーイオは軽くため息をつくと呟いた。
「ここまでやる気はなかったんだがな」
「君は情に深いからね。二人に感化されちゃった?」
「どんな世界でも愛し合う人間を引き裂くことは辛いと思うからな」
「ロマンチックだねぇ」
ブーイオはわざとらしくローブをはためかせ、バルコニーの手すりへと飛び乗った。夜の闇に紛れその姿は見えずらくなる。
「この世界は結末を迎えた。世界を続けるも終わらせるもあとはお前次第だ。…とにかく、早く戻ってこい。いくら時間の進みが遅いからといって、何もしないと上からきられるぞ」
「はいはい。わかったよ。1つの結末は見れたことだし、これからどうなっていくかは…まあ、見守ることにするよ」
アマンダがバルコニーで夜空を眺めていると、後ろから肩にショールがかけられた。アマンダが振り向けばそこには正装をしたウォルフがいた。
「アマンダ様。バルコニーは冷えますよ」
「ウォルフ…もうよかったの?」
ウォルフはじろりとアマンダに睨まれて肩をすくめた。
「いじわるはやめてくださいアマンダ様」
夜会は新王の挨拶に始まり、人々の社交が行われた。身近なものに挨拶するもの、気になる者にダンスを申し込むもの、軽食を口に運ぶもの、庭園など王宮の景色を楽しむものなど様々。その中で美しい容姿をしたウォルフは、アマンダが軽食を見に行った間にその容貌に惹かれた人々に取り囲まれた。その様子を遠くから眺めていたアマンダはヒカリに声をかけられ今に至っていた。
「ふふ…ごめんごめん。ちょっとむかついて」
「むかつ…はあ」
ウォルフは口元に手を当て、少し赤くなった頬を隠すとアマンダの隣に並んだ。そして耳元へと口を寄せた。
「あんまり可愛いことを言わないでください」
「どこがかわいいのよ」
くすくすとアマンダは笑い少しだけウォルフへと体重を預けた。ウォルフは危なげなく腕を回し、その身体を支える。
「…それにしても不思議ね…まさかこんな穏やかな気持ちでこの空を眺めることになるなんて」
今宵は真っ暗な闇の夜。そこには月の姿はなく黄金に輝く星が空を照らしていた。
「これって…」
赤の神が消え去ってから数日後、アマンダはブーイオの部屋にある日記を見つけた。その日記にはアマンダ達と出会ってからのブーイオの記録が記されていた。
『2人の子どもを拾った。1人は白の魔術師、もう1人は銀狼の末裔。魔術師の子は何かの魔法の影響か心が壊れかけているようであった。回復魔法をかけ傷ついたオーラを取り除けば、彼女の心は回復した。何とか命は保たれたが彼女のオーラの色は変わってしまった』
『オーラの色が変わってしまったことに彼女は困惑していたが、どこか嬉しそうだった。聞けば母親と同じ色だという。今後彼女が生きるには不利な色となってしまったが、彼女に魔法をかけた存在に気づかれないためにはそうした方がいいのかもしれない』
『ウォルフの命が短いと告げれば、あの子は泣き出してしまった。どうやらあの子たちは思いあっているらしい。状況を変えることはできるが彼女たちはまだ幼い』
『アマンダの魔法も、ウォルフの武術も段々と安定するようになってきた。このままいけばもうすぐ2人だけでも生きていけるようになるだろう』
『状況を改善するために私は旅に出ることにする。いつまでかかるか分からないが、あとは流れにまかせよう。2人はもう私がいなくても大丈夫だ。少し寂しくは思うが、ここにとどまり続けるわけにもいかない』
日記はブーイオがいなくなった2年前まで続いていた。そこからは白紙のページが続き、最後のページに記載があった。そこに描かれていたのは1つの魔法陣とブーイオからの言葉であった。
『アマンダ。お前がこの日記を見つけたということは、私の目標もきっと達成されたということであろう。私はもうお前たちの前に現れることはない。が、お前たちのことは少々心配ではある。だからここに魔法を残していく。もしお前がこの魔法を発動しても後悔しないというならば使うといい。だがこの魔法には強い代償もあることを忘れるな』
その魔法陣にはウォルフと共に生きられる魔法が込められていた。だがその代わりに魔法使いとして大切な魔力の大半を永久的に失うという代償があった。
「それも全てアマンダ様のおかげです…後悔はしていませんか?」
表情こそいつもと変わらないが、アマンダは抱かれているウォルフの腕に力が入るのを感じた。
「してるわけないじゃない」
アマンダはふわりと笑い、安心させるようにウォルフの頬にそっとキスをした。
「大好きな人と共にいられるのならそれ以上のことはないわ」
その日、闇の中に輝く星に紛れて1つの黄金色の光が天へと昇っていった。そしてその光はいつまでもこの世界を見守った。2つの神に見守られ世界はまだまだ続いていく。
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