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「そうだな。もう少し素直でいてくれれば、私たちももっと可愛がれただろうに。お前はアマンダにしか甘えなかったからなあ」

『えっ…カルラ様!?』

「ふん、変わったなウォルフ。その話し方…まるでアドルフのようだ」

聞こえた声に振り返れば、そこには生前と同じく長く美しい黒髪とその髪と同じ黒の瞳を持ったカルラがいた。だがその口調は以前よりも饒舌になっており、ウォルフの知るカルラとはずいぶん違った印象に思えた。

『カルラ様こそ…それよりも、私が見えるのですか?』

「ああ、見えるさ。あれからずっとお前たちを見ていた…大きくなったな、お前も、アマンダも」

カルラは今までに見たことがないような慈愛の微笑みを浮かべウォルフを見た。

『やっぱりなんだか今までのカルラ様とは違うように感じます』

「まあ、そうかもしれないな。ここは特別な場所だから」

カルラによればこの白い世界はウォルフたちがいた世界とは少し離れたところにある空間で、ここでは過去、現在、未来の様子を見ることができるという。カルラは星に願いを唱えた時からここに存在し、現在までウォルフやアマンダを見守りながら過ごしたという。

「ここは肉体を持つものは来ることのできない世界だ。だからこそ人は全てのことを感じ理解することができるし、感じたままを言葉にするようになる…とはいっても、お前はまだ肉体と繋がっているから感覚は異なるか」

『っ…肉体…ということは、私はまだ生きているのですか?』

「ああ、お前の身体はまだ生きている。赤いのに操られてはいるが確実にな」

アマンダにはこの世界に関する全てのことが見えていた。過去になぜこの世界が作られたのか、今ある世界で何が起きているのか、今後世界がどのようにめぐっていくのか、そしてこの世界を作った神のことさえも。

「私たちは今も昔も神という存在に翻弄されているんだ。全く、忌々しいことにな。…ウォルフ」

『!カルラ様!?』

ウォルフはカルラに抱きしめられていた。幼い時以来のその感触にウォルフは驚きとともに懐かしさを感じた。

「すまなかった。仕方なかったとはいえ、お前に魔法をかけるのはやはりもっと慎重になるべきだった。こんなにお前が思い悩んでしまうなんて思わなかった…」

『それは…』

「お前があの赤いのにつかれてしまったのもそのせいなのだろう?しっかり育てると決めたのに、途中で放り出してしまってすまなかった」

ウォルフは狼であり人間である。それはカルラの魔法薬により魔法をかけられたから。だがそれは不完全なものだった。身体能力は人より優れており、嗅覚や味覚も敏感だが、寿命も狼のように短く到底人間と共に暮らしていける年月ではない。魔法が解ける新月の夜は元の姿に戻ってしまい、人の言葉をしゃべることもできない。カルラはこの世界で2人を見守りながらずっと考えていた。あの時の判断が誤っていたのではないかと。アドルフのいうようにもっと他に方法があったのではないかと。

『…確かに私はこの体になって思い悩んでしまうことが増えました。けれどそれはこの体になることができたからこそ悩めるようになったことなんです』

ウォルフは赤の神と接触したあの時、確かに絶望を感じていた。それは自分の残りの時間が短く、アマンダと一緒にはいられないことを感じてしまったからだった。こんなにみじめな気持ちになるならば、いっそ人間のことなど知りたくなかったとも。だが、あの時カルラの魔法薬によって人間にならなければ、ウォルフはアマンダと共に生活することなど出来なかっただろう。こんなに幸せな時があることを知ることもできなかった。仲間を失った悲しみを抱えながら1人で孤独に生きていたかもしれない。カルラの意図を知り、ウォルフはより一層カルラに感謝しなければいけないと思った。

『私はこの体になれたことを後悔などしていません。だから謝るなんてあなたらしくないことはやめてください。私は狼に生まれてきた自分の運命が心底悔しかったのです。けれど人間に慣れて色々なことを知れた。短い中でも幸せになれたんです』

「…そうか。ありがとうウォルフ。お前をこんな風にしてしまった私を許してくれて」

カルラはしばらくの間ウォルフを抱きしめていた。ウォルフも記憶にあるよりも随分と小さい、だが不安なことも辛いことも全てを包み込むように温かい、久しぶりのぬくもりにそっと体をゆだねていた。

「それにしても本当に大きくなったなウォルフ。アドルフよりもでかいんじゃないか?体もこんなに筋肉質になっちまって。あんときの美少年っぷりはどこにいったんだよ」

『別にこのくらい普通ですよ。あの頃の何もできない軟弱な私ではないです』

「ここは全てが見えるっていっただろ?お前があの師匠ってやつに鍛えてもらってたことくらい知ってるんだよ」

アマンダの師匠ブーイオは魔法だけではなく武術にも精通していた。ウォルフはそんなブーイオに、アマンダが寝ている夜に隠れて指導をしてもらっていた。

「これならアマンダのこともしっかり任せられるな」

カルラはウォルフの身体を離すとウォルフの手をしっかりと握り、真剣な顔でウォルフに向き合った。

「ウォルフ。あの子のことを頼んだぞ」

『ですが私は…』

「大丈夫だ。この世界の神…いや、この世界にきた神はお前たちには甘い。きっと悪いようにはならない」

『それはどういう…』

「ほら、早く行け…お前ならもう大丈夫だ」

カルラがそういった瞬間、ウォルフの意識は遠のき、その身体は消えていった。

「いったか…」

カルラと話していた時間は長く感じたが、実際はそんなに時間は変動していない。時間という概念もここには存在しない。ここはその神の予想していなかった部分。条件を持って作られた世界だ。本来ならばここにカルラは存在しないはずであったが、かの神の意図によりカルラはここに呼ばれた。

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