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「魔女よ、そなたはどう思う」

ヘリオスはアマンダへと問いかけた。人間たちと同じ存在でありながら誤解され嫌われる存在。人間たちは真実も知らないまま黒の魔女を嫌い、神話に踊らされている。

「人間たちは愚かだ。一時の感情にまかせ行動し、自分にとって有用なものに縋り、邪魔なものを排除しようとする。そなただって被害者であろう。人間のことを憎いとは思わないのか」

アマンダはその言葉に一瞬動きを止めたが、やがて口を開いた。

「…人間を憎いと思ったことがないと言えば嘘になります」

アマンダはこの町に来てから黒の魔女ということで人々からいわれのない言葉をかけられることもあった。何か悪さをしたわけでもないのに、その髪色と瞳の色だけで責められるような目で見られた。魔法屋を始めた時だって最初のうちは誰も来なかった。実害こそないが店の前でひそひそと噂をする人を見ることもあった。けれどそんな中でも師匠は人々のために魔法屋を開き続けた。アマンダのことをからかう子供からウォルフは守ってくれた。そして段々とそんなアマンダ達のことを人々は受け入れてくれるようになった。その数は少ないものだったが、少しずつお店には人が入るようになった。

「確かに人間というものは思い込みから全く見当違いな行動を起こしてしまうこともあります。時にそれは残酷なことも。ですがそのことを全て憎んでしまってはまたあらぬ行動を起こすかもしれません」

『決して人を憎むなとは言わない。そんなことをできる人間は少ないのだから。だが人を憎んだ後、人から憎まれるような行動はするな。自分の価値を下げるような行動はするな。行動する前に考えてみろ、自分が正しいのかどうか。分からないなら信頼するものに聞け。後悔するような行動なら最初からするな』

これは師匠から言われた言葉だ。アマンダがまだ町に来て多くの人々に慣れない頃に言われた言葉。その時のアマンダにはその言葉は単なる綺麗ごとにしか思えなかった。人から嫌な言葉を言われているのに黙っていろというのかと。だがその後の師匠の行動を見ていて何となく理解した。師匠は誰に対しても態度を変えなかった…まあ師匠らしくその態度はぶっきらぼうであったが。師匠は腹が立っていようが、嫌味を言われようが必要な人には商品の説明をし、魔法具を売っていた。不具合が起きれば魔法具の修理を請け負い、実直に魔法具の開発にも取り組んでいた。その行動の積み重ねが人々との間に信頼を生み出していた。そしてその信頼があったおかげでアマンダはこうして今も魔法屋を続けられている。

「私は人を憎むよりも、その時間を大切な人たちのために使いたいと思います。私には誰かを憎むよりもそちらの方が重要なんです」

アマンダはヘリオスへと探知魔法をかけ、赤い石のありかを特定した。ヘリオスの懐へと手を伸ばす。

「だからこそ私は私の大切な人たちを辛い目にあわせるあなたをこのままにしておくことはできません。私たち人間が勝手にあなたたちの存在を捻じ曲げてしまったことは申し訳なく思いますが、このまま人間を滅ぼそうとするならばここにいてもらうことはできません」

アマンダはヘリオスの懐へと手を入れ赤い石を取り出した。ヘリオスは顔を歪ませた。

「そうか…それは残念だ」

「っ!?」

突如ヘリオスの瞳が赤く光ったと思えば、後ろからアマンダの手を掴む者がいた。アマンダがヘリオスの懐から取り出した赤い石は床へと落ち、目の前のヘリオスは気を失い脱力した。アマンダの拘束魔法がなければ椅子から崩れ落ちていただろう。

「確かにそなたは普通の人間とは違うようであるが、私たちの邪魔をするなら同じこと。我らの存在を否定する存在がいる限り、私たちの心は癒えぬのだ」

その言葉を発したのはアマンダの手を掴んでいるウォルフであった。だがその纏う雰囲気や口調はウォルフとは似ても似つかない。

「ウォルフ…じゃない。あなたは赤の神ね?」

「もう少し驚いてくれても良いのではないか?興がない人間だな」

ウォルフはアマンダを壁際へと追い込んだ。その両腕を後ろからつかみ上げ身動きを取れなくした。アマンダの掴まれた皮膚は少し赤くなっており、強い力でつかまれていることが分かる。

「ウォルフは口が悪いときはあるけれど私にこんな乱暴をすることはないわ」

「なるほど。そなたとこの狼にはかたい信頼があるのだな。だからこそ、この狼は絶望に塗りつぶされようとしていたのか」

「…絶望?」

赤の神は各々、自分の持つ気質と同じ感情を持つ人間に敏感だ。そしてヘリオスについた赤の神は人々の悲観的な感情を読み取る能力に長けていた。

「この狼に移ってみてわかるが、人間とはやはり何とも残酷な生き物だ。なるほど、この狼も被害者というわけか」

「何を言って…」

困惑するアマンダに分からないよう赤の神はうすらと微笑んだ。悲観。それは強すぎれば人間を機能させなくしてしまう負の感情の1つ。悲観的でいつまでもその辛さに捕らわれてしまう人間は、やがて絶望を感じ、怠惰へと移り変わる。

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