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「アマンダ、あの時計を見てみろ」

ブーイオは店の中に置いてある1つの柱時計を指さした。

「あの時計にはいくつの針がある?」

「3つ」

「そうだな。じゃあその針のそれぞれの意味はわかるか?」

「1時間ごとに動く針と、1分ごとに動く針と、1秒ごとに動く針」

「そうだな。じゃあ4本目の針は存在すると思うか?」

「4本目の針?そんなのないよ」

「それはなぜだ?」

「だって時計に4本目の針がついてるものなんて見たことないもん」

「見たことないだけであるとは思わないのか?」

「そりゃ…探せばあるかもしれないけど…」

「まあ、普通の時計だったら3本だろうな。そういうことだ」

「…どういうこと?」

「時間には1時間、1分、1秒と分かりやすい区切りがある。そして時計はそれを見える形にすることで私たちに時間というものを教えてくれている。だが時間というものは3つの針のみで表せるものではない。1番区切りの多い1秒の中にも時間は存在している。見えないが確実に存在しているもの。それが鍵だ」

「…よくわかんない」

ブーイオの説明を聞いてもなお、その時のアマンダには結局ブーイオの部屋のことは分からなかった。それから数年後、ブーイオがいなくなってからアマンダはその部屋の痕跡を見つけた。それは普通なら見過ごしてしまいそうな壁にできている小さなくぼみだった。そこからは小さな頃には分からなかった魔法の気配がした。そしてカウザから伝言と預かりものを受け取ったときに察した。手のひらサイズの丸い塊をそのくぼみへとはめ込めば、そこにはブーイオの部屋と思われるものが現れた。そこには赤の神に関する多くの資料が隠されていた。


「これは月の剣と同じ材料で作られたもので、赤の神の力を封ずる力があります。これで魔法は使えなくなるはずです。あとは赤い石を回収しこの箱の中へと入れれば、赤の神は完全に封印されるはずです」

アマンダはヘリオスの口の拘束のみを解いた。先ほどからヘリオスには動きがなかった。アマンダがかけた魔法を解こうとするそぶりも、拘束をといたこの瞬間も何かをしようとするそぶりはなかった。そのヘリオスの様子がアマンダ達には不気味に感じられた。

「そうですか…ありがとうございます」

ソルはヘリオスの前に立った。

「父の体を返してもらいます。あなたもこれ以上何もできないでしょう。おとなしく赤い石の居場所を教えてください」

「ふふ…ふはははは」

ヘリオスは下を向きながら笑った。そして唐突に顔を上げるとソルへと視線を合わせた。

「この国の王子よ。教えてやってもいいが、お前はそんなに悠長に私が答えを言うのを待っていていいのか?」

「…?どういうこと?」

『ドォーン!』

その時、窓の外から大きな音がした。その音はほど近い、ちょうど先ほど通ってきた広場くらいの位置から聞こえた。

「なっ!」

「ソル様、大変です!」

そこには先ほどまでの穏やかな景色はなかった。広場には武器を持つ人間が溢れ、互いを攻撃しあっている。中には魔法を使う魔術師もおり、広場近くにあった建物はすでに半壊の状態となっていた。先ほどの音はその建物が崩れた音だったのだろう。

「貴様!一体この国に何をした!?」

ソルはヘリオスの胸倉をつかみ詰め寄った。ヘリオスはそんな状況であるにもかかわらずへらへらと笑っている。

「どういうことも何も最初に言っただろう?私たちの目的はこの国の人間たちを滅ぼすことだと。別に私たち赤の神がいようといまいと人間たちが滅んでしまえばよいのだ」

ヘリオスたち赤の神はこの国の人々に魔法をかけた。この国の人間たちは昔から偽りの神話の存在を重要視していた。魔女を忌避し、魔術師たちを尊ぶ。赤の神はその人々の差別の心につけいった。旅芸人たちの演劇を利用し、人々に精神操作の魔法をばらまいた。この魔法は2つの条件が満たされることにより発動する。1つ目の条件は施された人間が負の感情を抱くこと。魔方陣をその身体に刻まれてから1度でも負の感情を抱けばその魔法はその人間へと定着し、準備状態となる。2つ目の条件は1つ目の条件をクリアした状態で特定の詠唱を聞くこと。赤の神は今回、王の護衛をしていた兵士を洗脳状態とし外へと放った。

「人間とは難儀なものよ。他人のことを糾弾する己の身も醜いということにも気づけぬ」

赤の神が施した魔法には1つだけ回避する方法がある。それは負の感情を抱かないこと。妬みや嫉みなど人を羨んだり憎んだり、傲慢に他人を見下したりする感情を抱かないことで精神操作魔法は自然と消えていく。

「っ!アマンダさん赤の神のことは頼みます!私は広場へと向かいます!」

人々の混乱を鎮めるためソルは外へと向かった。このまま時間が過ぎれば広場だけではなく広範囲へと被害は広がっていくことであろう。外へと放たれた護衛兵士をとめ、混乱している人々の心を静めなければこの騒ぎは収まらない。

「わ、私も!」

続いてヒカリ、サジェス、カウザ、レーブも扉の外へとでていった。

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