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「はあ、これは片付けが大変ね」
火を全て消した後、アマンダ達はしばらくの間シンを警戒していたが、日が昇ってもその姿は一向に現れなかったためその場は解散することとなった。徹夜明けに片付け作業をする気にもなれず、アマンダ達は2階のリビングへと移動しそこで眠った。昼も過ぎた頃、起き始めた2人は遅い朝食を済ませ3階へと上がった。
「床や壁は師匠の魔法に守られていてよかったものの、家具やこの植物たちの残骸は酷いですね」
「ほんと面倒な魔法を使ってくれたものだわ」
アマンダとウォルフが片づけをはじめてから半刻ほどたった時、店を訪れる者がいた。
「あの、私たちもお手伝いできるかと思ったので」
ヒカリたちは寮に帰った後、アマンダ達と同じく睡眠をとりまたこの場へ戻ってきてくれたようだった。
「ありがとうございます」
彼らは協力して残骸たちを片付け始めた。一国を担う優秀な者たちがこのような作業をしていると学園の者たちが知ったら、黙っていない者もいるだろう。だが、彼らの中にそれを気にするものはいなかった。
「ああ、なるほど~。そうなっていたんだ」
「どうしたんですかムーフォウさん」
「いや、昨日シンがどうやってこの部屋全体に植物を生やしたか気になってたんだけどね~。植物の種に魔法陣を描いてたみたいだよ」
「これを気付かれないように四方に撒いていたと…ここまで小さく精密なものを描くとはすごい才能ですね…」
「オーラに歪みはあったけど僕が興味を持つくらい彼の魔法のセンスはすごかったんだ~」
アマンダとレーブは魔法の話について気が合うのか話を盛り上がらせていた。
「そういえば彼とはその後会いましたか?」
「いいえ。今日寮監に聞いてみたんですが、外出届も出ていないのに昨晩から姿が見えないと言っていました」
ソルは寮に帰った後、1番に寮監へと確認をとってみた。だがシンは部屋にはおらず、朝になっても帰ってこなかったという。
「一体どこへ行ったのでしょうか」
「あの怪我でしたからそんなに遠くへはいけないとは思うのですが。居場所が分からないというのは気になりますね」
シンという少年は魔女に対して偏見のない数少ない人間だと思っていた。だがその実態は、10年前にアマンダの両親を死に追いやった赤の神。新月というアマンダ達にとって1番大変な時期が去ったとはいえ、彼らに近づく危険が減ったとはまだまだ言えない。
「それにしても彼が言っていた言葉が気になります」
「俺たち…ですか」
シンは会話中、何度か“俺たち”という言葉を使っていた。それはシン以外にも仲間がいるということだ。
「もし彼らが本当に外見を変えずに人の意識を乗っ取ることが可能だとしたら、私たちの近くにもすでにいるかもしれないということです」
「確かにその可能性はないわけではない」
「私たちにはそれを確かめる方法もありません。直接聞いて教えてくれるわけではないでしょうし」
「そうですね…」
カウザが使っていた月の剣なら赤の神を判別できそうなものだが、いきなり斬りつけるわけにもいかない。
「そんなんじゃねーよ!」
『ドッターン!』
「ん?」
急な怒声と物音にウォルフとソルが振り返ると、カウザが何やら1人で焦る様子が見えた。カウザの前にはアマンダとレーブとヒカリがいて、3人とも埃がたっている部屋の隅を見てきょとんとしている。
~数分前~
「そういえば、皆さんとヒカリさんはどういった仲なんですか?このお店までも何も聞かずにきてくれたようですし」
アマンダはレーブと話していてふと気になったことを聞いてみた。カウザは以前、行き先も分からず彼女についてきたというようなことを言っていたし、学園に通い始めてからそんなに時間もたっていない彼女をみんながそんなに信用できるのは何故だろうと思ったからだ。
「僕はヒカリといるといつも楽しい事が起こるからかな~?ヒカリは行く先々で面白いことをしてくれるんだ。例えば水属性魔法の授業で1つの種を畑一杯のジャガイモに変えてしまったり、土属性魔法で地面を割ってしまったりね」
「あれはちょっと失敗だったよね。地面に関しては先生に怒られちゃったし…」
床のがれきをどけながら楽しそうに笑っているレーブとは反対に、壁の絵を拭いていたヒカリは少し落ち込んだ様子だった。
「私はヒカリといれば有意義な時間が過ごせるからですかね。彼女は学ぶことに熱心ですし、話が合います。ここにきたのは偶然でしたが、収穫もありましたし。そういえばアマンダさん。私の義母と弟がお世話になったそうで…」
話を聞けば、なんとこの間『近め』を落とした少年がサジェスの弟だったそうだ。店員さんは大丈夫だと言っていたけれど表情が固く、申し訳ないことをしたとサジェスには言っていたらしい。ウォルフには少し注意しとかなければとアマンダは思うのだった。
「俺はヒカリが心配だったからだ。ヒカリはこの世界に来てからまだそんなに経ってない。慣れないことも多いだろうから俺は近くにいようと思ったんだ」
「確かにわからないことはすぐにカウザ君に聞けるから助かってはいるね」
「だろ?」
カウザは思わずといったように笑みをこぼした。そんなカウザを見て、サジェスは埃を掃きながら事実であろうことを口にした。
「…どうせ下心があるのでしょう。ばればれですよ」
「なっ!そんなんじゃねーよ!」
その時、掃いていた埃の中に何かが見えたサジェスは手を伸ばすように前かがみになっていた。カウザは焦ってその背中を軽く押した。
『ドッターン!』
サジェスは家具や植物の残骸と埃の山の中に頭から突っ込んだ。最初は慌てていたカウザも、それを見て顔を青くさせた。




