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「ふざけんなよ。僕の魔力を断つなんて。なんだよその剣」
赤の神はシンの身体を自分の魔力を流すことで制御していた。月の光は赤の神の弱点ともいえるもの。そのため、月の光が赤の神の魔力を断ち切ったのだった。
「大体誰からも羨ましがられるくらい優れているくせに、そんなに人数集めてよ。僕1人にバカみたい。ああ、そっか、1人じゃ何もできないからそんなに集まっているんだね。結局人間なんて僕に比べたら劣っている存在なんだよ」
「ああ?何1人でぶつぶつと呟いてんだよ。気持ちわりい」
シンはカウザをぎろりと見た。
「ああ、やっぱり人間なんて価値のない存在だ。僕たちの前にいちゃいけない存在なんだよ。相手のことなんかちっとも考えやしない。人を馬鹿にして、相手を見下して。僕をこんなにみじめな気持ちにさせる。ああ。やっぱり。君たちなんていない方がいいんだ」
「ぶつぶつ言ってないでかかってきやがれ」
カウザはシンの足にめがけ剣を振り下ろした。その瞬間、部屋に炎風が吹き荒れた。
「…っ!」
カウザは何とかシンの側から遠ざかった。少し炎に当たってしまったが火属性魔法と相性の良い血筋の彼にさほどのダメージはなかった。立っていられないほどの風とその熱に、アマンダとヒカリは吹き飛ばされそうになったがウォルフとソルがそれを支えた。身体強化魔法をかけていた彼らは何とかその風をやりすごすが、炎が部屋の植物へと燃え移った。
「カウザ!相手を刺激しないでください!」
「俺は本当のことを言っただけだ!」
「あなたの言葉は正直ですが、その正直さは時には控えた方が身のためです!『我が身に宿る水の意思、我が命に従い我らを守り給え、守護』」
サジェスは水属性魔法で動く防護壁を張った。一同は一旦、その中へと非難する。
「はあ、何とか助かりました。ですが、これで私の魔力はもうほとんどなくなりました」
「サジェスさん、ありがとうございます」
「それにしてもどうしましょうか。カウザが刺激したことによってあちらも完全に火がついてしまったようです。まあ、そのおかげでこの眼鏡も必要なくなるのですが」
シンは炎の中で目を見開いてぶつぶつと呟いている。
「何にも知らない小僧のくせに生意気言いやがって。魔力が暴走しちまったじゃねーかよお。この体気に入ってたのに。もう使い物にならねえじゃねーか」
シンは魔法を使う際に負傷したのか、至る所の皮膚が焼けて赤くなっている。
「早くこの炎を消さないと。近づけないどころかこちらも無事ではいられません」
「お前の得意な水属性魔法でどうにかならねーのかよ」
「それは無理です。あの炎を消そうとすれば結構な魔力量を使いそうですから」
「2階へ行けば『みずッキーニ』もあるんですけど…」
アマンダは入口の方を見た。だが、部屋の入口は先ほどの蔦で塞がれてしまっていた。『みずッキーニ』とは野菜の1つで、ズッキーニのような見た目をした植物だ。横に切れば洪水のように水が溢れだし、縦に切ればその水が止まるという何とも不思議な植物。そしてその味もみずみずしく、生でも絶品である。
「こうも入り口を塞がれていては移動ができませんね」
そういっている間にますます火の勢いは強まってきている。
「…!そうだ!」
ヒカリは高1の時にあった火災時の避難訓練を思い出した。火が燃え続ける際に必要なものは3つ。それは可燃物と酸素供給源と熱源である。この3つが揃い反応し続けることによって火は燃え続けることができる。ならばその3つのうち、どれかが揃わなくなれば火は消えるということだ。そのうちで今回止められそうなものは…
「酸素!酸素だよ!どうにかして火の元に空気がいかないようにできないかな」
「そうか!それなら!『風よ、我が意思に従い流れを作れ』」
レーブは木属性魔法を利用し、室内の空気の流れを変えた。火の回りに風の層を作り、酸素をいかせないようにしたのだ。炎は段々と小さくなった。
「これなら」
ソルは土属性魔法を使い、残った火種を覆った。
「やった!消えた!ありがとうレーブくん、ソルくん」
「っ!あいつはどこ行った!」
「えっ?あれ!?」
そこにはすでにシンの姿はなく、燃えた植物の残骸とその間から開いている窓だけが見えた。
「ちくしょう…」
シンは左足を引きづりながら暗い夜道を歩いていた。左腕は段々と動くようになってきたが、先ほど斬られた左足とやけどでただれた皮膚は相当なダメージをくらっていた。この体の主はどうやら木属性魔法の素質があるようで、赤の神を宿すには相性が良かったが、その能力とは相性が悪かった。ただの火傷でも相当なダメージであった。
「ずいぶんな格好だな」
その時、前方の道の陰から声がした。シンは身構えるがその男の正体に気づき警戒を解く。
「なんだよ、お前か…」
「計画通りにはいかなかったか?」
男はシンの姿を見てくすくすと笑っている。
「笑ってんじゃねー。あいつら…今度会ったらただじゃおかねえ」
シンは男を追い越し、背中を見せた。男はニヤリと笑いシンのイヤリングへと手を伸ばした。
「一度負けたやつが、その姿じゃあ見苦しいだけだよ。しかもこんな隙だらけではまた負けるさ。どうせなら俺がお前の力を使ってやるよ。光栄に思え」
男はそのままシンのイヤリングを奪った。
「傲慢なやつ…め…」
シンの身体は静かに崩れ落ちた。男はイヤリングをポケットへ入れると、先ほどの姿とは別人のように毅然とした態度で夜道を歩いて行った。




