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「これはそんなに簡単に解決する問題ではありません。このままではあなたたちにも迷惑がかかってしまいます。私は現状を把握するためにもまだ王都に残りますが、あなたたちは王都の外に出てください。今ならまだ間に合います。アマンダとウォルフを連れて早めに離れてください」
カルラは数秒黙った後、アドルフから視線を外し、先ほど騎士達が見えた方へと行こうとした。
「ああ、そうかい。あんたは好きにすればいい。俺は本物のアドルフを探しに行く」
「カルラ!こんな時までふざけたことをいうのはやめてくださ「ふざけてんのはアドルフの方だろうが!」っ!」
カルラはアドルフの胸倉につかみかかりアドルフへと顔を寄せる。
「迷惑かかるから逃げろだあ?アドルフはあの時の俺にそんなこと言ったかよ!困っている時はしっかり言葉にしろと、例え俺が何をしていようとも自分は味方だと言ってくれたじゃねーか!俺だってお前とおんなじだよ!なのに逃げろだなんて…んなの納得できるわけねーだろ!」
「ですが…」
「ですがも何もねえ!こんな言い訳ばっかの弱っちいやつなんか俺が惚れたアドルフじゃねえ。俺はいつだって堂々としていた頼りがいのあるかっこいいアドルフに惚れたんだ。お前のように弱音しか吐かないやつは偽物だ。俺は偽物のアドルフになんて用はない。邪魔だからどけっ!」
「カルラ…すみませんでした。だから、泣かないでください」
カルラの手にはもう、力は入っていなかった。その目にいっぱいに涙をため、精一杯アドルフを睨みつけている。一筋の涙がカルラの頬の火傷跡に伝った。
「そうですね。すみません。私が悪かったです。あなたのことを信用していなかったわけではないんです。ただ、今の私は、あなたたち家族のことが何よりも大切なんです」
「家族だったら支え合うもんなんじゃねえのかよ。ふ、夫婦だったらお互いに支え合って苦しみも喜びも分かち合うもんなんだろ」
「ええ、そうですね。あなたに教わるなんて、私もだいぶ追い詰められていたようです」
アドルフはそういって微笑んだ。その表情は先ほどとは違い何かが吹っ切れていた。カルラはふてくされたように鼻をすすりながらもその表情に安堵するのであった。
「本当はこんなことは言ってはいけないことと分かっているのですが…、あなたが来てくれて本当に良かったです。あなたが私の味方をしてくれるというだけで、こんなに心強いことはありません」
「ふん、分かればいいんだよ。それに別に言っちゃいけないことなんかじゃないさ」
カルラとアドルフは広場から移動し、アマンダとウォルフが待つ家に帰ろうとしていた。だが、人が多くなかなかうまく進むことができていなかった。そんな逃亡の最中にも、アドルフの不評を流す演説者たちはそこかしこにいた。
「あ~、めんどくせえ。魔法でドカンと1発やっちゃだめか?」
「それは得策とは言えませんね。私は国王や国民を守る騎士ですしそんなことはできません。第一、あなた、今日は1番魔法が使いにくい日じゃないですか。この間魔力量を間違って倒れたことを忘れたわけではないでしょうに」
「…まあ、そんなこともあったよな」
「あなたという人は…」
はあーとため息をつくアドルフの横で、カルラは何かきらめくものを見た。
「なあ、アドルフ。あいつらちょっと変だと思わないか?」
「何がですか」
「あいつら…みんな同じ色の石を持ってる」
先ほどカルラが見た演説者は両耳に赤い石のピアスをしていた。それから今さっき見た者は、腕に、その前は首に…それぞれ1つずつ、赤い何かを身につけていた。
「きっとあれに何かが隠されているはずだ」
「確かに…ですがだとしても、彼らにうかつには近づけません。それに彼らの正体を探るより先に、子どもたちの安全確保が優先です。彼らはきちんと家で待っていますか?」
アドルフにはカルラのように感知魔法を広大に広げられるような魔力は持っていない。だから子どもたちの安否はアドルフにはわからない。
「おい!ちょっと待て!アマンダとウォルフが家とは別の方向に移動してる!」
「それは本当ですか!」
カルラが感知魔法で拾ったアマンダとウォルフの信号は家から東の方向に進んでいる。そちらは広場から広がる商店街がある方向で、人の密集している方向だ。
「ちっ、こんな時にあいつらは!」
「いえ、もしかしたらこれは私たちをおびき出すために連れ去られた可能性があります」
アマンダはともかく、ウォルフは年の割にしっかりとした子供である。アドルフやカルラの話を無視し外に出るとは考えづらい。
「それは急がなきゃならねえじゃねえか」
カルラは魔法を発動させると黒い光の中に銀色のたてがみをもった銀馬が現れた。それは空間魔法と形成魔法を組み合わせたカルラの魔法であった。
「アドルフ!乗れ!」
金属の中で最も電気伝導率が高い物質は銀である。その銀で作られた銀馬は普通の馬とは比べ物にならないくらいとても速いスピードで移動する。
「いたぞ!あそこだ!」
人々はまるで何かにとりつかれたかのようにカルラとアドルフを追いかける。だが、銀馬のスピードについていけるものは誰もいない。
「どこだ!アマンダ!ウォルフ!」
カルラは感知魔法を最大まで広げるが、夜が近づいている影響かなかなか二人の居場所がつかみづらい。
「くそ!どこにいるんだ!」
「あそこだ!」
アドルフが指をさしたのは1人の演説者がいる付近。それは先ほどの赤いピアスをした男だった。




