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「カルラ、あまりむやみに外に出ないようにしてくださいね」

「ああ、わかってる。気をつけてな」

「パパいってらっしゃい!」

「はい、行ってきます」

その日は雲もなく良く晴れた日だった。アマンダの父アドルフは、この王都を警備する騎士団の騎士団長であり、その日もいつもと同じ時刻に、いつもと同じように出かけていった。いつもと違ったのは、その日がちょうど新月の日だったことと、彼が愛する妻の手作り弁当を家に忘れてしまっていたことだった。

「ん?…あいつ、私の作った弁当忘れていってるじゃねーか!」

お昼も少し過ぎたころ、妻カルラは夫の失態に気づき激怒した。そしてその弁当をもって騎士団へと向かった。

「ウォルフ!アマンダのことは頼んだ!私はアドルフに弁当届けてくるから」

「だけどアドルフはむやみに外に出ないようにって言ってたじゃねーか」

「わかってるさ。これを渡したらすぐに戻ってくるから。そんなに心配するな」

「心配なんかしてねーよ!…けど、早く戻ってこいよ。アマンダが起きて泣き出したら、俺じゃ泣き止ませられないから」

「ああ。分かった。すぐ帰ってくるよ」

そういって黒いローブを羽織り、カルラは出かけていった。だけどその後、カルラがこの家に戻ってくることはなかった。あの時もう少しウォルフが必死に止めていれば、今ある未来も少しは変わっていたのかもしれない。


『アドルフは…多分こっちの方にいるか』

カルラは重度の方向音痴であった。だからカルラは町全体に感知魔法を施し、ある特定の人物にマークをつけることでその人物の居場所を特定していた。イメージとしては上空から撮った王都の建造物に動く人物が分かる丸い駒が表示してあるようなものだ。以前迷子になったウォルフを探し出したのもこの魔法だった。カルラにとって騎士団の詰所の場所はわからないし、覚えようとも思わないので、直接アドルフを探していた。

『…ん?なんだこの人だかり』

見るとそこは多くの人が集まる広場だった。いつもであればこの時間は閑散としていて、ここから続く、むこうの通りの商店街の方が人は多い印象だった。以前、アドルフと買い物に出かけた時も確かそうだったはずだ。

『何かあったのか?』

カルラはそれが少し気になり、様子を見ることにした。広場の中央には少し背の高い朝礼台が置いてあり、誰が使ってもいいように演台のようなものがのっていた。そしてその前に1人の男が立っていた。男は赤みがかった茶髪に赤銅色の瞳を持っており、ひょろりとした体格をしていた。落ちくぼみくまのできた痩せこけた頬、お世辞にも綺麗とは言えない服、それでも耳に1対の赤い石のついたピアスをしていたのが妙にアンバランスであった。男はおどおどとした態度ながらもその口調ははっきりとしていた。

「私は、そこの街道の一角で魔法具売りをしていたものです。こんな身なりですが、立派な魔術師として魔法具売りをしていたのです。それなのに…それなのに…騎士団のアドルフ団長からお前の魔法具は本物ではないと…こんなところで売っている魔法具など劣化品だと…丹精込めて作った魔法具を批判されたのです。そればかりでなく、アドルフ団長は私の魔法具たちを破壊し、私の職を奪ったのです。おかげで私は家族を養えなくなり、重い病気にかかっていた妻も娘も…なくしました。私は…アドルフ団長のことを一生許せません。こんな人が騎士団の団長をしているなんてありえない!昔はとても正義感が強く、とてもいいひとだったと聞きました。そんな彼がなぜそんなことになっているのか…。それは彼の迎えた女、あの火傷の魔女が彼を操っているからではないでしょうか!こんなことはあってはならないことです!」

「はっ!?何を『静かに』っ!!」

カルラが叫ぼうとしたその時、後ろから誰かに口を塞がれ、誰もいない狭い裏路地へと連れていかれた。カルラはそれが誰かわかっていたため抵抗せずついていった。

「カルラ、なぜこんなところにいるのですか?むやみに外に出ないようにと言っていたではありませんか。それにアマンダとウォルフのことはどうしたのですか」

そこにはカルラと同じようにカルラ特製の『隠れみのローブ』を羽織ったアドルフがいた。カルラに話しかけながらも周りの様子を気にしている。

「んなことより!あれは一体何なんだよ!アドルフのことを悪く言いやがってあの男!」

その時、カルラはアドルフに隠れるように壁に押し付けられた。裏路地の入口の方では、アドルフと同じ騎士団の騎士が周囲を見渡しながらバタバタと走っていた。

「カルラ、もう少し声を抑えて。気づかれてしまいます」

「ご、ごめん…」

カルラは少し赤くなっていた。アドルフとこんなに近づくのは久しぶりだったから。数秒後、慌ててアドルフの胸を押すと、睨むようにアドルフを見た。アドルフは微笑んでいたがその表情はどこか悲しげだった。

「こんな時だからでしょうか、あなたのことが一層愛おしく思えます」

「何馬鹿な事言ってんだ。…そんなことよりなんで騎士団長のアドルフが同じ団の騎士から隠れてるんだよ。おかしいだろ。まさか騎士のみんな、あの変な男の言うことを信じちまってるってのかよ」

アドルフはふーっと1度大きく息を吐き出すと、少し俯き、髪を掻き上げた。

「そうですね。私もよくは分かっていないのですが。その通りです。私が今日騎士団の詰所へ行くと、すでにあの噂は広まっていました。どうやらさっきの人物以外にも似たような被害にあったという証言が私の休んでいる間にそこかしこであったようです」

アドルフはひと呼吸置くと、カルラを見つめた。

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