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「今お話しさせて頂いた中の赤の神がシン・アンダーウッドではないかと私たちは思っています」
「なっ…!」
ウォルフの言葉にアマンダとヒカリを除いた全員が絶句した。
「まさかシン君が…ってちょっとまって、ていうことはシン君が神様ってこと!?」
ヒカリは動揺した。ヒカリは神様というものを信じていないわけではないが、実在する存在だとは思っていなかった。ヒカリの世界では神様とは宗教信仰の対象で、神社へのお参りとか、何かあった時の神頼みなど、いるかもしれないと想像は出来ても自分たちの手の届かない存在だと思っていた。だが、彼らにとっての神とは、手に届く、それこそ身近な存在で、本当に生きていた人間だったということだろうか。
「シン・アンダーウッドが神様というよりは赤の神の末裔がシン・アンダーウッドであるという方が正しいでしょうか」
サジェスが言うには、人の中でも特別な人間を神としており、彼らは人間と同じように暮らし、その中で人と交わり子を持つものもいたという。
「僕たち魔法使いの先祖はそれぞれの神だったって話だしね~」
王族のソルをはじめとするサジェス、カウザ、レーブは全員黄の魔術師だ。彼らは遡れば全員が黄の神の末裔であり、その力を受け継いだ存在である。
「そうなんだ…。じゃああの時言われてた赤の神っていうのがシン君だったっとすると…私がこの世界に呼ばれた理由はシン君を倒すためってこと…?そんなのあり?」
「それはどういうことですか?」
ヒカリは1人で慌てているが、周りは首をかしげている。
「私が召喚された予言だよ!」
まばゆい光と共に呼び現れたる清き者、その力をもってこの世界を救わん。この予言は誰もが知っている予言だが、事実その意味を知っている者は少ない。この清き者がどのようにしてこの世界を救うのか。実際に清き者が召喚されたことはなかったし、この世界の危機というものもそもそも世間には知らされていないのだ。
「この世界に来た時に宰相さんが言ってたの。赤の神が現れるっていう予言がでたって。もともと赤の神は数百年に1度現れてて、数百年前にもそれで疫病が発生して国の人口が半減したっていうことも。召喚魔法が成功したのもそれに何か関係があるんじゃないかって」
「確かに、数百年前に疫病は発生して国に大きな被害をもたらしたっていう話は聞いたことありましたけれどもも…それが赤の神が起こしたものだったとは」
「数百年前?」
それに疑問を持ったのはアマンダとウォルフだった。
「赤の神は十年前にも現れています。シン・アンダーウッドが赤の神ではないかというのもその時の状況があってこその判断ですし」
「えっ?」
「それはありえないだろ。それだったら俺たちが知らないことの説明がつかない」
数百年前となると事実を確かめることは難しいが、10年前となれば話は別だ。その時に赤の神が現れていれば誰かしらが覚えているはずだし、歴史にも刻まれるはずだ。
「赤の神は実際にいました。ただしその事実はこの世界から消されました。ある1人の魔女によって」
そこでウォルフは言葉を切り、俯いた。その表情は苦渋に耐えるように厳しいものだった。
「ウォルフ。辛いなら私から言おうか」
「…いいえ、それはいけません。わたしよりも辛いのはアマンダ様ですから」
ウォルフは何かを決意したように顔を上げ、口を開いた。
「この話は私の記憶と、師匠の残した資料によって分かった話です」
それは1人の偉大な魔女が、命をかけて発動させた魔法の物語だった。
「ママー」
「うん?どうしたアマンダ」
「これちょっとちっちゃいよー」
アマンダは着ている黒いワンピースの襟を両手で持ちぐいぐいと引っ張った。ワンピースを新しく仕立ててからまだそんなにたってはいないと思ったのだが、アマンダは窮屈そうに頬を膨らませている。
「はあ、またか」
カルラはその様子をみて悩んだ。服を仕立てても仕立てても、アマンダはどんどん大きくなるし、どんなにきれいな服でもすぐ汚すし、洗濯が追いつかない。洗濯は魔法を使って行っているが、アドルフはカルラがあまり魔力を消費することをよしとせず、良い顔をしない…まあ、実際はカルラの洗濯の仕方が良くないのだが。服のお金に関しては、アドルフがいるため大丈夫だが、正直仕立て屋を呼んだりするのもカルラとしては好きじゃない。
「木綿生地か…あ」
何かを思いついたカルラは1枚の紙にいそいそと魔法陣を書き、その上にワンピースを乗せる。そして魔法陣を発動させた。黒い光が周りを照らし、ふわりとワンピースを浮かばせると元に戻った。紙は真っ白になっており、ワンピースを持ち上げたカルラはにやりと笑った。
「ふふ、完璧」
「一体どんな魔法をかけたんですか?」
カルラの顔を見たアドルフは嫌な予感がしてカルラに聞いた。
「適合魔法と保護魔法を使ったのさ。思いつきだったけど案外いいね」
適合魔法。火と水と土属性魔法の複合魔法。今回の場合、このワンピースは着た人の体格に合わせて布が瞬時に伸びたり縮んだりする仕様となった。保護魔法。金と木属性魔法の複合魔法で汚れや簡単な衝撃からの保護ができる。
「君はまたなんていうことを…」
カルラは平然と言うが、3属性を同時に行う複合魔法はなかなか難しく、魔力消費も大きい。それにその組み合わせも最悪で、常人であれば考えつきもしないであろう。それを思いつきでやってしまうとは。この人はなんてものを娘に着させようとしているのか。
「アマンダもいつも同じ服は着たくないでしょうに…」
「ママすごいね!」
声のした方を見ると、きらきらとした目でアマンダがワンピースを見ている。
「嬉しいかアマンダよ」
「うん!」
いそいそとワンピースに袖を通し、満足そうな顔をするアマンダとそれをみるカルラ。
「私もママにプレゼント!」
手元で白い光を出しながら、アマンダは紙で作った花をカルラへと渡す。
「最近作れるようになったお花!」
「こんな年から魔法が使えるとは!アマンダは天才だな!」
幸せな日常だったがため息が漏れるアドルフであった。




