15
「ウォルフ」
目の前にはアマンダがいた。そして姿は見えないが、きっとカルラとアドルフもいるのだろう。先ほどの匂いは3人のあたたかな匂いだった。
「ごめん」
そういってアマンダは目の前に球根がついたままの1輪のピンク色の花を差し出した。
「2ねんめきねんび、わすれてた。これ、かんしゃのはな」
そう言ってアマンダはにっこりとほほ笑んだ。花の茎は強く握られているのか、少しひしゃげている。
彼女から罵声ともとれる言葉の数々を聞かされていた時、アマンダは考えていた。うーん、そういえば今日ってウォルフと出会ってちょうど2年目くらいじゃ…。今日に限ってママが散歩に行かせたのもその祝いの準備のためではなかろうか。何もプレゼント考えてない。と。ウォルフが用意されていないプレゼントに怒って走り去ってしまったのだと思ったアマンダは、急いで自分にできることを探した。リボン…はママにもらった大切なものだからダメだし、お気に入りの人形やクッションもやっぱりあげられない。あれがなければアマンダは眠れない。そもそもウォルフって何を喜ぶのだろう。彼女は考えて考えて、そしてふと思いついた。アマンダは急いで家に戻り、庭へと出た。
「アマンダよ、何をしているんだ?」
アマンダが家に帰ってきたことに気づいたカルラはソファから飛び起き、アマンダの様子を見に行った。
「アマンダね、ウォルフにおはなあげようと思って」
アマンダは1つのピンク色の花の茎を持ち、引っ張り上げようとしていた。
「まてまて、それは私が大切に育てた、アドルフに上げるための花だ。勝手にとるな」
2人は言い合いをしていた。食べ物の買い出しに出ていたアドルフは、帰ってきてすぐ庭で言い争いをしている2人に気づき、焦った。
「ではウォルフは今、1人で街中にいるのですか?」
その言葉を聞いた2人はあっ、まずいという顔をした。
「アマンダ、私はあなたたち2人に気をつけていくようにと言ったでしょう。1人で帰ってきていいとは誰も言っていませんよ。それにカルラ。帰ってこない息子のことを心配しないで何をやっているのですか。あなたが私のことを愛してくれていることは十分わかっていますから、花の1つくらい娘に分けてあげなさい」
その後も続くアドルフの説教のおかげで、捜索が遅れたのは言うまでもない。
「ウォルフ!ちがでてる!いたいの!」
暗い中であったが、アマンダはウォルフの怪我に気がついた。するとアマンダは自分の髪を結んでいたリボンをほどきウォルフの腕に結んだ。
「これでよくなるね。ママのまほうはさいきょうよ!」
えへへっと笑ったアマンダに、ウォルフは毒気を抜かれた。俺が走り去ったのには何の意味があるんだ。
「アマンダ―、そろそろ話は終わったかー?」
その時、物陰から堂々と姿を現すカルラと慌ててでてくるアドルフの姿が見えた。
「まったく、心配かけるんじゃねえよ」
そういってカルラはアマンダとウォルフを抱きしめた。アドルフはため息をつきながらもそっと2人の頭をなでてくれた。ウォルフはなんだかわからないけれど多幸感に包まれた。
「せっかく準備したのに水の泡じゃねーか。しかもアマンダを置いてくとはいい度胸だなウォルフ!」
その後の帰り道、ウォルフはカルラにゲンコツをくらっていた。カルラは今日という記念日のために必死に準備した。まあ、部屋の内装や食べ物の買い出しなど、実際に準備をしたのはアドルフで、カルラはソファに座りお菓子を食べていただけなのだが。だが、カルラが何かをしようものならアドルフが必死に止めたであろうことは想像に難くない。
「まあ、準備のことはいいでしょう。ただ、心配をかけたのはいけないことでしたね」
いつもはカルラを止める役であるアドルフも、今回はカルラを好きなようにさせていた。それだけウォルフはみんなに、特にアドルフに心配をかけていたのだ。
「パパ―、お星さまが」
アドルフに抱っこをされていたアマンダは空を指さしていた。
「ああ、流れ星ですね」
見れば空一面に星がきらめき、その星がまるで滝のように流れ落ちていた。
「ながれぼし?」
「そうですよ。とてもきれいでしょう?流れ星がなぜ起こるかはわかっていませんが、神が流した涙だとか、どこか大昔の大魔術師の気まぐれで起こした現象だとかいろいろなことが言われています」
迷信ではありますが、星が流れきる前に願いを唱え終えられればその願いが叶うともいわれているんです。そう言ってアドルフはアマンダに微笑みかけた。
「じゃあ、アマンダはお星さまにお願いします!」
そう言うとアマンダは両手を合わせ、それを額につけると目をつむり、大きな声で唱えた。
「アマンダはウォルフと一緒にいます!」
「…アマンダ。それは願いではなく宣言というのですよ」
アドルフは冷静なツッコミをいれ、カルラはケラケラと笑っていた。ウォルフは茫然とし、アドルフに抱かれているアマンダを見上げた。
「いつまでも、いっしょにいようね」
そう言って笑った彼女はまるで、闇夜の中にぽっかりと浮かぶ月のようにとても美しかった。その時、ウォルフは心の中に何かが落ちる音を聞いた。それが何かは分からなかったけれど、ただ一つ明確に分かったのは、自分も彼女と一緒にいたいということだった。
「ふん。私の前で流れ落ちるなんて、いい度胸をしているな」
カルラは空を見て呟いた。
「あなたはまたどんなことを考えているんですか?」
「ママ、どういうこと?」
カルラは天を指さし、まるで挑むようにこう告げた。
「魔女が星に願うのは、天へと星が流れるとき。偉大な魔女が命を散らすときさ。だが私はそんなことはしない!自分の願いは自分で叶える!」
「うーん、どういう意味ですかね」
「ママ、わかんない」
「…」
カルラの言葉に3人は首をかしげた。
カルラとアドルフの出会い話を番外編にて公開しております




