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「アマンダよ、これを持っていけ」

ウォルフがアマンダとアマンダの母、カルラに拾われてから2年が経とうとしていた。つまり、ウォルフがカルラに魔法をかけられ人間になってから約2年が経とうとしている。この頃になるとウォルフも人間の姿でいることになれ、道具を使って食事ができるほどになっていた。

「これ…なに?」

アマンダの手には黒い紐…もといリボンが握られていた。

「以前欲しいと言っていただろう?」

カルラは不思議そうにアマンダに聞いた。以前アマンダは近所に住む子どもの頭についているリボンを見て、羨ましがっていた。

「うーん、それはさすがに…」

アマンダの父、アドルフはそのリボンを見て閉口した。アマンダが以前見ていたリボンはシルク生地のレースが付いたリボンである。それに対しカルラが用意したのはほとんど紐のような細いリボンだった。しかも黒ということはアマンダの髪に同化し、色はあまり映えないだろう。

「これは回復魔法が効いていてな、ちっちゃい怪我ならその場所にこの紐を結ぶことで治せる!効果は1度しかないがな」

今、紐と言ったか。せめてあなただけはリボンと言いなさい。この母親は娘のことをとても大切にしているがどこかずれている。それも彼女の生い立ちを考えれば仕方ないことなのだろうが、時折無性にため息がつきたくなる。

「やったー!ママありがとう!パパつけて!」

そんなリボンでもアマンダは喜び、アドルフに髪を結んでもらっていた。ウォルフはそんなアマンダ達家族の様子をただじっと見ていた。


「アマンダよ、ウォルフと一緒に散歩に行ってこい」

「2人とも気をつけて。遠くに行きすぎず、夜までには帰ってきてください」

最近のアマンダの日課は、夕方にウォルフと一緒に近場の散歩に行くことだ。1人では行けないが、ウォルフと一緒にならと両親から許可が出た。ウォルフはこの散歩の時間にアマンダを置いて逃げ出すことも考えたが、カルラの微笑みを思い出すととてもそんなことはできなかった。あの女はウォルフが逃げ出したと知ったら、天使のような微笑みで地獄の果てまで追ってくるだろう。そしてウォルフをより深い地獄へと突き落とすのだ。この散歩も2人だけに見えるが、カルラの魔法で全てを監視されていることは、以前逃走したときに学習済みだ。

「あっ、アマンダちゃん!」

散歩をしていると近所の子どもがいた。それはアマンダがリボンを羨ましがっていたその子であった。

「みてみて—」

アマンダはその子にリボンを見せた。その子は馬鹿にしたようにアマンダを笑うとこう返した。

「わたしだったらかわいくないけど、アマンダちゃんにはにあってると思うよ。まじょからもらったまじょのリボン」

その子は前まではアマンダに友好的だったはずだ。だがしかし、両親から悪い話を吹き込まれでもしたのだろうか。魔女のことを悪く言う言葉をその口から紡いでいた。

「ウォルフくんも、そんなこといるよりわたしといたほうがいいよ」

その子はウォルフの手を引っ張り、自分のリボンを自慢した。自分の両親は黄の魔術師で、とてもすごいのだと。自分と一緒にいれば何でも叶えられる。ウォルフの願いを何でも叶えてあげると。


ウォルフはばかばかしいと思った。自分の親の自慢をし、さも自分がウォルフの願いをかなえられるかのような言動をする娘を。じゃあお前は、死んだ仲間たちをよみがえらせられるのか?俺が自由の身だったころの平和な世界を取り戻してくれるのか?お前には無理だろう。お前のような他人の悪口しか言えない腐ったような人間には。お前は俺たちを追い詰める側の人間だ。お前が俺の毛皮が珍しいと口にし、欲しいと父親に頼めば、父親は喜んで俺の毛皮をはぎ、お前に献上するのだろう。アマンダやカルラ、アドルフは違った。分かりにくくはあったが、俺の姿を見て心配し、助けようとしてくれた。自分たちがやったことではないのに申し訳ないと謝ってくれた。死んだ仲間を蘇らせることはできないけれどと、仲間を殺した人間を懲らしめ、仲間を元の土地に返してくれた。行く当てのない俺に強引ではあったものの居場所をくれた。


「アマンダちゃんじゃ、なにもしてあげられない」

アマンダを見ると彼女はうつむいていた。その子はそのアマンダの様子を見て勝ち誇ったかの顔をした。ウォルフは無性に腹が立った。醜い顔をしたその少女にも、何も言わず俯いているアマンダにも。

「うるせえよ!気持ち悪い手で触るな!お前なんかといたくはねえ!」

ウォルフは走り出していた。自分がどこに向かっているかも、何を考えているのかもわからなかったが、とりあえずむしゃくしゃして走った。そして疲れて座り込んだ。座り込むと途端に嫌な香りが鼻についた。それは先ほど少女が握った手首からにおっている。嫌なにおいだ。ウォルフは手首を掻きむしった。


「やべー」

気付けばもう辺りは真っ暗になっていた。ウォルフはそこでアマンダを置いてきたことに気づいた。だが、それを探しに行こうとも思えなかった。アマンダは自分が彼女に手を握られ言い寄られていた時に何も言わなかった。自分はあれだけ怒っていたのにも関わらず。確かに一緒にいた時間はまだ2年と短いかもしれないが、もうちょっと反応があってもいいのではないだろうか。ウォルフはなぜだかわからないが無性にイライラした。その時、甘くほのかな花の香りとウォルフのよく知る香りがした。

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