13
「うわー、空がきらっきら光ってるー!」
ある日の夜。アマンダは2階のベランダから大きな空を眺めていた。その日は天気が良く、国のいたる所で見事な流れ星が目撃されていた。
「本当に美しいですね」
ウォルフはアマンダのために軽食と温かい掛け布を用意してあげた。
「ありがとう」
アマンダはウォルフにもベランダに置いてある椅子に座るよう促し、2人で空を眺めた。
「そういえばウォルフ。今日、お客様の子がこんなこと言ってたよ」
それは今日の昼、ウォルフがちょうど買い出しに出かけた時のこと。ある1人の少年が1枚の絵をアマンダに見せてきた。
「とても素敵な絵ですね。お客様がお描きになられたのでしょうか」
その絵は2人の男女が仲良く手を繋いでいる絵だった。1人はきっとその少年だろう。となるともう1人は彼の妹か、姉であろう。それを見せてきた少年は満面の笑みでこう答えた。
「ぼくね、今度お兄ちゃんになるの。だからこの子と仲良くしたいの」
そう言ってその少年は母親に近づき、少し膨らんだお腹をなでていた。少年の絵の中の少女は妹であったらしい。
「すみません。この子、いろんな方にこの話してるんです。ちょっとだけ相手してもらってもいいですか?」
母親は少しだけ申し訳なさそうにして少年の頭をなでていた。話を聞けば、少年は願いを叶えるためにこの絵を描いたのだという。流れ星が流れ落ちきる前にお願い事を唱えると、その願いを星が神に伝え、神が願いを叶えてくれるらしい。そこで少年は昨晩、星に願いを唱えようとした。だが、星たちは願いを唱えきる前に流れ落ちてしまう。何度やっても同じだった。少年は思った。このままでは僕の願いは神様に届かないまま…妹とは仲良くなれないかもしれない。そんなのは嫌だ。そこで少年は絵を描いた。たとえ言葉では伝えられなくても、絵を描くことで星が自分の願いを理解し、伝えてくれるかもしれない。
「それはとても素敵な話ですね」
ウォルフは穏やかな顔をしてそう答えた。
「うん。私もそう思った」
あの親子の今後を自分たちが知ることができるかはわからないが、あの少年の願いはぜひとも叶ってほしいとアマンダは思った。
「そういえば、アマンダ様も星に願いを唱えたことがありましたよね」
「えっ、いつの話?」
ウォルフはふと思い出したように言い、アマンダはびっくりした。全然記憶にない。
「あれは…まあ、何でもありません」
「えっ、何その不敵な笑み。怖いんだけど」
その後、アマンダはどうにかしてウォルフから話を聞き出そうとしたが、うまい具合にはぐらかされ、結局聞くことはできなかった。
「アマンダ様は星に願いを唱えるとしたら何を願われますか?」
流星群の見頃もピークに達したころ。ウォルフはアマンダに問いかけた。
「うーん、たいていのことは自分で解決できるからね…」
アマンダは悩む。1つだけ思うことはあるが、それをウォルフに聞かれるのもどうなんだろうか。いや、星に願う場合、唱えなければならないのだから、ウォルフがいようがいまいがここで口に出さなければならないのだが…。
「私であれば、アマンダ様とともにいつまでもいたいということですかね」
「…!」
ウォルフはアマンダの方を見てやさしく微笑んだ。アマンダの顔は星明りしかない暗闇の中では見えづらいが、きっとゆでだこのように真っ赤なことだろう。アマンダは小さくつぶやいた。
「最近のウォルフは正直すぎると思います」
「私は後悔しないように、自分がしたいと思ったことをしているだけです」
「じゃあ私だって。いつまでもウォルフと一緒にいたいです!」
やけくそのようにアマンダは言うと、ウォルフが作った軽食をほおばり、プレート皿を空にした。
「まあ、星に願うまでもないことかもしれませんね」
ウォルフはそう言うと、軽食のプレート皿を片付けに部屋の中へと戻っていった。残されたアマンダは掛け布を掴み、顔を覆うのであった。
ウォルフはプレート皿を洗いながら幼い時のアマンダのことを思い出していた。
『いつまでも、いっしょにいようね』
あの日は今日のように流星が美しく見える日で、ウォルフはアマンダと一緒にいた。まだその傍らにはアマンダの両親がいた。あの頃のことをアマンダは覚えていないかもしれないが、自分にとってはとても温かい思い出だ。今日、自分が言わせたかのようになってしまいはしたが、アマンダからあの時と同じ言葉を聞けて嬉しかった。
その神は首をかしげた。何かがおかしい。その神は確かに考えた。かの神の世界を覗き、新しい結末を加えようと世界に介入した。だが、このような介入を自分はしただろうか。私がした介入は結局、同じ結末を迎えたはずだ。この世界は何も変わらなかった。運命は辿るべき道を辿った。だが、この世界には続きが生まれた。自分の考えていなかった続きがいつの間にかでき始めていた。何かがおかしい。その神は首をかしげた。そして頷いた。まあ、退屈しのぎにはちょうどいい。もう少し、この世界を眺めてみてもいいかもしれない。




