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「アマンダはウォルフのことが好きか?」

それはまだ王都へ引っ越しし、魔法屋を開いてまもない頃。アマンダがまだ11歳のことだった。お店の開店準備のため、朝早くから師匠含め3人でお店の前の街道を掃除していた。

「んなっ!じじい!てめぇなんてことを!」

「おいウォルフ!その口のきき方をやめないか!」

ブーイオは目にも見えない早業でウォルフの頭をたたいた。

「いってえ!」

「このこぶしを避けることもできないとは、まだまだ未熟だな。日頃あれだけしごいてやっているというのに嘆かわしい」

鍛錬が足りない、王都の外周でもしてこい。そう言って、ブーイオはウォルフを走りに行かせた。王都は家の1階の高さほどの塀に囲まれており、その外周は広く、大人でも走って1時間ちょっとかかる。開店まではまだ時間があるとしても、その時間までに戻ってこれるかは微妙なところである。また、まだこの街にきてそんなにたっていないウォルフでは迷子になる可能性もある。まあ迷子になってもウォルフの嗅覚があれば、自分が走ってきた道をたどり、この場所に戻ってくることができるだろう。ブーイオはこの後の話をしやすくするために、ウォルフを走りに行かせたのだった。

「ちっ」

ウォルフは1つ舌打ちをするとほうきを適当な場所におき、街道を走り出した。

「で、どうなんだアマンダ」

ウォルフの姿が見えなくなったころ、ブーイオは先ほどの質問の答えをアマンダに確認した。

「うん…アマンダはウォルフのこと好き」

アマンダは持っていたほうきの柄を握り、俯きながら、小さな声で答えた。黒い髪の隙間からのぞくその白い耳は、恥ずかしさからか真っ赤に染まっている。

「そうか…」

ブーイオは少し考えるようなそぶりを見せた後、すこししゃがみ、アマンダの目線に顔の高さを合わせた。そしてアマンダの目を見つめた。

「アマンダ。酷なことをいうが、お前とウォルフでは時の進みが違う」

ブーイオはアマンダに言い聞かせるように話した。


ウォルフは狼だ。その寿命は人間とは異なる。狼の寿命はおおよそ15年、長くても20年。アマンダとウォルフが出会ったときのウォルフの年齢はわからないが、2人が一緒にいた時間を考えると、残りのウォルフの寿命は今まで過ごしてきた時間よりも少ないだろう。きっとアマンダが成人を迎えるかその前後にウォルフの寿命も尽きてしまう。


「アマンダはウォルフのことを好きになっちゃダメなの?」

アマンダは先ほどの表情とは一転、悲しそうに目に涙をためている。話を聞いている最中にだんだんと顔は曇り、今のような状態に変化していった。

「ああ、ダメというか…そういうわけでも…しかしなあ…」

何やら煮え切らない様子でブーイオは言葉をつまらせる。アマンダの目にはどんどんと涙がたまり、かろうじてとどまっていたダムももはや決壊しそうである。

「…お前は後悔しないか?ウォルフが死んだあと、ウォルフに恋をしていた時間を。1人になったとしても後悔しないと言えるか?」

1つため息をつき、ブーイオはアマンダに聞いた。11歳の子どもにする質問にしては少々難しいのだが、ブーイオにはわからない。

「後悔なんてしない!アマンダはウォルフのこと好きだもん!」

アマンダは先ほどとは違い大きな声で叫んだ。何とか保っていたダムを決壊させ、ブーイオに食って掛かる。アマンダはえぐえぐと泣きながら、濡れてしまった頬や両目をぬぐった。

「そうかそうか、わかったわかった」

ブーイオはそう言うと立ち上がり、アマンダをそっと抱きしめ、ぎこちなく頭を撫でた。

「お前は母親とよく似ているな」

「ママ?」

ブーイオは何かを思い出すように目を細めると、アマンダを離した。

「さて、ではアマンダ。私から助言を言い渡そう」

えっほん、とブーイオは1つ咳ばらいをした。

「お前がこれからもウォルフと一緒にいるのなら、これからも好きでいるのなら、全力で好きでい続けろ。後悔をするような恋はするな。…もちろん、ウォルフが嫌になったらいつでも嫌いになればいい。お前たちに別れが訪れた時、後悔しなければいいんだ」

ブーイオはそういうと、アマンダに微笑んだ。

「うん!絶対後悔しない!」

アマンダは大きくうなずき、ブーイオの目を見つめた。

「よし、じゃあアマンダ。その目の腫れを治そうか。あいつに知られたら俺が怒られてしまう」

ブーイオはアマンダの目を両手で覆い、水と火属性の複合魔法でアマンダの腫れてしまった目を冷やした。

「つめたーい!」

アマンダは嬉しそうに声を上げ、ブーイオの手の上から自分の手を重ねた。


そんな二人の話を、走り終わったウォルフは立ち並ぶ家の陰から聞いていた。

「あんのじじい…」

大人でも1時間以上かかる外周を、ウォルフは十数分で走り切っていた。ウォルフは自分の背を家の壁につけながら空を見上げ、ため息を1つこぼす。その表情は家の影となり良くは見えないが、その頬にはひとすじの汗が伝っている。

「ちくしょう…なんで俺は、人間じゃないんだ…」

そのつぶやきは青い空に悲しく響き消えていった。

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