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三章 9.蘇る記憶と結晶

「凄いな、あれが本家の実力か……」

「だから言ったろ、あっちは問題無いって。ほらこっちもあと少しなんだから、とっとと終わらせるぞ」

「あ、ああ、分かっている」


 勇者一族本家の圧倒的な実力を横目で見ていたガゼルは、感嘆の息を漏らしている。

 それはもちろん避難誘導をサボっていたのでは無く、単純にネズミ共の数が減り戦闘に余裕が出てきた為だ。

 今や観客でもやられている者はおらず、ただネズミ共を粉砕するだけの作業と化している。最初こそ数の多さにパニックになっていたが、これなら想像よりは大したことは無かったな。


「アカリ、あの集団でラストだ!」

「おっけー、じゃあガゼルラストは纏めて任せるぞ」

「ああ、全て吹き飛ばしてやろう……雄叫べ紅業火一式!」


 最後の十数匹は射程、殲滅力共に長けたガゼルに任せる。彼は妙な掛け声と共に自前の魔道兵器の引き金を引き、その瞬間紅く燃える魔弾が半透明のネズミ共を粉砕していった。

 これでネズミ駆除の任務は完了だ。派手な登場の割に終わりは呆気なかったな。


「おーいお前ら、こっちは片付いたぞ」

「兄貴にガゼルくんお疲れ様、二人共流石だったね。はいこれ水筒!」

「サンキューセロル」

「助かる」


 仲間二人の元に勝利を報告しに行くと、セロルから満面の笑みと共に水筒を手渡された。

 今まで男だと思っていなかったから意識していなかったが、こういう仕草を見ると意外と女子っぽいところが多いんだよな。ほんとに何で気づかなかったんだろうか。


「ふぅ、ようやく一息つけたか。ん?どうしたネネティア、浮かない顔をしているな」

「なんだよ、気になることでもあるのか?」


 俺とガゼルが水分補給をしていると、戦闘が終わったというのに未だ浮かない顔をしているネネティアが目に入る。勝利を手にしても、まだ何か不安が残っているのか。


「こんなものじゃない……奴らの脅威は、こんなもので終わりじゃないんです……!」


 どうしたのかとネネティアに問いかけた瞬間、突如彼女は震えながらそう叫んだ。

 ここまで動揺している彼女は見たことがない。


「終わりじゃない?どういうこと――」


 終わりではない。その言葉の真意が分からず首を傾げた俺は、すぐにその本当の意味を知ることとなる。

 俺達が殲滅したはずのネズミ共の残骸がゆらゆらと少しずつ動き出し、闘技場の方へと飛んで行ったのだ。

 俺達が慌てて残骸ガゼル飛んで行った方に駆け寄ると、なんと倒した筈のネズミ共とシカの残骸が合体し始めていた。


「なっ、た、倒しても蘇るというのか……!」

「ああ、しかもただ蘇るだけじゃない。見てみろ、頭と胴それぞれにネズミ共の残骸がくっついて足りない部位を修復してやがる」


 この魔物は死んでも魔石が合体して、元通りに復活するものかと最初は思っていたが、それは少し違った。

 頭と胴、それぞれにネズミ共の残骸がくっつくことで、バラバラに再生を施しているのだ。つまり、ネズミ共はシカの体の一部となって、より強力な二匹の魔物の誕生となる。


「「クフォォォォォォォオ!」」


 頭と胴、それぞれ足りないパーツをネズミ共の残骸で補填したシカは、二匹となって再生した。

 魔石の色は最初赤と半透明の二色だったが、それも最終的にはシカの持つ赤色に全て染まり、結果単純にシカの化け物が増えたことになる。


「やはりあの時と同じ……いえ、それ以上です……!」

「ネネティアの仇もあんな感じで蘇ったってのか?」

「はい、あの時の魔物は、何度倒しても蘇り勝つ術が見つからないまま私の家族は奪われたんです……でも今回は二匹に増えてる。あの時よりも、より恐ろしい存在です」


 ネネティアは憎悪の炎を滾らせ、復讐心をもってシカを睨みつけながらそう解説してくれた。彼女にとって目の前の敵は、仇の魔物と同じ特徴を持つ存在だ。あのシカ二匹と記憶の中の仇が重なり、復讐心が剥き出しになっている。


「ネネティア、無茶はするなよ」

「……ふふ、アカリくんは変わってますね。普通ならここは、止めるところでしょう」

「止められるかよ、俺にはお前の気持ちは少しも理解出来ねぇんだから。なら、後は身の安全を心配するくらいしか今の俺に出来ることは無いだけだ」

「ありがとうございます。簡単に分かるなんて言われてたら、アカリくんのこと嫌いになってました。止めてくれなかったこと感謝します」


 ネネティアの怒りに染っていた顔にも、少しだけ明るさが戻った。俺としては素直な気持ちを吐いただけなのだが、それで肩の力が抜けたのなら十分だ。

 俺には復讐心で動く人間の気持ちは、これっぽっちも分からないのだから。

 だからこそ、無茶をして死ぬのだけは何としても阻止しなければならない。


「俺は恨むぞ。ここは隊長として止めるべき状況だろ」

「だろうな。まっ、だからこそ俺達が全力でネネティアをフォローして守ってやろうや」

「……当然だ」


 ガゼルは堅物だが仲間思いの良い奴だ。だからこそ、俺がネネティアの復讐を止めないことに苦言を呈する。

 彼の気持ちも分からない訳じゃないが、今はどっちにしろあのシカとの戦いは避けられない。ならネネティアには好きにさせて、俺達が全力でカバーすればいいだけの話だ。


「ごめん兄貴、僕も魔剣さえあれば……」

「気にすんな、それはセロルが悪いんじゃなくてあのアインディア家の連中のせいだからな。それに、魔剣なら恐らくもうすぐ手に入ると思うぞ?」

「え、それって、どういうこと……?」

「まぁそれは俺の予想だから深くは考えるな」


 いい加減そろそろマルクも説得を終わらせているはずだ。なら、本家から魔剣を授かるのも時間の問題となる。

 俺の予感だが、セロルの勇者復活はそう遠くない気がするんだ。


「とは言え、倒しても倒しても蘇る不死身の魔物を相手に、どう戦えばいいものか……そもそもあいつら本当に魔物なのか?」


 ネネティア曰く、奴らは倒しても永遠に復活する厄介な特性を持っている。そんな化け物がどうして突然現れたのかは気になるが、倒し方が分からない以上攻撃をするだけ時間と体力の無駄だ。

 何か別の打開策を見つけなければ。


『クウー(あれ魔物じゃないよー)』

「……え?ま、魔物じゃ無いってどういう……」

『クウ!(あれからは生き物の気配を感じられないの。変なやつだよ!)』

「生き物の気配が無い……生物じゃないってことか……?」


 どう対処すべきか悩んでいるところへ、突然飛び込んできたクウの呟き。どうやら奴らは生物とは別の存在らしいのだが、だとしたら一体どういう存在なのか。

 ……あれ?そういえば俺、そういう生物じゃ無い存在に一つだけ心当たりがあるぞ。昔、初めて魔法使いと戦った時、そいつも似た様な魔法を使ってた気がする。

 確かその魔法の名前は――


「おいアカリ!」

「へ?な、何だよ?」

「何だよじゃないだろ。一人でブツブツ言ってないで、早くあの魔物を止めないとだろうが!」


 一人黙考していると、ガゼルの怒声によって意識を戻されてしまった。

 慌てて闘技場に目をやると、今にもシカ二匹が暴れ出そうと体を震わせている。


「あ、ああ、そうだったな。今すぐ行かないと……いや、悪いけどあいつらとの戦闘はお前達に任せるよ」

「は?お前こんな時に何冗談を――」

「冗談なんかじゃない。少し気になることがあるんだ。どうせこのまま奴らとやり合っても、ネネティアの話しが本当なら無駄に終わる可能性が高い。だからこっちは三人に任せたぞ、勇者一族に手を貸してやれ!」


 突然の俺の発言にガゼルは本気の苛立ちを向けてきたが、俺はそれを押しのけて一人走り出す。

 クウの言葉で思い出したんだ。昔戦っていた魔法使いとその魔法のことを。そして今回の件はその時と非常によく似ている。


 となると必ずどこかに居るはずだ。今回の事件を起こした首謀者が。


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