三章 9.勇者の強さ
突如現れた無数の魔物、奴らから観客を守る為無理やり戦闘に引き摺られた俺達は、どうにか退路を確保することに成功する。
現在俺とガゼルは正面ゲートを守る様に、近づく魔物は全て倒し観客を狙う魔物も素早く殲滅していた。
「皆さん、慌てずにゆっくりお願いしますー!」
「大丈夫です!兄貴達が必ず守ってくれますから!」
俺とガゼルが退路を守る様に魔物を倒していき、その間にネネティアとセロルが観客席を避難誘導する。こんな緊急時の中でもチームワークを活かすことで、どうにかこの場をしのいでいた。
ネズミ共の対処は問題ない。後は、勇者一族があのバカデカいシカをどうにかしてくれればいいのだが。
――
〜〜サイド勇者一族〜〜
アカリ達が、大量のネズミ共を相手に観客の避難誘導を行っている頃、闘技場では控え室に待機していた勇者一族達が続々と集まってきていた。
この緊急事態で剣舞会は当然中断となり、全員が魔剣を構えて巨大なシカを警戒している。
「おい、やられた二人はどうだ!?」
「だめだ、こっちは既に息がない……」
「こっちはまだ息があるぞ!全身の骨がボロボロに砕けてやがる、早く治療を行わないと……!」
最初にシカに踏みつけられた二人はすぐさま救出されたのだが、残念ながら一人は既に息を引き取っていた。
もう一人も辛うじて息がある程度で、全身の骨は砕け助かったとしても後遺症はま逃れない様子である。
二人の勇者一族の凄惨な姿を目にした他の者達は、敵のあまりの脅威に身震いを禁じ得ない。
だがそんな最悪の状況の中でも、勇敢に立ち向かう一族の人間はいる。
「行きますよお兄さん!」
「ああ」
巨大なシカに果敢に挑むのは、勇者一族本家の兄妹マルクとマリナだ。二人は青く輝く魔剣を起動し、疾風の如き速さでシカの足元に近づくと素早く斬りつける。
兄妹の速攻によって、幅一メートルはありそうな極太の足に痛烈な亀裂が刻まれた。
「クフオォォォオ!」
「っ、来るぞ下がれ!」
「はい!」
足元で俊敏に動き回るマリナとマルク目掛け、シカも反撃とばかりに踏みつけようとしてくるが、未来の見えるマルクの前では無意味だった。どれほど脅威的な攻撃力だろうとも、未来の見えるマルク達には当たりはしない。
そして前線で華麗に戦い続ける兄妹の姿を前にし、他の勇者一族も活気づけられていく。
「やれる……俺達もやれるぞ!」
「俺達も本家に続けー!」
「勇者の意地を思い知らせてやる!」
「遅れを取るなよお前ら!」
マリナ達の活躍によって勇者一族も士気を取り戻し、続々と戦闘に加わっていく。
あっという間にシカの周りを包囲する様に陣形を組んだ勇者一族は、そのまま烈火のごとき連携で巨大なシカに斬りかかっていった。時には反撃を受けることもあったが、危険な場合はマルクから注意喚起が飛んでいく為、最初の犠牲者二人程ダメージを受ける者は出てこない。
勇者一族の活躍によって、そのまま形成を一気に有利な状況へと運んでいったのだ。
「ク……クフォォォォォォォオ!」
「動きが変わった……大きいのが来るぞ!」
「皆下がって!」
だが、シカもただでやられる程甘くはなかった。ただの踏みつけしかしてこなかった奴は、ここで急に動きを変えてくる。その巨大な角を突如地面に突き刺したのだ。
その瞬間シカの角は地面を通してぐんぐんと伸びていき、幾重にも拡散されて地表へと無数に突き出てくる。
いち早く動きの変化を察知したマルクが回避するよう指示を飛ばすが、意識していてもどういった攻撃が来るのか分かっていなければ意味は無い。大地から突き出てくるシカの角に、勇者一族は次々とやられていった。
赤く輝く宝石の如き角に、貫かれた勇者一族の血がべっとりとへばり着いていく。
「み、皆さん……!」
「これは、酷い……このままだと、勇者一族は壊滅する……」
シカと戦っていたのは、勇者一族の中でも剣舞会決勝本戦に駒を進められるくらいには優秀な者達であった。だが、現状はそんな強者達が幾人もシカの角に串刺しにされている。
地獄のような光景を目の当たりにし、マリナは恐怖と悲しさから目に涙を浮かべ叫び、マルクはこの先の敗北する未来を予感し冷や汗が額を伝っていた。
「なんて情けない顔をしているお前達、それでも本家の人間か?」
だがそんな最悪な状況の中で、恐怖に一切動じていない一人の男が現れた。彼の名はマージュ・ブレイディア。勇者一族本家の大黒柱にして、二十一代勇者である、正真正銘世界最強の男だ。
「父上!」
「やっと来たか、遅いぞ親父」
「手厳しいなマルク。許してくれ、観客を避難させる為に道を作っていた」
マルクは遅過ぎる最強の男の登場に苦言を呈したが、そんな彼に対しマージュは薄く笑みを浮かべると背後を親指で指摘する。その方向を見てみると、本来闘技場の壁があったはずの場所に巨大な風穴が開いているのが目に入る。
正面ゲートはアカリが防衛していたが、その対極の位置には逃げ遅れた観客が集まり追い詰められていたのだ。そしてそんな観客を救う為、マージュは壁に穴を開けることで無理やり退路を確保したのである。
「さてお前達、我々本家であの暴れ馬を取り抑えるとするか」
「あれは馬じゃなくてシカですけどね」
「おいおい、野暮な突っ込みをしてくるなマリナ」
「馬鹿なこと言ってないでとっとと片付けるぞ」
現役勇者の登場に、闘技場内は一気に士気が上がる。マリナとマルクもシカの強さに多少の怯みを感じていたが、頼もしい父の背を目の当たりにして震えが吹き飛んだ。
勇者とは存在するだけで場を活気づける、偉大な象徴であることをマージュが体現していた。
「私が活路を開く!マルクとマリナはその後に続け!」
「了解!」
「はい!」
勇ましい父が先行して駆け出し、その後ろに兄妹が続く。正に親子勢揃いでの家族共闘であった。
これには周囲にいた勇者一族や、逃げ遅れていた観客達も興奮を抑えられない。
「クフオォォォオ!」
「ふん、その攻撃なら既に一度見ている。二度も通用すると思うなよ!」
迫り来るマージュ目掛け、シカは再び自身の角を地面に突き刺し、地中で角を無数に拡散させて強襲する。
だが、一度見せた攻撃が何度も通用する程勇者は甘くは無い。マージュは天高くへ跳躍すると、迫り来る無数の角目掛け魔剣の刃を飛翔させた。
ガラスが砕け散る様な音が闘技場内に響き渡り、無数の角はマージュに届くこと無く全て粉砕する。
「クフオォォォ……!」
シカは必殺の攻撃が全て防がれたことに憎悪を滾らせ、怒りの眼差しでマージュを睨みつける。
そんなシカを現役勇者は、遥か上空から余裕の表情で見下していた。
「馬鹿なシカだ。こちらにばかり意識を割きすぎだぞ?」
「合わせろマリナ!」
「はいお兄さん!」
上にいるマージュを睨みつけていたシカは、目線が上に向いていた為足元から忍び寄ってくるマルクとマリナの接近に気づくのが遅れていたのだ。
その結果見事に隙をつかれた上に、兄妹の息ぴったりな連携によって左右から斬られたシカは、首が宙を舞い重みのある音と共に地面に落下する。
「うむ、良いコンビネーションだったぞ二人とも」
「ありがとうございます父上!」
「親父のアシスト有りきの結果だがな」
「そう謙遜するな。二人共順調に成長している様で私は鼻が高いぞ!」
シカの首を鮮やかに斬り飛ばし、勝利を喜ぶ勇者一族本家の三人。
見事な連携によって突如現れた脅威を粉砕するその勇ましい姿を目撃していた者達から盛大な歓声が湧き上がった。




