三章 10.ギルド本部からの緊急ミッション
闘技場に突如現れた無数の魔物の襲撃によって、街中はかなりの混乱状態にあった。先程までの祭り気分など吹き飛ばされ、怒号や泣き喚く子供の声があちこちから響いてくる。
足元をよく見てみると、そこかしこに魔石の残骸が転がっており、闘技場の外にも魔物が出現していることが判明した。
「キュイイィィ!」
「きゃあぁぁ!やめて、来ないで!」
「おらっ!」
街中を走っていると魔物の鳴き声と女性の悲鳴が響いてきた為、素早く駆けつけ魔弾で魔物の胴体を砕く。
間一髪の所で女性が襲われるのを防ぐことが出来た。ただ襲われた際に転んでしまった様で、その時の擦り傷が痛々しく剥き出しになっている。
「すみません、今治療系の道具は持ち合わせてなくて……取り敢えず応急でこれ使いますね」
「あ、あの、ありがとう……ございます」
俺は着ていたマントの端を破ると素早く傷口を覆い止血する。そこまで大きな怪我では無いし、すぐに治療すれば問題は無いだろう。
「じゃあ俺急いでるんでこれで!」
「えっ?あぁ!お名前だけでも――」
去り際に女性何か言っていた気がするが、今は時間が無いから聞きに戻る暇は無い。早く今回の事件の首謀者を見つけなければならないのだから。
「クウ、何か手掛かりはないか?」
『クウー……(分かんないよ。人が多くて気配に集中出来ない……)』
「だよな、さすがに今のままじゃ厳しいか」
クウは気配を察知する能力には優れているが、それでも現在の街中は人の波でごった返している。こんな状況で誰とも分からない人間を見つけるなど、さすがの伝説竜でも不可能だ。
「仕方ないな、ここは一番情報を持ってそうなガンマの所に行ってみるか」
ガンマは討伐ギルドでは名の知れた存在である為、今回の騒動に関しても何か手掛かりを掴んでいるかもしれない。
俺はそこに一縷の望みをかけて全速力で彼の元へとひた走る。
途中何度もネズミ共と出くわしたが、その度に一撃で粉砕しつつ走り続け、ようやくガンマの居るであろう討伐ギルド本部へと辿り着いた。
「ガンマー!居るかー!?」
「誰だ!馴れ馴れしい口を聞く奴は――あ、お、お前はあの時の……!」
「ん?あんた誰だっけ?」
「忘れたのかよ!以前お前に一撃でやられたデロンドだよ!」
手っ取り早くガンマを見つける為にギルド入るや否や俺は叫んでガンマを呼び出す。だが、残念ながら現れたのは全く別の男だった。こんな奴お呼びじゃ無いのだが。
「あー居たなそんな奴も。で、ガンマは今どこに居るんだ?」
「そんな奴って、まぁいい。リーダーなら奥の会議室で今回の騒動を対処する部隊の指揮をとってる。だから邪魔だけはするな――」
「サンキューおっさん!」
「っておい!人の話を聞けー!」
ガンマの居場所が聞けたのでもうこのおっさんに用はない。だからガンマの居る会議室とやらに行こうとしたのだが、デロンドに全力で止められてしまった。
ほんとにしつこい奴だな。また眠らせてしまうか。
「うっせぇな!誰だ!さっきから俺を呼び捨てにしてる奴は!?」
「おーいたいたガンマ、俺だよ呼んでたのは」
「ん?おお、なんだ大将じゃねぇか!いい所に来た!」
いい加減デロンドを黙らせようかと思ったタイミングで、ガンマの方からやって来てくれた。力で解決すると後々面倒だからそうならなくて良かった良かった。
しかし、いい所に来たとはどういう意味だろうか。
「なぁガンマ、お前に聞きたいことがあるんだが」
「話なら会議室に行ってからだ。こっちも大将に頼みたいことがあったんだ」
「何だよ頼みって、言っとくが俺も今はあんまり余裕無いぞ?」
「分かってるよ、この事態についてだろ。こっちも知ってることは全部話すから取り敢えず話だけは聞いていけ」
「まぁ、それなら……」
正直今の俺にガンマの頼みを聞いてやる余裕は無い。だが、今回の騒動について情報を得られるのなら話だけは聞くべきだろう。
何も手掛かりが無い現状では、俺に断るという選択肢は無い。だから黙ってガンマの後に続いて会議室へと入っていく。
「遅かったな、騒ぎは収まったのか?」
「別に大したことはねぇよ。話を続けるぞ」
「待て、そっちの子供は何者だ?部外者が立ち入っていい所じゃないぞここは」
「わーってるよ、部外者じゃねーから安心しろ」
会議室に入ると、偉そうに髭を生やした小太りな男と堅物そうな口調が目立つ赤髪の女性が何やら文句を言ってくる。
うるさいだの子供だのと、今はそんなどうでもいいことを議論してる暇は無いだろうに。
「んでさっきの話に戻すが、攫われた区長と娘の救出はこっちの奴に任せようと思う」
「なっ、血迷ったかお主!?」
「馬鹿を言うな、そんな子供に背負える程軽い仕事では無いぞ」
「おいおい、俺は話を聞くと言っただけで、やるとは一言も言ってないぞー」
色々と情報を仕入れるつもりが、いきなり意味不明な任務をガンマに任せられるわ、それに対して文句を言われるわで散々だな。ガンマの野郎俺を騙しやがって、後で覚えてろよ。
「まぁお前らまずは聞けって。これは双方にとって得しかないんだからよ」
「得だと!こんなお子様に一体何が出来るというのだ!?」
「だーかーら!それを今から説明すんだろうが!」
ガンマは何度も話を遮ってくる偉そうなおっさんにいい加減痺れを切らして怒鳴りだす。相変わらず短気な奴だ。
それが分かっていたのか、赤髪の女性はちゃっかり静かになっていた。彼女の方が幾分かガンマの扱いに慣れてるな。
「ちっ、分かったよ。話だけは聞くって言ったしな。早く説明してくれ」
「あいよ。で、まず今街の至る所で出現している新種の魔物、奴らは倒しても倒しても復活して現状では倒す術が無い。解析班が躍起になって魔石の欠片を調べてる最中だがそれもいつ終わるかは分からねぇ。これが今の俺達の状況だ」
ガンマの話していることは、俺自身もこの目で見てきたことだし概ね間違いは無いだろう。どうやら解析もしているみたいだが、そっちはあまり捗ってはいっていないらしい。
まぁ正体は魔物じゃ無い可能性が高いのだから当然だろうが。
「大将はこの件についてどう捉えている?」
「どこかに首謀者が居る。俺はそいつを見つける為に情報が欲しくてここに来た」
「なっ!そ、それをどこで知った!?」
「知ったっつーか自分で気づいたんだよ。少しばかり心当たりがあったからな」
ガンマに意見を聞かれたから素直に答えのだが、偉そうなおっさんが目を見開いて大口で驚き出した。何をそんなに動揺しているのか知らないが、唾を飛ばすのはやめてくれ。
まぁ本当はクウのお陰で気づけたんだが、それをこいつらに話す義理は無いので伏せておく。
「子供だと思って侮っていたが、頭のキレは悪くない様だな。ガンマ、彼の実力は如何程だ?」
「そうだなー、いい例になるかは知らねぇがデロンドを一発で気絶させるだけの力はあるぜ」
「デロンドを一撃でか、奴もそれなりの実力者ではある筈だが……なるほど、どうやら本物らしい」
やかましい偉そうなおっさんとは違って、こっちの赤髪の女性は少しは話が分かるみたいだ。偏見で物事を判断しない辺りに好感をもてる。今は下らないことで言い合ってる暇は無いからな。
「ガンマだけでなくヒューブナーまで認めるか……分かった、ならばわしもこの場にいることは許そう」
「助かるぜ二人共。んでアカリに救出の任務を任せる件だがな、魔物の襲撃と区長達が攫われたタイミングが余りにも重なり過ぎてると思うんだ俺は」
「つまり、区長を攫うのが敵の狙いだったってことか?」
「ああ、そう俺達は結論を出してる」
なるほど、敵の大元が区長を攫ったのなら敵の親玉を探している俺にも、区長達を助けたいガンマ達にもメリットがあるって訳か。
ようやく話が見えてきた。だからガンマは、俺にその任務を任せようとしているんだな。
無駄骨になる可能性もあるが、手掛かりがゼロよりはだいぶマシだ。この任務、受けない訳にはいかなくなってきた。




