三章 11.予想外の増援
敵の正体を探る為にも、区長を救い出す為にも、この任務受けない理由は無い。早いとこ決着をつけないと、闘技場に残してきた連中も心配だからな。
「分かった、区長の救出は俺が引き受ける」
「すまないな大将」
「ガンマは来れるのか?」
「いや、俺は本部に残って指揮をとらなきゃいけねぇ。悪いがそっちは任せていいか?」
「了解だ」
ガンマも一緒に来てくれるなら戦力としては十分だと思ったんだが、残念ながら彼はここから動くことが出来ないらしい。
まぁ実際街中を指揮する奴は必要だろうし、ガンマなら人望もあるから適任だろう。救出には俺とクウだけで向かうか。
「お、おい、いいのかガンマ?いくらなんでも単独では無謀が過ぎるぞ……!?」
「私も少し責を背負わせ過ぎだと思うが……」
「安心しろよ、そんな心配はいらねぇ。むしろ今この現状で区長を救い出せる希望があるとすりゃ、それは大将だけだ」
「買い被りすぎだアホ」
俺が単独で動くことが心配なのか、偉そうなおっさんと赤髪の女性は不安げな顔をしている。まぁ見ず知らずの他人がいきなり現れて重大任務を一人で任されるのだから、そうなるのも無理はない。
「まぁ善は急げだ。ここでいつまでも議論してたって仕方ないし俺はもう行くぞ。ガンマ、何か区長の私物とか無いか?」
「私物かー、俺は区長とはそこまで親しくないからな」
「ああ、それなら前ここに来た際忘れていったペンがあるが……」
「おっそれで十分だ、ちょっと借りるぜ」
俺は偉そうなおっさんが取り出してきたペンを受け取った。
区長と探すにしても敵を探すにしても、追う手立てがなければ何も始まらない。だがペンがあるのなら、クウはそこに染み付いている区長の匂いを辿ることが出来る。
さっきまでの何も情報が無い状況に比べたらだいぶマシになってきた。
「ペンなんか持って行って何に使うつもりだ?」
「こいつの匂いを辿るに決まってんだろ。じゃ、時間が惜しいから俺はもう行くぜ!情報ありがとな!」
赤髪の女性が使用用途を聞いてきたが、時間が無いのでささっと理由を伝えて、そのまま会議室を飛び出す。
説明が簡潔すぎたのでこのままだと変な誤解を招きそうな気がするけど、まぁ今は気にしないでおこう。きっとガンマが上手く説明してくれるはずだ。
――
「あの子、匂いを辿るとか言っていたがどういうことだ……?」
「大将は鼻が効くからな!文字通り匂いを追うに決まってんだろ!」
「匂いを……そうか、変わった特技だな。もしやテンス持ちか?」
「テンス?な訳ねーだろ、気合いでやんだよ気合いで!」
「……なるほど、全く意味が分からんな」
アカリの希望も虚しく、ギルド会議室では妙な誤解が生まれてしまっていた。ガンマに頼ったアカリの不備である。
――
会議室を飛び出した俺は、人気を避ける為一旦適当な建物の屋根に飛び乗る。
「さてと、出て来てくれクウ!」
「クアァッ!」
屋根に乗り人目が無いことを確認すると、俺はモンスターボックスからクウを呼び出した。
闘技場に魔物が現れてからはずっとモンスターボックスに入ってもらって魔力を提供してもらっていたが、匂いを辿るにはクウ自身の鼻が不可欠。その為一旦ボックスから出てきてもらう必要がある。
「さてクウ、このペンに染み付いてる匂いを辿れるか?」
「クウー!(こんなの簡単だよー!)」
「よっし!それじゃあ頼むぞクウ!」
ペンの匂いを覚えたクウは、すぐさま目標の方角を絞る。場所さえ分かれば、後はそこに向かって全力で走るだけだ。
「あっちか、道案内は任せるぞ!」
「クアッ!(うん!着いてきてアカリ!)」
クウがモンスターボックスに居ない為、ストレージに貯めてある魔力で身体を強化して高速で走る。
空間魔法で移動してもいいのだが、人目の多い町中でそれを使うのは躊躇われるからだ。それに、まだ敵の強さが分かっていない現状でクウの魔力を無駄遣いさせる訳にはいかない。
それならまだ、俺がサルみたいに屋根を飛び移って目立つ方が健全だ。
「そろそろ街の出口だ――うぉっ!街の外もネズミ共が溢れかえってやがる……!」
街の門から外を覗くと、そこには街全体を包囲する様に無数に湧いているネズミ共の姿があった。まるで俺達を誰一人ここから逃がさないと言わんばかりの陣形が、明らかに人の作為を感じさせる。
やはりこの事件、必ず誰かしらの首謀者が居るのは確定だろう。そしてガンマの予想通り、敵が区長を攫って逃亡している確率が跳ね上がった。
「これは急がないと間に合わなくなるな」
「クウ?(どうするのアカリ?)」
「クウは匂いの方角を覚えといてくれ。今から融合してここを強行突破する!」
「クアッ!(分かった!)」
このネズミ共の軍勢を越えるためには、クウと融合する必要がある。だからクウには場所をしっかり覚えておいてもらい、力をもって無理やりこの場を突き破ることにした。
右腕のガントレットにクウが触れることで眩い閃光が迸り、俺とクウの体は合わさる。
「よし、行くぞクウ。最短距離を正面突破だ!」
『クウー!(やっちゃえアカリー!)』
「「「キュイイィィー!」」」
門を飛び出しネズミ共の群がる陣を正面から駆け抜ける。その感俺達の道を邪魔する魔物は全て、蹴って殴って撃って投げて尽く砕いて行った。
数だけはやたら多いが、融合体である俺達を相手にするには全くの力不足だ。簡単に吹き飛んでいくネズミ共を置き去りにし、俺達はあっという間に包囲網を突破する。
「抜けたっ!このまま一気に追いつくぞ!」
『クウー!(いけいけー!)』
包囲網を抜け出した俺は、そのまま攫われた区長を救出する為に駆け出そうとする。
だが、それはとある人物との意外な再会によって止められてしまった。
「……リーシャン、ここで何してるの?」
「えっ、なっ!リリフィナ、お前こそこんな所で何を……!?」
ネズミ共の陣を突破したタイミングで俺に声を掛けてきたのは、ガゼルの双子の姉であるリリフィナだった。なぜ彼女がこんな危険な所にいるのだろうか。まさか、彼女もこの陣を突破した猛者だとでも言うのか。
「……私はギルドの依頼を受けてて、達成したその帰り。でも見ての通り帰れなくなってるだけ」
「な、なるほど、元々外に居たってわけか。剣舞会は観てないのか?」
「……興味無い」
「あー確かに、お前ああいうの嫌いそうだもんな」
どうやらリリフィナがこの場にいたのは、単に外に出ていたら帰れなくなってしまっただけらしい。確かに街を包囲するあの無数のネズミ共を前にしたら、街に帰る気が失せるのも納得だ。
「……それより、早く私の質問に答えて」
「ごめんごめん、俺は攫われた区長を救出する依頼を受けて街を出てきた所だ」
「……区長が攫われた?」
「ああ、だから今はお前に構ってる暇は無いんだ。悪いけど急いでるからこれで――」
「……待って」
いつまでもリリフィナと話している時間は無いのですぐその場を後にしようとするが、残念ながらそれはリリフィナによって止められてしまった。
何故か彼女は俺の足をがっちりと掴んで離そうとしない。一体何が目的だというのか。
「お、おい離せよ!行けないだろ!」
「……私も行く」
「はぁ!?何でだよ!」
「……今のままじゃ街に帰れないから暇。それにこっちの方が面白そうだし、リーシャンには聞きたいこともある」
「面白そうってお前……」
確かに現状ではリリフィナは街へ帰還することは出来ないだろう。だからといって、何を聞きたいのか知らないが俺に着いてこようとするとは、本当に命知らずの馬鹿だな。
そういや、こいつ前にも危険区域に一人で挑戦してたことがあったな。一体どこからその度胸が出てくるのやら。
「だけど俺は急いで追わなきゃいけないんだ。お前の足に合わせてやる余裕は無いぞ?」
「……その心配ならいらない。私にはこの移動用マジカロイドがあるから」
『ボロウゥ!』
「うわー、だせぇ……」
リリフィナじゃ俺達の足には着いて来れないだろうと指摘するも、彼女は胸を張りながら後ろにあったマジカロイドを指差す。
相変わらず変な鳴き声を上げるそのマジカロイドは、一輪車みたいな大きさで、タイヤ部分がダンゴムシみたいな生物の一人乗りっぽい移動用のものだった。
すごくかっこ悪いけど、確かにこれがあれば移動は問題じゃないか。
「はぁ……分かったよ。こんな所に一人残してネズミ共にやられても後味悪いし、好きにしろ」
「……うん、好きにする」
リリフィナを放置して結果死なれては寝覚めが悪いだろうし、移動も問題無いのなら断る理由は無い。俺はリリフィナの同行を渋々了承した。
こうして謎の組み合わせでの、区長救出任務が幕を開ける。




