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三章 7.足掻いても虚しく過ぎる時間……

 マリナ、セルシー先輩、マルク先輩と別れた俺は、再び女子生徒が泊まっている宿へと戻って来た。

 中に顔を覗かせると、先程と同じテーブルに既に三人が腰を下ろしているのを発見する。どうも雰囲気が暗いが、あっちは上手くいかなかったのだろうか。


「待たせたな、運営の方はどうだった?」

「ん、アカリか。こっちは散々だった……」


 俺も席に腰を下ろしながらガゼルに問いかけるが、何とも覇気の無い返事が帰ってきた。やはり上手くはいかなかったようだ。


「何故か運営側は僕が家との縁を切られたことを知っていて、勇者でない者が口を出すなって怒られた……」

「本当に酷い話です。あの人達、こちらの話を聞く気が全くありませんでしたからね……」

「そうか、やっぱそっちにもアインディア家が手を回してるか」


 どうやら運営側は、セロル達の訴えなど一切真に受けてはくれなかったようだ。

 セロルは剣舞会であれだけ活躍していたのだから、さすがに顔を知らないということも無いだろうし、そうなると考えられるのはアインディア家の仕業しかない。

 大方運営側に金でも握らせて、こちらの意見を聞かないように小細工でもしたのだろう。


「くそっ!やはりこうなったら直接殴り込みに行くしか無いか……!」

「それはダメですよ。状況を悪くするだけで何の解決にもなりません」

「だがこのままただ指を加えている訳には――」

「もう大丈夫だよ、皆ここまで協力してくれてありがとう。これは僕の問題だから、僕自身でどうにかしてみるよ」


 ガゼルはもう強硬手段に出るしかないと説得しようとしてくるが、それを遮る様にセロルが声を上げる。

 自分でどうにかする、か。いまのセロルに出来ることはそう多くは無い。恐らくやるとしたら、今からアインディア家に頭を下げに行って、どうにか許してもらうくらいだろう。

 冗談じゃない。例え状況が悪くとも、あいつらに負けを認めるなんて間違ってる。


「落ち着けセロル、今は少し様子を見るべきだ」

「様子を見るっていっても、もうやれることなんて何も無いじゃないか……!」

「分かってるよ、だからこそ俺はついさっきどうにか出来そうな人に協力を取り付けてきたところだ。剣舞会は難しいかもしれないけど、上手くいけば魔剣は手に入る」

「アカリ、お前そんなことしてたのか……」

「そう言えばアカリくんの服装、先程までと違いますよね。何してたんですか?」

「まぁ少しな。結果が出たら改めて報告するよ」


 正直セロルを本家の養子に出来るかどうかは、全てマルク先輩の腕に掛かっている。もちろん失敗する可能性もある為、今は下手な期待を与えないように詳細は伏せておく。

 ただ上手くいっても家は変わってしまう為、剣舞会復活は難しいだろう。せっかく予選を勝ち抜いたのに、やはりアインディア家は許せない。


「まさかアカリ、闇市場に手を出したんじゃ無いだろうな?それは違法だぞ」

「んなことするかよ!安心しろ、ちゃんと合法の正攻法だから」


 さすがの俺も、犯罪にまで手を出したりはしないから。

 てか闇市場って魔剣も出回ってるのかよ。そっちの方が凄いんだが。誰だよ売り捌いた奴。


「兄貴は本当に凄いね、僕のことなのに僕以上に色々と考えてくれて……本当にありがとう」

「気にすんなよ、仲間なんだから当たり前だ」

「でも、兄貴が居てくれなかったらきっと僕は今も虐められてて生きるのが嫌になってたと思う。兄貴は僕の命の恩人なんだ」

「バカ言うな、俺だってセロルに助けられてることは沢山あるんだ。お互い様だよ」


 命の恩人か、俺はそこまで大層なことをしたつもりは無い。俺の方こそセロルに助けられる場面は多かった。こんな変人と学園生活を一緒に過ごしてくれるのは、セロルを含めここにいる三人だけだ。

 俺は彼らの為なら命すら賭ける覚悟はある。


「でも兄貴は僕の為に影でいつも頑張ってくれてる。こんなに良くしてもらって、僕は幸せ者だよ……」

「大袈裟だな〜、まだ上手くいくかは五分五分だし、上手くいったとしてもそれはセロルの望んだ結果にはならないかもしれない。だからあまり期待はするなよ?」

「分かった。僕も兄貴にばかり頼っていられないし、自分でも他に何か出来ないか探してみるよ!」


 セロルは自分のことを幸せ者と言うが、彼女のこれまでの過去を思うと、もっと幸せになるべきだと思う。

 無事にセロルを勇者一族本家に入れられたら、今度こそアインディア家に仕返しをする策を練らなければ、さすがに俺も我慢の限界だ。


「まだ剣舞会の決勝本戦までは数日あるんだ。皆で頑張って打開策を探していこうぜ!」

「ああ、当然だ」

「任せて下さい!」

「皆ありがとう。僕きっと皆の想いに応えてみせるよ!」


 剣舞会まで何が出来るかは分からないが、やれるだけのことは全てやる。そう皆と決意を新たにし、俺達は団結して行動を開始するのだった。









 ――









 そうして一週間が経過し、いよいよ剣舞会決勝本戦の日がやって来た。

 あれから俺達は、署名を集めたりセロルが被害者であることを訴えたりと様々な手を尽くすも、結局全ては無駄となった。マルク先輩ともあれから会えておらず、セロルが本家の人間になれたかどうかは分からないままである。


 結果として、セロルは決勝本戦を失格にされたまま当日を迎えてしまったのだ。


「くっ、あれだけ手を尽くしたというのに……!」

「結局大人の言うことには逆らえないのでしょうね……」


 セロルが復活出来なかったことにガゼルは苛立ち、ネネティアは半ば諦めかけたの様に肩の力を落としている。


「今年はダメだったけど剣舞会は来年もあるんだから、それまでにどうにかすればいいんだよ。皆ここまで本当にありがとうね」


 当事者である筈のセロルは何故かガゼルよりも怒りは小さく、むしろ清々しい様な顔をしていた。もう少し悔しがると思っていたのでこの反応は意外である。

 彼女の中ではもう既に、今回の件は折り合いがついているみたいだ。なら外野の俺達がこれ以上蒸し返すのは野暮ってものだな。


「アインディア家へのリベンジは来年きっちり果たせばいいさ。今は決勝本戦に出場した奴らを応援してやろうぜ!」

「うんそうだよ、学園出身の勇者一族も沢山いるんだしね!」

「……分かった、セロルがそう言うなら俺も切り替えよう」

「えぇ、いつまでも落ち込んでいたって仕方ないですものね!」


 俺とセロルの励ましもあってか、ガゼルとネネティアは多少の元気を取り戻した。

 さて、セロルは失格になってしまったが、決勝本戦にはマリナやマルク先輩が出場している。二人の応援もきっちりこなさないとな。


『さぁー今年もこの時がやって来たぞ!剣舞会決勝本戦!今年も数多くいる強者の中から頂点を勝取り、二十一代目勇者マージュ・ブレイディアに挑戦するのは誰なんだー!?』


 拡声用魔道具を通して、実況のけたたましい開幕の挨拶が会場の熱を上げていく。これがあるかないかで出場する勇者一族のやる気も大きく変わってくるだろう。

 そして、無作為にトーナメントに振り分けられた一回戦の組み分け選手が、闘技場の中央へとやって来る。いよいよ、剣舞会決勝本戦が幕を開けるのだ。


『剣舞会決勝トーナメントで最初に戦うニール・ダインディア、ゼション・レインディアの両選手が出揃った!さぁ、今年も遂に熱い戦いの火蓋が切って落とされる!』

「一回戦第一試合……開始!」


 ブアァン!


 審判員が試合開始の掛け声と同時に合図の空砲を鳴らし、こうして剣舞会決勝本戦は幕を開ける。


 だがこの決勝本戦が最後まで行われることは無かった。何故なら、この一大イベントで世界中から人が集まるこの土地を狙って、奴らの侵略が水面下で着実に近づいていたからである。


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