三章 2.勇者剥奪
ガンマ、シーラと飲み明かした翌日、二日酔いで昼過ぎまで寝込んでいたところを、突然現れたガゼルに叩き起された。
「おい!いつまで寝てんだ、とっとと起きろ!」
「うっせーなー、急に来て何だよ……」
「セロルがピンチなんだ!寝てる場合じゃない!」
「えぇ?セロルが?」
いきなり起こされて不機嫌な俺に、ガゼルは切羽詰まった様な顔で俺をどこかへ連れて行こうとする。
セロルがピンチだとか訳の分からないことを言って、説明も無しにどこへ行くつもりなのか。
「早く来い!このままじゃセロルが、勇者じゃなくなるぞ!」
「はぁ?セロルが勇者じゃ無くなるって、どういうことだよ。詳しく説明し――」
「話してる暇は無い!とにかく行くぞ、着いてこい!」
「ったく、わーったよ。行けばいいんだろ行けば」
状況を説明してもらいたかったが、ガゼルのこの慌てようでは話を聞ける雰囲気では無かった。
だからここは仕方なく、彼の言葉通りに着いていくことにする。そうすれば何故そこまで慌てているのか、その理由もすぐに判明するだろうからな。
「はぁ、はぁ、着いたぞ……」
「ここか?」
ガゼルに案内されてやって来たのは、女子生徒が泊まっている宿の前だった。ここで一体何が起こっているのやら。まさか、街の中に魔物でも出たのか?
「あ、兄貴、来てくれたんだ……」
「おおセロル、ガゼルに連れられて来たんだけど別に普通そうだな。何かあったのか?」
「そ、それは……」
宿の前に居たセロルに声を掛けられ駆け寄ってみると、そこに居たのはいつものセロルだった。
特に怪我とかをしているわけでも無さそうだし、ガゼルは何をそんなに焦っていたのだろうか。
「セロル、あいつらはもう行ったのか?」
「うん、ついさっきね」
「私も止めようとしたんですけど、全然ダメでした……」
「くそっ、遅かったか……!」
もう行ったってことは、さっきまでここに誰か居たのだろうか。ガゼルは悔しさから壁に拳を叩きつけて怒りを露わにしている。彼がこんな感情を剥き出しにするなんて珍しいな。
本当に一体何があったんだ?
「おい、いい加減状況を説明しろよ。何があったんだ?」
「ガゼルくん説明して来なかったんですか?」
「時間が惜しかったからな」
「そうでしたか。ならここで立ち話をしていても仕方ないですし、一旦中へ入りましょう」
何が何だかはよく分からないが、とにかく事態としてはもう手遅れなんだという雰囲気は察せられる。
俺達は暗い雰囲気のまま、女子生徒が泊まっている宿の中へと入っていく。
宿の一階はカフェの様に軽い飲食が出来るスペースとなっている為、宿泊客以外でも利用が可能となっていた。
俺達は適当なテーブルに腰を下ろし飲み物を注文すると一息つく。
「で、何があったんだ?詳しく説明してくれ」
「そうだな、まず何から話すべきか……」
「僕が説明するよ。これは僕の、僕達の問題なんだし……」
「……分かった、それなら任せる」
席に着いて三人とも多少は気持ちが落ち着いてきたのか、冷静さを取り戻していた。
誰が話してくれるのか待っていると、セロルが名乗りを上げる。ガゼルも最初からセロルがピンチだとか言ってた訳だし、まぁここは当事者が話すのが一番手っ取り早いわな。
「それで、何があったんだ?」
「うん、実は僕ね……勇者一族じゃなくなったんだ」
「……は?」
セロルの放った一言が理解出来なかった。勇者一族じゃなくなったってのは何の冗談だ?どういう意味で言っているのか全く分からない。
「ど、どういうことだよ……」
「さっき僕の家族が宿に来たんだ。その時、「お前は家を出たのだからもう勇者一族では無い。そのことは剣舞会にも伝え終えている。勇者でない者が魔剣を使う資格は無い。とっとと差し出せ」ってそう言って、僕の魔剣を奪って行ったんだ」
「何だよ、それ……」
「僕は勇者一族を勘当されて、魔剣も没収されたんだ。当然剣舞会も失格らしい……」
セロルの語る事の真相に、俺は怒りが抑えられなかった。いくらセロルに負けたからといって、身内の決勝進出を喜ばずむしろその邪魔をするなど、もはや血の繋がった人間のすることじゃない。
許せない、セロルの努力を踏みにじりやがって。
「……ん?お、おい、どこ行く気だ!?」
「決まってんだろ。ぶっ潰して魔剣を取り返してくる」
怒りが抑えられず無言で立ち上がる俺を見て、ガゼルが驚いたように聞いてくるので、俺は当然とばかりにそう答えた。
声音は静かであるが内心に湧き上がる怒りを抑えることが出来ない。今すぐあのクソどもをぶっ潰してやりたいという気持にが溢れ出てくる。
「殴り込みにいって解決することじゃ無いだろうが!」
「っ!じゃあこのまま黙ってろってのかよ!」
「だから、どうするかこれから考えるんだろうが!」
「んなもん待ってられるかよ!」
「ちょ、二人とも落ち着いて下さい……!」
セロルの家族の所へ突撃しようとしたが、それはガゼルによって止められてしまった。ただただ怒りを抑えられない俺は、そのままガゼルと言い合いになったが、それはネネティアに止められる。
「兄貴、怒ってくれるのは嬉しいけど、そんなことしたら兄貴に迷惑だよ……」
「迷惑なもんか、セロルに何の恨みがあるのか知らねーがこのまま黙って何ていられねーよ!」
「いいんだよ。あの人達の言ってることは最もだし、それにこれで家族との縁は完全に切れたんだ。もう虐められる心配をしなくて済むと思うと、少しホッとしてる自分もいるんだよね……」
「セロル……」
セロルの家族に殴り込んだら俺は当然捕まるだろうし、最悪学園も退学になるだろう。だがそんなどうでもいいことよりも、セロルを蔑ろにした奴らが俺には許せなかった。
しかし、セロルはそんな俺の心配をして止めてくる。自分にくだらない嘘までついてな。
「……分かったよ、当事者が止めてくるんじゃ仕方ないな」
「うん。ありがとう兄貴、怒ってくれて嬉しかったよ……」
「はは、当たり前だろ。セロルは俺の大切な友達なんだから」
「兄貴……」
今回の件は当事者のセロルが一番悔しいはずなんだ。それでもセロルは優しいから、俺達のことを思って大事にしないよう、このまま何もせず黙ってるつもりらしい。
口では笑って平静を装っているが、明らかに不安を受けているのは目を見れば分かる。こんなに動揺しているセロルを見たのは初めてだ。
本人が一番辛いというのに、下らない気を使わせてごめん。部隊の隊長として、そして友として、必ず俺がどうにかしてみせるよセロル。
「よし、とにかくまずは剣舞会の運営に掛け合ってみよう。いくら父親の進言があったからとはいえ、いきなり縁を切るなんて常識的じゃないからな」
「そうですね、セロルさんの意見も聞かないでいきなり失格なんて流石にしないでしょうし。すぐに行きましょう!」
剣舞会の運営陣に事情を説明しに行くのは正しい対応だろう。セロルの言い分を聞けば向こうも事情を理解して、魔剣を取り戻すのは無理だとしても、決勝失格は取り消してもらえる可能性はある。
今取れる手立てとしては最善だ。
「うん、早速行ってみるよ!」
「俺たちも着いて行くぞ!」
「えぇ、もちろんです!」
セロルは事情を説明しに行こうと早速動きだし、ガゼル達もそれに続くように立ち上がる。
そっち側はセロル達だけで十分だろう。実際その場に遭遇していたのは三人なんだしな。
だから俺は、一度ガゼルたちとは別行動を取る。
「おいアカリ、お前は来ないのか?」
「悪いな、俺はちょっと別の所を当たってみるよ。そっちは任せたぜ」
「まさか、親の所に行くつもりじゃないだろうな?」
「んなことするかよ。安心しろ、別の場所だ」
セロルに止めろと言われたのだから、無謀な殴り込みをするつもりは無い。俺はもう一つの、この状況を打開してくれそうな人物の所へと向かうつもりだ。
こうして、俺はある人物に助けを求める為に一人別行動を開始する。




