三章 3.勇者の威を借る魔王
セロル達と別れた俺は、街を出て荒野へと向かっている。
「クウ?(何ですぐ戦いに行かないの?)」
「セロルがそれを望んでないからだよ」
「クウー(でもアカリが行けば簡単に勝てるのに)」
「勝てはするだろうけど、それでも後々俺は犯罪者として吊るし上げられるだろうし、満たされるのは一時の気分だけだ。それより今回のことは、もっと根本から解決する必要がある」
クウもだいぶ怒っている様で、俺に好戦的な提案をしてきた。俺だって出来ることなら今すぐあいつらの顔面をぶん殴ってやりたいが、そんなことしたって結果的にはセロルを苦しめることになる。
だから俺は、力以外での解決を求めてこの荒野にやって来た。ある人物の力を借りる為に。
「むっ、やっと来たわねアカリ!遅刻よ!」
「悪い悪い、色々と問題が起きてな」
そう、俺が会いに来た人物とはマリナのことだ。勇者一族本家である彼女なら、何か打開策を見出してくれるのではと思い頼りに来た。
「問題?」
「ああ、実はセロルが――」
こうして俺はことの経緯を説明し、そのせいで来るのが遅れたとマリナに告げる。
本当の遅刻の理由は二日酔いで寝込んでただけなのだが、そっちは黙っておこう。バレると面倒だしな。
「何よそれ!酷い家族ね、絶対に許せないわ!」
「流石にやり過ぎよね〜、負けた腹いせにしては手が混みすぎてるし不快だわ」
「マリナ、俺達に力貸してくれないか?頼れるのはお前だけなんだ」
正直本家の人間に助けを乞うなど、学校の先生や親にチクるレベルのことをしてるという自覚はある。だが、そんな俺の体裁なんぞどうでもいいから、今はどうにかしてセロルを助けてやりたい。
俺に出来ることと言ったら、このコネクションを利用して力ある者に協力してもらうくらいしかないからな。
「へ、へぇー、頼れるのは私だけ……そっかー……」
「ああ、マリナだけが最後の望みなんだ」
「そ、そこまで言われちゃ手を貸さない訳にはいかないわね!さぁ、早速行くわよアカリ!」
「おう!今日のマリナは一段と頼もしいぜ」
よく分からないけどマリナも随分とやる気になってくれたようだし、これなら本当にどうにかなるかもしれない。
このままセロルの家族の所へ乗り込んで、とっとと解決してやるぜ。
「はぁ、乗せられちゃって単純なんだから。頼られて嬉しかったのね……」
急ぐ俺達の後でセルシー先輩がよく分からないことを呟いていた。気にはなるが、今はセロルのことの方が大事だし置いておこう。
ともかくこうして、俺は力強い味方と共にアインディア家に乗り込みに向かうのだった。
――
意気揚々と街へ戻って来たはいいが、問題が一つあった。
アインディア家の居場所が分からない。
「何であんた場所知らないのよ!」
「仕方ねーだろ、いちいち聞いてる余裕無かったんだから」
「だからって場所が分からないとどうにも出来ないじゃない!」
「わーってるよ!クウ頼むぞ」
「クアッ!」
プリプリと怒り散らしてくるマリナは一旦無視して、俺は頭に乗っているクウに頼み、力を借りることにする。
クウは鼻が利く為、セロルと同じ匂いのする場所を辿ればいつかはアインディア家を見つけられるはずだ。
「クウッ!(あっちの方だよ!)」
「了解!場所が分かった、行くぞマリナ!」
「えっ、何でもう分かるのよ?」
「クウがあっちの方だって教えてくれたからに決まってんだろ」
マリナは突然場所が判明したことに驚いているが、クウならこの程度造作もない。
とっとと居場所を突き止めて、本家の威厳を見せつけてやるぜ。
「はぁ、意味分かんない……」
「クウちゃんって凄いのね。人の居場所を突き止められるマジカロイドなんて私初めて見たわ」
「気にするだけ無駄よ。あいつは魔王だから常識なんか通用しないわ」
「確かに」
マリナとセルシー先輩は何やら呆れたようなことを言っている。全く、クウが優秀なのは今に始まったことじゃないだろうが。
これからはもっとクウの素晴らしさを布教しないとだな。特にこの肌触りのいい体毛や、ちっちゃくて可愛らしい手足とか。
「クアッ!(余計なことしないでよ!)」
「余計なこととは失礼な。クウの素晴らしさを世界に広めようとしてるだけだ」
「クウー!(それが余計なことなのー!)」
せっかくクウの素晴らしさを広める計画を練ろうとしていたのに、クウに怒られてしまった。てか何でクウは俺の考えてることまで分かったんだろうか。まぁそこは、さすがは俺の相棒ということにしておこう。
「クウ!(あっ、ここが一番臭うよ!)」
「ん、ここか。サンキュークウ、助かったぜ」
「クアッ!」
クウと雑談をしながら街中を走っていると、ようやくセロル一家の居場所を突き止めた。
見た感じ中々高級そうな宿に泊まっているようだ。分家とはいえ勇者一族なだけはあって、金は持っているらしい。
「ここがそうなの?」
「ああ、そうらしい。どうする?こっそり中に入って探り入れてみるか?」
「いいえ、ここは正面から突撃よ。着いてきなさい!」
取り敢えず中を探って様子でも見ようかと提案したが、それは却下された。
正面からの突撃とは、堂々としていて頼り甲斐がある。これは本当に上手く行きそうな予感がするぞ。
「いらっしゃいませ、何名様でご利用でしょうか?」
「私達は客じゃないです。ここにアインディア家が泊まっているはずですので、呼び出して下さい」
受付のホテルマンみたいな男性を相手に、マリナはそう進言した。
そんなこと言って呼び出して貰えるんだろうか。ここは家族の体で呼び出してもらうとか、色々と策がありそうなものだが。
「申し訳ございません。どなたか分からない方を相手に、お客様の情報を話す訳にはいきません……」
「ぐっ、な、なるほど……」
だろうな。この結果くらい簡単に予想出来そうなものだが、なんだかんだでマリナも結構馬鹿なんじゃないだろうか。
だからこっそり様子を見ようって言ったのに。
「わ、私は勇者一族本家のマリナ・ブレイディアですよ!アインディア家とは親戚なんだし、それで証明にならないですか?」
「申し訳ございません」
「そ、そんな……」
「アホか」
なるほど、どうやらマリナは勇者一族本家の名を出せばどうにかなると思っていたらしい。
本当に馬鹿だな。これはもしかすると、頼る相手を間違えたかもしれない。
「こんな入口で騒いで邪魔だな。何をしている?」
「あっ、アインディア様、お帰りなさいませ……!」
マリナの馬鹿な行動に呆れていると、俺達の後ろから偉そうな声が聞こえてきた。その方向に振り返った俺は、嬉しさに内心歓喜している。
ホテルマンの発言といい、その風貌といい間違いない。後ろから突然現れたのは、セロルの父であり目的の人物でもある、リムフォ・アインディアだ。
「むっ、あなたは本家のお嬢様、それにご学友の方に……貧乏臭いガキが一人、一体何用ですかな?」
誰が貧乏臭いガキだ!と、ツッコミを入れたいところだが、今は余計な茶々を入れてる暇はない。
ようやく出会えた目的の人物を目の前に、逃がす訳にはいかないからな。
「何用ですって?そんなこと本当は分かっているんでしょうに。当然セロルのことで来たんですよ」
「ふん、打つ手も無くなり本家に泣きついたという訳か。情けない奴だ」
「なんだとこの――」
「情けないのはあなた達の方でしょう。セロルに負けたからといって、その腹いせに家から追い出し剣舞会にまで手を回すなんて、家族内不和にしては明らかにやり過ぎだと思いますよ」
リムフォの悪気の欠片も無い態度に腹が立ち怒りをぶつけようとするも、それはマリナによって遮られた。
さっきまでのマヌケっぷりはどこへやら、今は非常に頼りになる存在だ。やはりマリナに助けを求めて正解だった。
本家の威厳でこのままこいつらを懲らしめてくれ!




