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三章 1.旧友との飲み会

 セロルが剣舞会予選を突破した翌日の夜、俺は以前ガンマに連れてこられた個室のあるバーへと再び来ていた。

 そして一緒にいるのは、ガンマとシーラである。何となく、久しぶりにかつての仲間と飲み会でも開こうかと思い集めてみた次第だ。


「お前達とこうして揃って顔を合わせるのも久しぶりだなー」

「ですわね。何だか昔に戻ったみたいですわ」

「まぁたまにはダラダラするのもいいかと思ってな。ああ、ガンマはあんまり飲みすぎるなよ、後々面倒くさくなるから」

「馬鹿野郎、この面子で飲まずにいられるかってんだ!」


 二人もこうして集まれたのが嬉しいのか、今日は機嫌が良く見える。ただガンマは本当に酔うとウザいから釘をさしておいたんだが、これは無駄っぽいな。


「そういえば貴方様のチームの方、予選を勝ち上がったみたいですわね」

「そうなんだよ〜。いやー結構厳しい訓練させたから無事に成果が実って何よりだ」


 シーラは魔石を換金する繋がりで、うちの部隊メンバーとも何度か顔を合わせている。セロルの勇姿を見ていてくれたとは嬉しいな。


「おぉー剣舞会なら俺も見てたぜ。アカリの仲間ってのは誰のことなんだ?」

「セロルだよ。中盤はランキングトップになってた奴」


 そういえばガンマは、うちの部隊メンバーとは会ったことがまだ無かったか。今度機会があれば是非紹介したいな。


「あーあの嬢ちゃんか。確かに途中までは他の奴らを倒しまくって中々の強さだったな〜」

「は?え、い、今何て……?」

「だから、中々の強さだったなって――」

「いやその前だよ!え?嬢ちゃんって、お前あいつが女だって一発で見抜いたのか!?」


 有り得ない。このガサツそうな男に限ってセロルを女性だと見抜くなんて有り得る訳が無い。絶対何かの間違いだ。


「はぁ?何言ってんだ。そんなの一目見りゃすぐに分かるだろ」

「なぁっ……!う、嘘だろ、俺はガンマ以下だというのか……」


 絶対俺と同類かそれ以下だと思っていた相手に、見れば分かるとはっきり告げられてしまった。そんな馬鹿な、俺の目はこいつ以上に節穴だったというのか。


「まさかとは思いますけど、貴方様は気づいてなかったんですか」

「……うん」

「えぇっと……ち、ちなみにいつ頃気づいたんですの?」

「……昨日」


 あの毒舌吐きのシーラですら、苦笑いで聞いてくる。どうやらシーラも結構序盤から気づいていたらしい。まさか、ここまで鈍感なのは俺だけだと言うのか。


「……ぷっ、あっはっはっはっはっはっ!」

「ちょっ!笑ったら悪いですわよ!」

「ははははっ!わ、悪ぃ悪ぃ。だってよ、ずっと一緒にいたってのに、大将はあの嬢ちゃんのことをずっと男だと誤解してたんだろ?何だよそれ、滅茶苦茶おもしれーじゃねぇか!」

「う、うっさいな。仕方ないだろ、男にしか見えなかったんだから」


 シーラは気を使ってくれているが、ガンマは遠慮無しに盛大に笑ってる。まぁこればっかりは俺が一方的に悪いんだし、好きに笑えばいいさ。

 てかほんとに、何で昔の俺はセロルのことを男だと思い込んでたのかなー。


「まぁ大将は昔から魔獣にしか興味無かった訳し、仕方ないっちゃ仕方ないのかもな」

「ふふ、確かにそうでしたわね。貴方様はいつも生き物のことばかり考えてましたから」

「何だよそれ、それじゃまるで俺が人に興味無いみたいな言い方じゃねーか」


 全く失礼な奴らだな。俺は別に人に関心が無いんじゃなくて、魔獣の方に魅力を感じてしまっていただけだ。

 だってそうだろ。ただの高校生だった俺にとってドラゴンだのスライムだの、そんなファンタジーな生物を目の前にして、大人しくしてろって方が無理な話だ。


「クウー(アカリは優しいからそれでいいのー)」

「ありがとうなクウ、俺の味方はクウだけだよ……」

「クアッ!(せっかくアカリがあいつのことオスだって誤解してたのに、バレちゃってクウはちょっと怒ってるんだからね!)」

「え……ク、クウ?まさかお前も知ってて隠してたのか……!?」


 クウは俺を慰めてくれたのかと思ったが、どうやら違った。クウだけは俺の味方だと思ったのに、まさかの裏切りに頭の整理が追いつかない。

 じゃあ何か?セロルのことを男だと誤解していたのは、結局俺だけだったってことか?そんな馬鹿な、何で皆気づけるんだよ。


「クウッ(そんなの当たり前でしょ)」

「あ、当たり前なのか……」

「ふふっ、まぁ貴方様はそれでいいと思いますわよ。それくらい鈍感な方が似合ってますわ」

「違ぇねぇ、大将はそんな細かいこといちいち気にすんなよな!」


 性別の違いは細かいことではない気がするんだが。こいつらが一体俺をどういうキャラにしたいのか知らないが、俺はもっと感の鋭い人間でいたい。

 よし決めた、これからはもっと人にも興味を持つことにしよう。そうすれば二度とこんな恥ずかしい思いはしないはずだ。


「お前らの思い通りにはさせないからな」

「何をしても無駄だとは思いますが、頑張って下さいな」

「相変わらず辛辣だな!」

「はっはっは!俺は応援してるぜ大将。せいぜい俺と同じレベルには、人を見る目を養えよ」

「どいつもこいつも馬鹿にしやがって……!」


 俺の覚悟を聞いても、シーラとガンマは小馬鹿にするだけだ。絶対こいつらを見返してやるから覚悟しとけよな。


「クウー!(アカリはそのままでいいの!クウが居るんだからいいじゃん!)」

「何でクウは現状維持させようとするんだよ〜」

「クウ……(だってアカリはクウのものだもん……)」

「いや、クウのことは好きだけどクウの物になった覚えは無い」

「クアッ!(クウのなの!)」


 なぜか今日のクウは非常に機嫌が悪い。普段ならこんな意味不明なわがまま言わないのに、今日は虫の居所でも悪いのだろうか。

 ともかく、俺はクウの物では無いとだけははっきり言っておかなければ。


「その辺にしとけよ二人とも。それより、大将はこの世界に何しに来たんだっけか?」

「おいおい忘れたのかよ?俺はこの世界を救いに来たんだよ」


 いつまでも言い合いをしているおれとクウを宥めるように、ガンマは無理やり話題を逸らしてくる。

 全く俺の目的を忘れるとはいい度胸だな。こんな大層な夢を掲げる人間なんて、俺くらいのものだぞ?


「何でこんな馬鹿みたいな目的を忘れてるんですか?」

「悪い悪い、壮大過ぎて忘れてたよ」

「お前ら絶対馬鹿にしてるだろ」


 シーラはガンマを咎めるように毒を吐いているが、何故かその毒はこっちにまで拡散されてる。

 なんか今日はやけにこいつらに馬鹿にされるな。まぁ正直俺も馬鹿みたいだとは思ってるから、別にいいんだけど。


「で、俺の目的がどうしたんだよ?」

「いや別に大したことじゃないんだがな、森の引きこもりが魔物について研究してるって噂を耳にしたんだ。役立つかもしれないから一応伝えとこうと思ってな」

「ほほう、シンリーの奴森に籠って何をしてるのかと思えば、魔物の研究してるのか。それは色々と役に立つかもだな」

「あの子もただ引き篭ってる訳では無いのですわね。それが聞けただけでも安心しましたわ」


 シンリーが森に篭っているという話は前々から聞いてはいたが、何をしているかまでは今までは分かっていなかった。

 魔物の研究をしているというのなら、奴らを滅ぼす手立てももしかしたら見つけているかもしれない。これは早いとこ会いに行った方がいいかもしれないな。


「ただ会いに行くなら気を付けろよ。あいつ大将に惚れ込んでるから、来るのが遅いとブチ切れられるかも知んねぇぞ」

「ああ、それは有り得るな……」


 シンリーは魔人の中では一番俺のことを慕ってくれていた。そんな彼女に会いに行くのがだいぶ遅くなったのだから、何をされるか分かったものじゃない。

 なんか、急に会いたく無くなってきたな。


「魔王と呼ばれた貴方様にも、怖いものはあるのですわね」

「くははっ!森相手じゃ仕方ねぇだろ。そら魔王だってビビっちまうわな!」

「魔王魔王うるさいな、弄ってんじゃねーよ!」


 ガンマとシーラも酒が入ってだいぶ気が緩んできたのか、口が軽くなってきている。

 特にガンマなんかはだいぶ声量が上がってきていて、いくら防音に優れているとはいえ、これ外に声漏れてんじゃないだろうな。


「お前ら少しは興奮抑えろよな。声でか過ぎだぞ」

「おぉそうか?悪い悪い!」

「このバカ、もうダメですわね……」

「みたいだな……」


 声量を指摘するも、ガンマはもう完全に出来上がっており全く話を聞いていなかった。その後も昔話に花を咲かせ、魔王だのなんだのバレたらまずいことを沢山話してた気がする。


 しかし、この時の俺はあまり重く捉えていなかったのだが、ここでしていた会話はやはり外に漏れていたのだ。

 そして、最も聞かれてはならない相手に聞かれてしまっていたことを、俺は後に知ることとなる。


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