三章 プロローグ 大きな野望と小さな計画
雷が鳴り響き強い雨が降り注ぐ悪天候の中、真っ黒なローブにフードを目元まで被った、数人の集団が歩いていた。
そして、そんな集団の先頭を歩く男の名はメルト・レフコフ。彼らもまたこの世界の住民では無い、別の世界からの訪問者である。
「大地は恵み都市は栄えてる、か。やはりこの世界は俺達にとって邪魔な存在だ……」
「メルト、やはりやるつもりか?」
「当たり前だ。この世界が存在する限り俺達に未来は無いんだからな」
彼らの目的は、マリナ達の居るこの世界を破壊すること。すなわち世界の敵そのものであった。
そして、アカリの目的とは全くの対極に位置する存在でもある。
「でもこの世界の人間に居る数は途方も無いわよ。どこから手をつけるつもり?」
「安心しろ、俺達には数年間身を潜め調査した結果がある。どうやらここ数日は、世界最大の祭りとやらを催してるらしいからな。今回はそれを利用させてもらうつもりだ」
「おー、あのやけに盛り上がってたやつか!へへっ、楽しんでる奴らが一瞬で恐怖に染まる姿を想像すると笑っちまうな」
数年前からこの世界に潜み、彼らはずっとこの世界を調査していた。その入念な行動から、彼らの計画性の高さが伺える。そして、この世界を滅ぼすと口にするだけの、それ相応の実力も兼ね備えていた。
「キャスマン、あなた本当に口が悪いわね」
「だが事実だろ。お前はこの世界を壊したくねーのかよ?」
「あ?壊したいんじゃなくて、必ず破壊するのよ」
「だははっ!それでこそだ!」
豪快で粗暴な性格の男の名はキャスマン・グラジエフ。そして、そんな彼とは対象的に冷静な性格でありながらも、強い決意を持つ彼女の名はトリーラ・ルドニコフ。
二人もまたメルトと同じ志を持つ、この世界の破壊を目論む侵略者であった。
「しっかし、この世界の住人は呑気なもんだよなー。こんだけ魔物が繁殖してるってのに、全て放置してやがるんだからさ」
「確かに、魔物を倒す手立を何も考えずただ祭りに興じているなんて、不愉快以外の何者でもないわね」
「だからこそだ。俺達がこの世界の人間を滅ぼし、世界の幕を引くんだろ」
「だな」
魔物の存在と世界を滅ぼすことに何の繋がりがあるのか。彼らの持つ秘密は、アカリ達の求める世界を救う為の鍵になるだろう。
だが、明らかに世界と敵対する意志を見せる彼らと協力など出来るはずもない。争わずして、己の望むものを手に入れるなど不可能だということを、彼らという存在が証明していた。
「やるぞお前ら、俺達の手でこの世界に終末をもたらすんだ」
「「「了解」」」
メルトの掛け声に、トリーラ、キャスマンを初めとする彼らの仲間達が揃って返事をする。
かくして、アカリ達の新たな敵は密かに、しかし確実に忍び寄って来ていたのだ。
――
「くそっ!あの野郎調子に乗りやがって!絶対何か不正をしたに決まってるだろうが!」
アカリ達が剣舞会予選後の祝杯を上げている頃、別の店では酒を飲みながら荒れに荒れている男がいた。そう、セロルの兄であるロットだ。
彼はセロル負けたことを認められず、やけ酒に溺れていた。
「その辺にしておけ。いい加減不快だ」
「で、でもよ父さん、あいつが勝つなんてぜってー有り得ないだろ」
「いや、残念だがあいつは確かに強くなっていた。それは戦ったこの俺が保証する。お前もそろそろ自分の負けを素直に認めろ」
「くっ、あんな弱虫野郎にこの俺が負けるなんて……!」
いつまでも騒いでいたロットを父親であるリムフォが静める。ロットもさすがに父親を相手には逆らえないでいた。
だが、それでも格下だと思っていた相手に負けたことが相当悔しいのか、怒りが収まる気配はない。
「安心しろ、確かにあいつは強くなった。だが、あいつ自身がもう俺達家族との縁は切ると宣言したのだから、一つやっておくことはある」
「えっ?何だよやっておくことって?」
「あいつの魔剣を回収し、剣舞会を失格にする手配だ」
セロルの成長は認めつつも、リムフォは淡々と冷徹な声音で、残酷な仕打ちを口にする。さも簡単な手続きを済ませるかのように。
「なるほど、それは名案だよ父さん!でも、上手くいくのかな……」
「当たり前だ。縁を切るということは、それは最早勇者一族では無くなるということなのだから、当然だろ」
「確かに……言われてみればその通りだ!よしっ、早速あいつの魔剣を奪いに行くか!」
「待て、こういうものは事前の準備が大切なんだ。きっちり用意してから行くぞ」
ロットはセロルに仕返し出来るのが嬉しいのか、先程までの怒りなどどこへやら馬鹿みたいに喜び始めた。
しかし、すぐさま魔剣を奪う為動こうとするロットをリムフォは止める。
冷静に計画を練って動く、血も涙もないこの男の策略は、水面下で着々と進められていくのだった。




