二章 エピローグ 変わり果てたセロル
ずっと男だと思っていた相手が女だった時の衝撃は、とてつもないものだった。申し訳ないけどセロルが剣舞会を勝ち進んだことよりも動揺を感じている。
「なんか、今までごめんな。ずっと男だと思ってたから、だいぶ無茶な特訓とかさせちゃって……」
「そ、そんなことないよ!むしろ兄貴が本気で僕を強くしてくれようと色々してくれて、嬉しかったんだ」
「そうか、だけど毎日女子をボコボコにするとか、俺どんな鬼畜だよ……」
セロルは気にしていないみたいなことを言ってくれるが、一生残る傷とか付けてたら洒落にならんだろ。セロル自身が望んでいたこととはいえ、さすがにやり過ぎた感は否めない。
「確かにそうですよね。何だかんだで、アカリくんは私に対しては傷とかが残らないように、気を使いながら攻撃してた印象がありますし」
「何だよ、バレてたのか」
「当たり前ですよ。お二人と私とで受けたダメージ量が違う日なんて、結構多かったんですからね」
「それはまぁ、ごめん。さすがに俺も無意識に加減してたんだと思う……」
訓練で手を抜いていたことを少し怒っているのか、ネネティアは頬を膨らませながらここぞとばかりに愚痴を漏らしてくる。
やっぱりネネティア本人も、そのことは少し気にしてたらしい。
「別にいいんですけど、私だけ仲間外れで寂しかったです」
「ほんとごめんよ。まぁお詫びと言ってはなんだけど、本気でネネティアの不運体質どうにか出来ないか考えてみるからさ」
「ほんとですか!?是非お願いしますね」
「あ、ああ、善処する……」
さすがに申し訳ないので何かしなければと思い、つい不運をどうにかすると進言してしまった。
正直運なんて何から手をつけたらいいのか分からないけど、しかし前々からの課題ではあったのだし、そろそろ本気で考えるにはいい頃合いかもしれない。
「遠慮も無く本気でやられるのは、それはそれで結構辛かったんだがな。まぁそれが訓練の目的だから仕方ないが……」
「その分ガゼルは打たれ強くなったんだから許してくれ」
「分かってる、俺のはただのわがままだから気にするな」
ガゼルもここぞとばかりに愚痴を零してきたが、そこまで本気の発言では無いっぽい。本人もあの訓練には納得してるようで一安心だ。
「この際ですから、セロルさんもアカリくんへの不満をぶつけてみてはどうですか?」
「この際って何だよ!いや、何か不満があるならはっきり言ってくれて構わないんだけどさ……」
ネネティアの発言に思わずツッコミを入れてしまったが、セロルに関しては性別を間違うというアホみたいな失態をおかしてしまっている。だから何を言われても反論の余地はないだろう。
ネネティアの言う通り、もうこの場でこいつらの不満を全て聞き出してやろうじゃないか。
「僕は不満なんて無いよ。兄貴のお陰で家族との因縁を晴らすことが出来たんだから、感謝こそあっても文句なんて思いつかないかな」
「セロル……」
「それにここだけの話、毎日兄貴の本気の攻撃を受ける訓練の日々を重ねる度に、何だか兄貴と一つになれてる気がして心地良かったんだ」
「セロル……?」
「そう、僕はもう兄貴との訓練無しでは生きていけない体なっちゃったんだ。だからこれからも男とか女とか関係無く、思いっきりよろしくね兄貴!」
「やばい!セロルが完全に壊れてる!」
最初の方はいいこと言ってくれるぜなんて思ってたけど、後半から発言がどんどんおかしくなっていった。
これは完全にアウトだ。セロルはもう既に取り返しがつかないレベルで壊れてしまっている。
「アカリくん、ちゃんと責任取って下さいね……」
「さすがにやり過ぎたな。これに懲りたらもっと人を見る目を養うことだ」
「なっ、お前ら全部俺に押し付ける気かよ!?てかガゼル!お前も最初の頃はセロルのこと男だと思ってたくせに、何そっち側に寝返ってんだ!」
ガゼルに関しては、以前俺がセロルの寮について話した時、確かに男だと誤解していたはずだ。
なのに何故、さも当然とばかりに知ってる側に寝返ってんだこいつは。
「ああ、俺はアカリが昔セロルを調べるとか変なことを言い出した次の日に、本人から聞いていたからな。確かアカリが魔石を換金しに行ってた時だったか?」
「はあぁ!?知ってたなら言えよおい!」
「一人で納得して伝え忘れていた。すまん」
「勝手に完結してないで報告してくれー!」
ガゼルも仲間だと思っていたのに、まさかの裏切りに絶叫が止まらない。しかも言葉では謝っているのに感情を一切篭っていないから、こいつ絶対悪いと思ってないだろ。
こうなったら腹いせに、リリフィナにガゼルが借金してるってことをチクってやろうかな。
「それで、剣舞会の決勝本戦はいつから始まるんですか?」
そんな風にガゼルと喧嘩をしていると、馬鹿騒ぎもそこそこに、ネネティアが話題を変えるように今後の話を持ち出してくる。
「本戦は一週間後だよ。ここからは毎年恒例のトーナメント戦で、優勝した一人だけが現勇者と戦えるんだ」
「へぇー、現勇者って誰なんだ?」
「マリナ先輩やマルク先輩の実の父であるマージュ・ブレイディア様だよ」
「なるほど、本家の当主って訳か」
どうやら今の勇者はマリナの父親らしい。まぁ基本的に本家の人間が勇者を引き継ぐんだろうから、当然と言えば当然の事実か。
「マリナ先輩の家に孤児でいたアカリなら、知ってて当然じゃないのか?」
「え、何で?」
「何でって、孤児なら一緒に暮らしてたんだろうが」
「ん?あっ……そ、そういうことね!あ、ああ、もちろん知ってたさ!当然だろ!」
ガゼルが何を言いたいのかよく分からなかったが、ようやく思い出した。
そういや俺、前にガゼルに対し孤児でマリナの家に拾われたって設定を話したことがあったな。
まずい、確かにその設定なら知ってなきゃどう考えても不自然だ。ここはどうにか誤魔化さないと。
「ま、まぁ、孤児だから本家の人間と接する機会は全然無かったんだ。それに俺は結構世間知らずだったから勇者にも無頓着で、興味無かったんだよ……!」
「……そうか、それなら仕方ないな」
俺の苦し紛れの言い訳に、ガゼルは半信半疑という様子だったが一応は納得してくれた。この感じだと次何かあったら隠し通すのは厳しいだろうな。
これ以上ボロが出ないように気をつけないと。
「兄貴、孤児だったんだ……」
「それは知りませんでしたね」
「ああ、そういや俺の話はあんまりしたこと無かったからな。まぁ別に俺は何とも思ってないから、重く捉え過ぎるなよ?」
俺が孤児だと聞いてセロルとネネティアは少し暗い雰囲気になってしまった。別にただの設定なんだから気にするな、とはさすがに言えないので出来るだけ明るく振舞って誤魔化す。
「ほら、今日はせっかくのセロルのお祝いなんだから、もっと盛り上がっていこうぜ!」
俺は場の雰囲気を和まそうと明るく声を上げ酒をあおる。
こうして、アルテラの街に来てからの一週間は流れるように過ぎていったのだった。
二章までの灯のステータス
竜胆 灯
戦闘力:トイブラスターを手に入れたことで遠距離攻撃も可能となり、戦術の幅が大きく広がった。必殺のビーム攻撃は、魔物を体内から破裂させるという極悪非道な威力を誇る。あまりにグロい為滅多なことじゃ使わない。
精神力:上下関係を意識出来るようになり、少しずつ敬語が様になってきた。だが、喧嘩を売られたらすぐ買ってしまうという短気な性格はどうにもならない。セロルを男だと誤解するくらいには鈍感。
所持金
75万ポット:魔物狩りやガンマから割のいい依頼を受けたことで、懐事情もだいぶ余裕が出てきている。ただ相変わらず食費が途方も無く膨大な為、この程度の貯金ならすぐに溶けてなくなってしまうだろう。
所持魔道具
・トイブラスター…アカリ専用の魔道兵器。自身の魔力を弾にする為、弾薬を補充する必要が無い。引き金を引き続けることでビームを放てる。
・モンスターボックス…魔獣を入れて置ける特殊な檻。
・モンスターリング…魔獣の居場所を知ることが出来る指輪。
・モンスターピアス…魔獣の話す言葉の意味が分かるようになる耳飾り。
・モンスターガントレット…魔獣と融合出来る小手。
・マジックストレージ…魔力を保存しておける筒。
現在の仲間
・クウ(ディメンションドラゴン。伝説の竜)




