二章 36.性別的誤解
マルクとの戦闘でセロルが惨敗したのとほぼ同時に、剣舞会予選が終了した。
「セロル……」
「セロルくん、もう少しだったのに……」
「……」
セロルの敗北を目の当たりにし、ガゼルとネネティアは悔しさや心配でオロオロと動揺している。
そんな二人とは対象的に、アカリはただ静観しているだけだったが。
「アカリ、お前は何も思わないのか?」
「いや、そんなことはねーよ。ただ、まだセロルが負けたかどうかは分からないだろ」
「え?でも、マルク先輩に斬られて負けたじゃないですか……」
「確かにあいつにはやられたけど、それがイコール予選敗退に繋がる訳じゃない。俺はセロルをそこまで弱く鍛えてなんかいないからな」
マルクに敗北し地に倒れるセロルを前にしても、アカリは未だ敗退を認めてはいない。その真意が分からずガゼルとネネティアの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
「どういうことだ?説明しろ」
「まぁ見てれば分かるだろうから待ってろ。ともかくセロルはただでやられるような、弱い奴じゃないってことだ」
ガゼルはアカリに説明を求めるが、結局望む答えは得られなかった。だがその答えもすぐに分かるはずだと、すぐに闘技場に倒れるセロルに目をやる。
『さぁー!白熱した宝探し合戦も終了し、最終スコアの集計も終了したようだ!それでは今年の勇者剣舞会予選通過者を発表するぞ!皆の衆、スクリーンに注目だぁー!』
実況の声が闘技場全体に響き渡るのと同時に、巨大スクリーンに予選通過者の名前が映し出された。
一位は当然、セロルから大量の魔剣を勝ち取ったマルク・ブレイディア。その下にはマリナやガーデニア学園一年首席のニール・ダインディア等、名だたる勇者一族が並んでいる。
そして、そんな予選通過者の名が連なる中、一番下にはなんとセロルの名が表示されていた。
「なっ……!ほ、本当にセロルが勝ち残っているだと!?」
「すごい、どういうことなんですか……?」
「まぁ検討はついてるが、その辺は後で本人にゆっくり聞こうぜ」
驚愕するガゼルとネネティアを相手に、アカリは不敵な笑みと共に闘技場にいるセロルの方を指差す。
そこにはなんと、フラフラとだが立ち上がっているセロルの姿があった。
「俺の剣を受けて立ち上がるとは……なるほど、本当に見所のある後輩が現れたらしいな」
背後で立ち上がるセロルを目にし、あまり顔に表情をださないマルクも口角が少し上がっていた。
「はぁ……はぁ……ど、どうにか、予備の策が上手くいったみたい……」
かろうじて立ち上がったセロルは、スコアボードを見て勝ち残ったことに小さく安堵する。
序盤こそ、見事予想を的中させて一位に登り詰めたセロルだったが、優勝候補のマルクとの戦闘で敗北しそのまま予選敗退かに思われた。
だが、セロルの講じた予備の策によって、見事決勝本戦へと駒を進めることに成功したのだ。
――
「「「本戦進出おめでとー!」」」
「はは、ありがと皆……」
予選が終了した夜、俺達は現在黒岩亭にて決勝本戦へ出場したセロルの祝杯をあげていた。
セロルは俺達に祝われるのが恥ずかしいのか、頬を赤く染めて照れ臭そうにしている。もう実力は十分に照明出来たのだから、もっと堂々とすればいいのに。
「しかしセロル、こう言っては何だがなぜ勝ち残れたんだ?」
「えぇ、マルク先輩の剣に耐えれたとしても、魔剣を奪われたセロルさんは得点がゼロの筈では?」
ガゼルとネネティアは未だセロルが勝ち残った理由が分かっていないらしく、そう疑問を口にした。まぁ俺はもうどうやったのか分かってるから教えておいても良かったのだが、せっかくだからセロルの口から答えを教えてもらった方がいいだろう。
「あーそれはね、単純な話だよ。僕自身いつか負けることを想定して、魔剣を何本か服の中に隠しておいたんだ。マルク先輩は魔剣の山と僕が使ってた魔剣は全て持って行ったんだけど、隠しておいた方はバレなかったみたい……」
「なるほど、魔剣を隠していた訳か……」
「そんなことまで考えていたなんて、凄いですねセロルさん!」
「ははは、でも時間があったらバレてたかもだしそこは運が良かっただけだよ」
ガゼルとネネティアに賞賛の声を掛けられるも、セロルはただのまぐれだと恐縮していた。
俺としては、ちゃんともしもの時の為に予備の策を用意していただけでも十分凄いと思うがな。
そしてうちの部隊においては、運で勝てる人材は非常に貴重な存在だ。なにせうちには最強の不運体質であるネネティアがいるのだから。
「じゃあマルク先輩の魔剣を受けて立ち上がれたのはどうしてなんですか?」
「それもただのその場しのぎなんだよ。単純に斬られる直前に、体内に残ってた魔力を一部魔剣にしておいて、斬られた直後にすぐ戻したんだ」
「なるほど、魔力を魔剣に一時保存することで意識を失うのを防いだという訳か」
「まぁ剣舞会でしか使えない卑怯な技術だけど……」
続いてセロルはマルクの攻撃を絶え凌いだ方法も解説してくれた。セロル自身はあまり褒められた手段ではないと恥ずかしげにしているが、その手段を思いつき即座に実行する判断力の速さは大したものである。
発想は俺の持っているマジックストレージと少し近いな。
「まぁともかくこれで、セロルの強さは無事証明出来た訳だな!家族ともケリを着けられてよかったじゃんか」
「うん、全部兄貴のお陰だよ、本当に色々とありがとう。僕、これからもずっと兄貴の側にいるからね」
「あらあら、セロルさん大胆ですね」
「こう言ってるが、どうするんだアカリ?」
どうするんだと言われても、男にそんなこと言われたってどうしようもないだろ。ガゼルもネネティアも揃って何を企んでるか知らないが、俺はそっち側には興味ないからな。
「おいおい、何で告白みたいな雰囲気だしてるのか知らないけど、俺は別に男に興味は無いから。アホな冗談はやめとけよ」
「はぁ?」
「アカリくん、それ本気で言ってるんですか……?」
「え、なんだよ?俺何か変なこと言ったか?」
俺は男には興味ないとはっきり告げただけなのだが、何故かガゼルとネネティアに本気で呆れられてしまった。どういうことなんだ、この時代は同性愛がデフォルトなのだろうか。
「やっぱり、薄々そんな気はしてたんだ。兄貴は勘違いしてるんじゃないかって……」
「勘違い?さっきからお前ら何の話をしてるんだよ!?」
「はぁ……いいですかアカリくん、セロルさんはですね……女の子なんですよ」
「は……?はああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
俺が何を誤解しているのかと聞いてみれば、ネネティアから衝撃の発言が飛び出してきた。
セロルが女だと?そんな馬鹿なことがあってたまるものか。こいつらそろいもそろって変な冗談を言いやがって。
「そ、そんなこと言ったって、俺は信じねぇからな!三人で俺を嵌めようったってそうはいくもんか!」
「兄貴、本当なんだよ。僕、これでも一応れっきとした女なんだ……」
「そ、そんな馬鹿な……」
かたくなに信じないという姿勢をみせようとしたが、しおらしく告げるセロルの女子っぽい雰囲気を目の当たりにし、急に自信が無くなってきた。頬まで赤く染めて、言われてみると本当に女子にしか見えないじゃないか。
「クウ―(アカリー、みんなの言ってることはほんとだよ)」
「ク、クウまで言うってことは、本当なんだな……」
どれだけ言われても頭の中にまだ引っ掛かりが残っていたのだが、それでもクウが言うのならば信じざるを得ない。
認めようではないか、俺が男だと思っていたセロルが、実は女の子だったということを。




