二章 35.家族(因縁)との決着
速さを活かしセロルが押しているかに見えた戦況だったが、リムフォはセロルの速さに慣れる為にあえて守りに徹していた。
そして動きを完璧に読み切ったリムフォが今、セロルの魔剣を弾き反撃の一撃を加えようとしている。
「貴様に引導を渡してやろう!」
「ぐっ……!」
――
「何度言ったら分かるんだセロル!隙をつくんだよ隙を!」
リムフォの魔剣が振り下ろされる刹那、セロルはアカリとの特訓の一幕を思い出していた。
「そ、そんなこと言ったって、兄貴に隙なんかある訳ないよ……」
「んなわけねぇだろ、俺は隙だらけの男だ。よし、それじゃあ相手の隙が生まれるとっておきのタイミングを教えてやろう」
相手の隙が生まれる絶好の好機。セロルが最初にそのことを教えられた時は、絶対に実践なんか出来ないと思っていた。
「えっ!そんな瞬間があるの!?」
「おう、それはな――」
――
アカリとの特訓の記憶を脳裏に浮かべながら、セロルは薄らと笑みを浮かべていた。
なぜなら、今こそがアカリに伝授されたその戦法を実践する好機だったのだから。
(あの時は絶対無理だと思ったけど、今ならはっきり分かる、僕ならやれるって。僕は必ず勝ってこの家族との因縁を断ち切るんだ!)
「終わりだセロル!」
「……ここだ!」
体勢の崩れているセロル目掛け、リムフォがトドメの一撃を振るう。
しかし残念ながら、リムフォの魔剣はセロルに命中することは無く、虚しく空を斬るだけだった。
なぜなら、リムフォは体勢を立て直そうとセロルが踏ん張ることを予想し、その角度に合わせて魔剣を振るっていたからだ。
だが、実際のセロルはそれとは真逆で、あえて崩れた体勢のまま立ち直る動作も見せず、そのまま倒れ込んだのだから。そして地面に触れる寸前に、滑るように地面とほぼ平行の体の向きで地を駆けていた。
「ば、馬鹿な……セロルが消えただと!?」
その異次元な動きを至近距離で見せられたリムフォは、セロルの体が完全に消えたと錯覚し動揺を露わにする。
セロルは単純に魔力総量が少ないだけで、身体能力はずば抜けて高い。力技でしか教育をしてこなかったリムフォは、セロルのその真の強みに気づいていなかった。
「これが僕達の……努力の成果だ!」
「い、いつの間に、背後に……」
不意をついた超低姿勢からの反撃にリムフォは気づくことも出来ないまま、セロルの全力の一撃をモロに受け撃沈する。
こうしてセロルは、家族との因縁に最後の決着をつけたのだった。
「人は勝利を目前にした時が一番隙だらけになる、か……ほんとに兄貴の言う通りだね。ふふっ……あっはっはっはっはっはっは!」
セロルはアカリに教えられた隙の狙い方を呟きながら、そのことが可笑しくなったのか笑みを零す。
訓練の日々、剣舞会での応援、そしてアカリとの記憶、セロルの中には常にアカリが傍におり、そのことが嬉しかったのか楽しそうに笑い声を上げだした。
「おい、セロルが身内を斬って楽しそうに笑ってるぞ……」
「す、凄く猟奇的です……あれもアカリくんの悪影響……」
「おい!何でもかんでも俺のせいにするなよ!あれは単純に、今まで勝てなかった相手に勝てたから喜んでるだけだろうが!」
セロルが笑ってる意味を知らないガゼルとネネティアは、恐ろしい想像に体を震わせていた。アカリは自分のせいにされたことに憤慨しつつ弁解するが、残念ながらそれも少し的を外していた。
「しかし、セロルの魔力もそろそろ限界だろう。もし次誰か襲ってきたら勝ち目は低いぞ」
「確かにそうですね。でももう予選が始まってかなり時間も経ちますから、そろそろ終わるんじゃ……」
「いや、どうやら悪い方の予想が当たったみたいだ。また一人、勇者一族が現れたぞ」
アカリ達が冷静に状況を分析する中、勝利の余韻に浸る間もなく、再びセロルの元へ近づく一人の勇者一族が現れた。
しかもその人物は腰に何本もの魔剣を携えており、その本数から強者であることが伺える。
「あれっ?あいつ、誰かに似てる様な……」
セロルの前に現れた勇者一族に対して、アカリは見覚えがある様な反応を示す。だがそれが誰なのかはっきりとは思い出せない様なむず痒さを感じていた。
「ん?お、おい、まさかあいつは!?」
「えぇ、私もさっきから気になってたんです。ちょっとまずいかもしれないですよ……!」
「何だよお前ら、あいつのこと知ってるのか?」
「当たり前だ。あの男はガーデニア学園三年トップにして学園最強の勇者一族、マルク・ブレイディアだぞ」
学園最強の男の登場に、先程まで浮かれ気分であったガゼルとネネティアは、顔を青々と染めて恐怖しだす。
万全な状態でも厳しいという相手を前に、魔力切れ間近の今のセロルでは勝利など到底出来るはずも無い。
「そこのお前、ここにある魔剣を全て渡せ」
「マ、マルク先輩……」
「ふむ、どうやらお前も学園の後輩らしいな。だが俺は後輩だからと手を抜く気は無い。分かったなら、魔剣を全て差し出せ」
セロルを相手に一切表情を変えることなく、マルクはそう命令口調でたんたんと告げる。彼にとっては、セロルも他の勇者一族も全て同じ格下でしかないのだ。
実力、風格、全てにおいて現状時期勇者に最も近い男との呼び声が高い。それがマルク・ブレイディアだ。
『おぉー!白熱した親子対決の熱も冷めやらぬ中、ここで遂にこの男が現れたー!今剣舞会随一の優勝候補、マルク・ブレイディアの登場だぁー!』
最強の男の登場に、先程までのセロルとの戦いとは別格の、最大級の興奮が闘技場内を支配する。今年の剣舞会で最大の盛り上がりが再び更新された瞬間だ。
(ま、まずい、今の僕じゃマルク先輩には絶対に勝てない!魔剣はこの際取られても仕方ないとして、どうにかこの場だけでも逃げ切らなきゃ……)
勝機の薄い相手を前に、冷静に分析を下したセロルは逃げの一手を思案する。だが、そんな考える暇すら最強の男は与えてくれなかった。
「話は終わりだ。眠れ後輩」
「なっ……!」
どう逃げ切るかまだ結論も出ていない状態で、マルクが先制して動いた。
セロルも速さには自信がある方だったが、マルクの速さはそれを上回っていたのだ。突然至近距離まで間を詰められたセロルは、反応すら出来ずただ言葉を漏らすことしか出来ないでいた。
そしてそんなセロル目掛け、マルクの無慈悲な魔剣が振り下ろされる。
「ぐうっ、ま、まだだ……!」
だが、ギリギリの所でどうにか体を動かしたセロルは、無様に大地を転がりつつもマルクの攻撃を回避する。
「ほう、俺の剣を避けるとは、お前はその他大勢とは違う様だな」
「はぁ、はぁ……あ、甘く見ないで下さいよ……」
回避に想定以上の魔力を使ってしまい、セロルは肩で息をし意識を保つのも限界まで消耗してしまっていた。
このままでは逃げ切ることすら不可能だろう。
「残念だ、万全な状態のお前と戦ってみたかった」
「ははっ……それが聞けただけでも、嬉しいです……」
「だが今は剣舞会の最中だ。俺は誰が相手だろうと慈悲は与えない」
「は、ああぁ――か、はっ」
セロルは全身の力を振り絞り全てを出し切って最後の抵抗を見せるが、それも虚しくマルクの鋭い剣技が直撃する。結局セロルは、マルクに一太刀も浴びせることは叶わないまま撃沈した。
こうしてマルクはランキングトップのセロルから魔剣山を勝ち取り、名実共に一位へと登り詰めた。
『激戦を制したのはやはりこの男、マルク・ブレイディアだぁー!そしてここで、遂に剣舞会予選「宝探し合戦」も同時にタイムアーーーップ!さぁ、決勝本戦へ駒を進める今年の勇者一族達は一体誰なのかー!?』
セロルとマルクの勝負の決着が着くのを待っていたかのように、マルクの勝利と共に剣舞会予選が終了した。
家族との因縁を晴らし一時はランキングトップの座に登り詰めたセロルだが、このまま敗北して終わるのか。




