二章 34.父への反逆
光を放たない異質な剣技で勇者一族を次々と薙ぎ倒していき、気づけばセロルの周りには二十人程の敗者が転がっていた。
連戦の影響でセロルにも次第に疲労が溜まりつつあったが、それでも魔力はどうにかまだ半分以上残せている。
「ふぅ……さすがに敵の数が多いな……」
敵の襲ってこない僅かな隙間を縫って、セロルは額にベッタリと張り付く汗を拭い一息つく。
敵が増える分魔剣の本数も増えていく訳だが、セロルは持久力が無い為このまま戦い続けていれば、いずれ魔力切れを起こして自滅する。
「それにしても、点数の基準がまだよくわかんないんだよね。今魔剣は一二〇本あるけど、ランキングを見ると点数は一七二点になってるし。何本か得点の高い魔剣が紛れてるみたいだ」
予選開始前の説明では、確かに得点はバラバラであるとの解説はあった。
だが、現状どの魔剣が高得点なのか判断する基準は不明である。そもそも個人の持ち物である魔剣にどうやって点数を計算する仕組みを入れれたのかが、セロルの中では疑問であった。
「まぁ点数のことは今はいいや。ともかく、もし倒れても得点さえ握っていれば予選は勝ち残れるんだ。ならこれとこれをこうして……」
セロルは分からないことは一旦放置して、今は最悪の事態を想定して予備の策を用意することにした。
「セロル、お前は変わったな……」
そうして色々と試行錯誤中していると、またも別の勇者一族がセロルの前に現れた。
そして今回現れた人物は、セロルの中でも最も因縁深い人物である、父親のリムフォ・アインディアだ。リムフォは相変わらず仏頂面なまま、ゆっくりとセロルに近づいていく。
「ち、父上……」
実の親の登場にセロルは一瞬体を震わせるも、すぐに自分を鼓舞し臨戦態勢に入る。もうセロルにはロットの時のような怯えは一切無い。
強い決意と覚悟をもって、セロルは父親に敵意をぶつけた。
「いい表情をするようになったな。今のお前なら、どこに出しても恥ずかしくないレベルに育っている様だ」
「は……?えと、いきなり何の話ですか?」
「お前の今後の話に決まっているだろ。学園を卒業したら、家に帰ってくることを許す」
「何だよ、それ……」
父から放たれた思いもよらぬ発言に、セロルは感情を揺さぶられる。ただしそれは喜びからでは無い。溢れんばかりの怒りが湧き上がってきた為だ。
リムフォの傲慢な態度には、温厚なセロルも初めて本気で怒りを剥き出しにしている。
「ふざけるな、誰がお前達の元になんか帰るもんか。一度追い出しておいて、いつまでも父親面するな!」
「……一時の感情で物事を判断するとは、多少強くなったとはいえやはり中身はいつまでも子供のままか。ならばまたその性根も叩き治さねばなるまいな」
「冗談じゃない!もう、人の言うことを聞くことしか出来ない、あの頃の弱い僕とは変わったんだ。だから僕は、今日ここで……お前達アインディア家との縁を断ち切る!」
長年厳しい剣術の特訓で痛めつけられてきた父親を相手に堂々たる宣言。兄を倒したことで、セロルはもう身内に対する恐怖心を完全に克服していた。
「セロル……あんな啖呵切って、立派になったもんだ……」
セロルの成長を目撃し、ここまで見届けてきたアカリは何故か目に涙を浮かべて喜んでいた。
「立派というよりは、柄を悪くしたんじゃないですか……?」
「ああ、アカリは完全に悪影響しか与えてないな」
「酷いなお前ら!」
だが、残念ながらガゼルとのネネティアからの共感を得ることは出来ず、むしろ酷評を受けてしまっていた。
そして実際にセロルの口調は少しずつ悪くなっているのだから、彼らの意見も間違いではない。
「生意気なことを言うようになったものだ。なら来い、お前がいかに的はずれな発言をしているのか、その身で分からせてやる」
「ぐっ……だあぁぁ!」
父リムフォの威圧感の籠った挑発にセロルは一瞬気圧されるも、すぐにそれらを振り払い果敢に攻撃を仕掛ける。
「ふむ、奇妙な戦い方だ。誰が入れ知恵したのか知らないが、随分と卑怯な生き方をしてきた奴だというのはよく分かる」
セロルの光無き剣技を軽くいなしつつ、リムフォは己の分析を口にする。煽りの含んだ言い方は、セロルの怒りを誘発する為の作戦だ。
「知ったような口をきくな!兄貴は、魔力の少ない僕で最大限戦える方法を編み出してくれたんだ!」
「最大限?苦し紛れの間違いだろう」
「黙れ!」
リムフォの止まらない挑発にセロルは全て乗せられ、本人も知らず知らずのうちに魔剣に回す魔力の量がが増えてきていた。
このままではセロルは、魔力の過剰使用によって自滅してしまう。
「ふん、少し技術を身につけたところで所詮は小細工。本物の強さを前に敵いはしない!」
「うぐっ、かはっ……!」
頭に血が上り、動きが単調になり始めたところを見逃さず、リムフォは鋭い反撃を入れてくる。
強烈な一撃を受けたセロルは大きく後方へ吹き飛ばされ、魔力もごっそり失っていた。幸いなのは咄嗟に回避行動を取ったおかげで、致命傷にならずにするんだことくらいだ。
だがそれでも受けたダメージは甚大であり、残りの魔力を節約して戦っても後五分ともたないだろう。
「ふん、やはりお前の実力はこの程度か。もはや無理に家へ連れ戻すのも馬鹿らしくなってきたな。今日限りでお前を家から勘当する」
「くっ、くそぉ……」
セロルの強さを改めて確認したリムフォは、あくまでも自分主導でセロルの人生に決定を下す。まるでセロルの意見など何も聞こえていないかのように。
「せめて最後くらい、この俺が引導を渡してやろう!」
「まだだ……まだ、負けるものか!」
「何っ、まだこんな力を隠していたのか……?」
トドメを刺そうと攻撃を仕掛けるリムフォだったが、その斬撃をセロるは鮮やかに回避する。
リムフォから一撃受けたことで冷静さを取り戻したのか、魔力をほんの少しだけ使った繊細な動きが戻っていたのだ。
「僕が馬鹿にされるのはいい。だってそれは事実なんだから。でも兄貴を、師匠を馬鹿にするのだけは絶対に許さない!兄貴は本当に強くて、誰よりも優しくて、そして僕を地獄から救い上げてくれた英雄なんだから!」
「くっ、先程までより動きにキレが増しているだと……!?」
自分を馬鹿にされたことよりも、アカリを馬鹿にされたことの方が悔しいセロルは、大切な人の為に力の限り魔剣を振るう。
魔力切れなど恐れず、しかし魔力消費を最小限に抑えたこの日一速い剣技を放ち、セロルはリムフォを圧倒した。
「これが僕の……僕達の編み出した答えだ!」
「ちぃっ、こんな姑息な動きに俺が押されるなど……そんなことがあってたまるものか!」
「負けないよ、兄貴の編み出した戦術を僕が極め、そしていつか最強の勇者になる!だから僕はお前に勝つ!」
速さを極めたセロルの連撃を前に、リムフォはただただ防ぐことしか出来ないでいた。
しかしそれで終わるほど戦いは単純では無い。防戦一方かに見えるリムフォは、ひたすらに守りに徹することでセロルの動きを学習し、動きに体を慣らしていたのだ。
「これで……トドメだ!」
「ふっ、甘いなセロル。やはりお前は、いつまで経っても弱いままだ」
「なっ!?」
勝負を決めようと斬りこんだセロルだったが、その動きはリムフォに完全に捉えられ、あっさりと受け流されてしまう。
「速さばかりを意識し過ぎた結果だ。今ここで貴様に引導を渡してやろう!」
「ぐっ……!」
バランスを崩し倒れかけるセロル目掛け、リムフォは渾身の一撃を放つ。優勢だった戦況も一転、再びのピンチにセロルは目を見開いて恐怖に顔を染めた。




