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二章 27.猫との戯れ方

 野良猫と戯れようとしていたリリフィナを横目に、猫達は俺の周りに次々と集まってくる。

 もはや俺から撫でたり近づこうという意欲は一切無いのだが、猫達は勝手気ままに俺の手足に頭や体を擦り付けてきていた。


「クウー!(むぅー!アカリに近づくなー!)」

「落ち着けってクウ、ただの猫だろ」

「クアッ!(アカリも離れてよ!)」

「痛い痛いっ!悪かったから、耳を噛むのはやめてくれ!」


 猫達と戯れている俺が気に入らないのか、クウの嫉妬が爆発した。なかなか可愛いところもあるじゃないか。いや、クウは可愛いところだらけなんだが。

 と、そんな冗談言ってる場合じゃない。本気で離れないと、このままクウに耳を喰われそうだ。


「よいしょっと、ほらあっちへ行きな猫達。俺にはもう心に決めた奴がいるんだから」

「ニャー!」

「ニャオー!」

「ダメだ、全然言うこと聞かねぇ……」


 俺の体質は動物に好かれるだけであり、言うことを聞かせることは出来ない。ただ彼らの赴くままに群がられるのを受け入れるしか無いのだ。

 それが嫌なら逃げるしかない。


「……ムカつく。そんなところまで王子様そっくり」

「王子?ってああ、魔王のことか。そういや魔王は無数の魔獣を従えてたんだっけか。猫と魔獣じゃ似ても似つかないだろ」


 なるほど、リリフィナがここに来たのは憧れの魔王に近づく為に、自分も動物と仲良くなろうとしたからか。

 だが残念だったなリリフィナ、そんな下心丸出しじゃあ獣達はなびかないぞ。


「……でも、この世界に魔獣はもう居ないから。勇者一族、やはり許せない」

「勇者一族に敵意を向けたって仕方ねぇだろ。結果として魔獣を全て連れ去ったのは魔王なんだから、恨むなら魔王をじゃないのか?」

「……馬鹿言うな。王子様はこの腐った人間の世界から魔獣達を救う為に全て連れて行っただけ」

「へ、へぇー、面白い解釈だな……」


 やばい、その通り過ぎて何も言い返せない。なんでこいつ俺の狙いを易々と言い当てられるんだよ。

 魔王信者の洞察力が鋭過ぎて怖い。


「……でもこの世界にはもう魔獣は居ないから、代わりに動物で練習してた」

「確かに、魔獣なんてもう居ないからな……」


 嘘だ。本当はこの世界にも数種族だけだがまだ魔獣は居る。

 昔の人間も魔獣と仲良くしていた奴はいたし、そういう関係性を築けている魔獣は俺は連れて行かなかった。

 恐らくその種族は、この世界でもまだひっそりと生存しているはずだ。

 冠さえあれば指輪の能力と合わせて魔獣の位置を探ることが可能だが、まぁ今はその必要は無いだろう。冠あっちの世界に置いて来ちゃったし。


「……でも猫相手ですら上手くいったことがない」

「当たり前だ。そんな猫達を練習台としてしか見てない奴に、動物達が懐くわけないだろうが。いいか?動物と接する時は、自分の考えなんて全て捨てて、動物のことを第一に行動しろ」

「……なんでそんなに詳しいの?」

「生まれた時からそうして生きてきたからだ」


 俺のこの体質を気味悪がる人は多く、親ですら必要以上に接してくることは無かった。

 別にそのことを恨んでいる訳では無いが、結果としてただ人と一緒にいるより動物達と一緒にいる時間の方が多くなってしまい、今の俺がある。

 俺は友達と遊ぶ感覚で、ずっと動物達と触れ合って生きてきただけだ。


「……動物のことを第一に。分かった、次来た時には参考にしてみる」

「ん?今日はもういいのか?」

「……いい、今の私は猫達と真っ直ぐ向き合えてないから」

「そうかそうか。それだけ気持ちが変わってれば次は上手くいくだろ」


 俺の話を聞いてリリフィナも心を入れ替えてくれたらしい。これで馬鹿みたいに魔王の後を追うことなく、純粋にただの動物達好きになってくれればいいのだが。

 変な宗教を開いて勇者一族と戦争でも始めたら、たまったものじゃないからな。絶対マリナに理不尽に怒られる。


「クウー!(アカリ!早く行こうよ!)」

「分かった分かった、そう怒るなよクウ。それじゃあまたなリリフィナ」

「……うん」


 いい加減クウの我慢も限界に来たっぽいので、猫達から無理やり体を引き剥がし路地裏を脱出する。

 リリフィナも今日はもういいらしく、俺とは反対方向に歩いていった。










 ――









 リリフィナと別れた俺とクウは、再び宛もなく街を歩き出す。


「うーん、暇だしそろそろあいつに会いに行くか」

「クウ?(あいつ?)」

「そう、ガンマだよ。昨日の夜は酔っててダルそうだったから無視したけど、今ならさすがに酔いも冷めてるだろうし」


 四百年前砂漠の街で出会ったガンマとは、そのあと色々な所を共に旅してきた。非常に頼りになる兄貴分だったので、再会出来たのは純粋に嬉しい。

 今なら恐らく討伐ギルドに居るだろうから、ちょうどいいしついでにギルドがどんなものか覗きに行ってみるか。


「おっ、ここか。本部どけあって結構デカイな」

「クウー(わー、高〜い)」


 討伐ギルドの本部は十階建てくらいの巨大な建物で、この辺でも頭一つ抜きん出ており一際目立っている。

 シーラから以前聞いた話では、この中でガンマは活躍しているらしい。


「ここで突っ立ってても仕方ないし、中に入って探してみるか」

「クアッ!(うん!)」


 建物の大きさにいつまでも圧倒されてる訳にはいかないので、正面の扉を勢いよく開き中へと入っていく。

 ギルド内は、吹き抜けのように天井が高く、正面には受付のようなカウンターが横いっぱいに広がっていた。

 まるでかつて訪れたことのある、冒険者ギルドそのものだ。内装はそっちを真似して作ったのかもしれない。


「ようこそ討伐ギルドへ。本日はギルドへの登録希望ですか?」

「いえ、人を探してまして……ここにガンマって名前の厳つい褐色肌の男は居ますか?」

「えっ!ガ、ガンマ様に御用ですか!?」

「?はい、そうですけど……」


 何気なくガンマの所在を聞き出そうとしたら、思いのほか受付のお姉さんに驚かれた。何だよあいつ、受付嬢に驚かれるくらいの問題児なのか?


「ガーデニア学園の坊ちゃんが、うちのリーダーに何の用だ」

「リーダー?なんだあいつ、結構偉い立場なのかよ」


 受付嬢と話していると、後ろからギルド員らしき男性に話し掛けられた。

 どうやらここではガンマはリーダーと呼ばれてるらしい。そういや昔も獣人族の先頭に立つリーダーをしてたっけ。なんだか懐かしいな。


「小僧、うちのリーダーを馬鹿にしてるのか……?」

「いやいや、馬鹿にはしてないよ。実際リーダーとしての資質は高いんだしさ。んで、あんたならガンマの居場所知ってんのか?」

「ガキが、リーダーを呼び捨てにするたぁいい度胸だな。そんなに居場所を知りたきゃ、俺を倒して聞き出しな」


 ギルド員の男は俺の態度が気に入らなかったのか、どんどん呼び方が酷くなっていく。

 正直いちいち戦うのは面倒臭いのだが、それで教えて貰えるなら一番手っ取り早いかもしれない。


「面倒だな。でもまぁ、売られた喧嘩は買わせてもらうぜ……」

「へっ、生意気なガキだ。着いてきな!」


 男の後について行きギルドの裏手側へと出ていく。そこは訓練場も兼ねているのか、そこそこ広い更地が広がっていた。

 そしてギルド裏の広場で俺と男は対峙する。


「ぐへぁっ!」


 戦闘が始まってすぐ、俺は高速で移動し拳を腹に沈める。

 他愛も無い。男は大して強くもなく、決着は一瞬で着いた。

 これならまだ俺の訓練を受けてなかった頃のガゼル達の方がよっぽど強い。いきがってた割に大したことないな。


「嘘だろ……デロンドさんが一撃で負けたぞ……!」

「信じられねぇ、あのガキ何者だよ!?」


 そしていつの間にか周囲には野次馬が群がっており、俺達の喧嘩を観戦していた。あの男の名はデロンドと言うらしい。


「さて、それじゃガンマの居場所を吐いてもらおう――」

「おいおい、こりゃのんの騒ぎだ?」


 デロンドとやらからガンマの居場所を聞き出そうと、胸ぐらを掴んで持ち上げたタイミングで、後方から馬鹿でかい声が響いてくる。


「ん?おいそこの小僧、うちの子分を随分と痛めつけてくれたみてぇだが、何のつもりだ?」

「いや、別にこいつにもう要はないよ。目的の人物がそっちから来てくれたからな」


 俺はデロンドの胸ぐらを放し地面に落とすと、ゆっくり振り返る。

 その瞬間、俺と目が合った馬鹿でかい声の主、ガンマは面白いくらい目を丸々と開いて驚いていた。


「よっ、久しぶりだなガンマ。元気にしてたか?」

「お、おまっ!何でここに……!」


 こうして、俺とガンマは実に四百年ぶりに再会を果たしたのだ。


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