二章 26.テンスとは
「さて、それじゃあテンスについてじっくり話を聞かせてもらおうか」
気絶から復活したマリナに向かって、俺は勝者の権利を主張する。
これは約束だからな。きっちりとテンスについて教えてもらうぞ。
「……分かってる。ここじゃあれだしどこか適当な店へ移動しましょう」
確かにのんびり話をするには、この荒野では落ち着かない。なのでマリナに連れられて俺達は街に戻り昼食に丁度よさそうなカフェへと入店した。
ここでテンスとやらについて、じっくり教えてもらおうか。
「で?そもそもテンスってのは何なんだよ?」
「そうね、何から話すべきか……」
「まぁ時間ならあるんだし、ゆっくり説明すればいいんじゃない?」
オムレツのような卵料理を頬張りながら、俺はマリナの説明を待つ。
ただ、テンスについての説明は難しいのか、どう話すべきか悩んでいる様子だ。
「うん、じゃあまずはテンスの存在から説明するわ」
「あいよ」
だがようやくマリナの中でも整理が完了したらしく、ゆっくりと語りだした。
「この世界には百万人に一人という確率で、稀に特殊な能力を備えた子どもが生まれることがあるの。 この世界ではその特殊能力のことを「テンス」と呼んでいるわ」
「百万人に一人って、滅茶苦茶低確率だな……」
「そうそう、私もテンスについて知識だけはあったけど、持っている人に会ったのはマリナが初めてよ」
テンスとは百万人に一人の確率でもって生まれる特殊能力のことらしい。そんな存在がこの世界にあっただなんて全く知らなかった。
四百年前からも存在してたのだろうか。
「テンスを持つ者は、それがどんな能力であれ百万人に一人の逸材になるから、必ず一目置かれる存在になるのよ」
「場所によっては神のように崇められることもあるわよね」
「何すかそれ、ちょっと怖いですね……」
「確かにどこかの小区域では、そんな扱いをされてるテンス持ちも居ると聞くわ」
類稀な才能故に、宗教的な扱いを受けるテンス持ちがいるそうだ。生まれた時から勝ち組って訳か、羨ましいもんだな。
「テンス持ちは、皆マリナみたいにふざけた能力を持ってるのか?」
「そんなことないわ。テンスは基本的に人の持つ能力の延長線にしかないものだから、ほとんどのテンス持ちは五感のどれかが人より優れてる程度よ」
「へぇー、まぁ五感のどれかが優れてるだけでも十分強みだとは思うけど」
「それでもマリナみたいに、テンスの中でもより強力な能力の前では霞んじゃうわね」
五感のどれかが優れているだけでも、やれることの幅はかなり広がるだろう。だが、確かにセルシー先輩の言う通りマリナのような特殊の中の特殊なテンス持ちに比べると、劣って見えてしまう訳か。
まぁ何も持っていない凡人からしてみれば、贅沢な悩みとしか言えんがな。
「マリナみたいな特殊な能力だと、他にどんなのがあるんだ?」
「例えば……未来が見えたり、透視出来たり、嘘の香りを嗅ぎつけたり、そういう超人的な能力なら聞いたことあるわ」
「マリナのお兄さんは未来予知が使えるのよね~」
「そんなファンタジーな力を持つ人間がいるのかよ……てか、マリナの兄ちゃんもテンス持ちなのか!?勇者一族本家は化け物の巣だな」
「その言い方はやめて」
百万人に一人の確立だというのに、兄妹で超人的な能力を持ってるとかマリナの家系だけ運が良すぎる。さすがは勇者一族本家ということか。
兎にも角にも、なかなか興味深い話を聞けて面白い時間だった。
「私達の知ってるテンスの知識はこの辺りよ。元々総数が少ないから、あまり情報は多くないの」
「そうねー、むしろアカリくんみたいに存在すら知らない人の方が多いと思うわよ?」
「そうでしたか、まぁでも知ってるのと知ってないのとでは、そういうテンス持ちの人間と敵対した際の対応が変わってくるので、今日は聞けてよかったですよ」
自分がテンスを持っていないからといって、それに対して無知でいていい理由にはならない。
いつかそういう能力持ちと敵対した時に、動揺するかしないかで戦況は大きく変わってくるからな。
「それじゃあ、今日のところはこの辺でもう行くよ」
「ちょっと!まだ午後も特訓するわよ!」
「馬鹿言うな、さっきの戦いでもうボロボロだっただろ。やり過ぎたら剣舞会までに体がぶっ壊れるぞ」
「そうよマリナ、アカリくんとの特訓は命懸けなんだから、明日に備えましょ」
マリナはまだまだ特訓をしたい様子だったが、それは気持ちの問題であって、体は明らかについてこれていない。
元々ガゼル達ともこんな感じで少ししか相手にはしてなかったのだし、俺を相手にするなら量を重ねるより質を高める方が重要だ。
特にマリナは優秀なテンス「魔力解放」があるのだから、それを上手く使った戦術を考える方に時間を割いた方がいいだろう。負けるのは嫌だからそのアドバイスはしないが。
「じゃあまた明日同じ場所に集合ってことで」
「仕方ないわね、サボらないでよ」
「わーってるよ」
そう軽く言葉を交わして、この日の特訓はお開きとなった。
――
午後、ようやく自由時間を得られた俺はクウと共に宛もなく街をぶらつく。
セロルは一人剣舞会に向けた調整中であり、ネネティアはクラスの女子達と遊ぶとか言っていた。ガゼルは学園が予約した宿には帰ってこなかったから、恐らくまだ実家だろう。
そういう訳で、俺の知り合いは尽く用事がありボッチ状態だった。
「まっ、俺にはクウさえいれば寂しくなんかないけどな」
「クウー!(クウもアカリが居ればあとは何もいらないよ!)」
「はははっ!嬉しいこと言ってくれるぜ」
クウも俺と二人きりで居られるのが嬉しいようだ。最近はのんびりする暇がなかなか無かったからな。この剣舞会期間の休暇は俺達にとってもいいリフレッシュになる。
「……猫さん、待って。ほら、怖くないから」
そんな感じでクウと散歩していると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。このいかにも覇気のない声音は……リリフィナだな。
「よう、何してんだよこんな路地裏で」
「……リーシャン、あなたこそ何の用?」
「別に用って訳じゃないけど何してるのか気になって――おっ、猫がいるのか」
後ろからリリフィナに声をかけると、彼女は嫌そうな顔つきでこっちを見てきた。
リリフィナとは別にそこまで仲がいいという訳では無いから、この反応も当然か。なんで声なんかかけたんだか。
にしても猫か……普通の動物なんて久しぶりに見たな。
「どれどれ、ほーらこっちにおいで〜」
「ニャー!」
俺はリリフィナの横でしゃがみ、猫達を手招きする。
すると、猫達は何の警戒もせず無防備に俺の周りに群がってきた。相変わらず俺の体質は今日も絶好調だ。
「な、なんでそんな懐かれるの……!?餌付けした訳でもないのに……?」
「ん?ああ、これはただの体質だよ。俺は昔から生き物にはよく好かれるんだ。例外はいるけどな」
俺は大抵の動物や魔獣には好かれるが、人間や魔物には影響が無い。
どういう判別なのか規則性は知らないが、もし人間にも影響を与えてたんだとしたら、今頃ハーレムでも作ってたかもな。今の俺からしたら微塵も興味は無いが。
「……そんなところまで魔王に似てるんだ。やっぱりお前ムカつく」
「え、何て?」
「……何でもない」
リリフィナがボソボソと何か言っていたから聞き出そうとしたが、素っ気ない返事を返された。
しかもなんかちょっと怒ってる気もする。いつの間にか彼女の気に触るようなことでもしてしまったのだろうか。
「それより、リリフィナはここで何をしてたんだ?」
沢山の猫に群がられながら、改めてリリフィナに問いかける。まさか彼女は意外と猫好きだったりするのだろうか。
「……それ」
「それ?どれだよ」
「……それ。あなたみたいに猫と仲良くなりに来た」
「へぇ?俺みたいに?」
「……そう」
どんな目的があるのかと思ったら、まさかの適当に予想した通り猫と戯れに来たらしい。
予想通り過ぎて逆に予想外だ。出場する訳では無いとはいえ、絶対剣舞会前のこの休暇ですることじゃないだろ。何してんだこいつは。
「お前ってやっぱ変わった奴だな」
「……リーシャンにだけは言われたくない」
こうして、街中を適当にぶらついていたところ偶然にも、ガゼルの姉であり魔王信者でもある二次元オタのリリフィナと、思わぬ再会をしたのだった。




