二章 28.ガンマのギルド生活
「よっ、久しぶりだなガンマ。元気にしてたか?」
「お、おまっ!何でここに……!」
俺がこの場にいることが余程信じられないのか、ガンマは心底驚いた顔をしている。
まぁ本来なら未だあっちの世界でクリスタルの中に俺は眠っている筈だからな。そんな顔をするのも無理はない。
「リ、リーダー、このガキ知り合いっすか……?」
「あ、ああ、俺の昔の仲間だ。まさかこんな所で会うとは思ってもみなかったから驚いてはいるがな……」
「リーダーの、昔の仲間……?じゃあこのガキ、見た目以上の年齢なのか……!」
その通り、俺は御年四一八歳の超高齢者だ。もっと敬えよ年下共。
ダメだ、これ自分で言うと虚しくなってくる。
「なぁ、お互い積もる話もあるだろうし、二人きりで話せないか?」
「そうだな、俺も聞きたいことは山ほどあるし場所を変えるか。お前らはだれも着いてくるなよ」
「「「へいっ!」」」
ガンマの指示にギルド員の男達は揃って返事をする。何その大工みたいなノリの返事は。
「よし、そんじゃ着いてきてくれ」
「あいよー」
こうしてガンマと再会した俺は、彼に連れられて小洒落たバーへ移動する。
何故バーなのかは知らないが、個室だからまぁよしとしよう。
「ここは見かけによらず防音対策が万全でな。裏の取引とかによく使われる店なんだ」
「えぇー、なんか物騒な部屋だな」
「はははっ!まぁその分こっちの話が盛れる心配もねぇから安心しろ」
どうやらこのバーの個室は防音仕様になってるらしい。使用目的が非常に怖いが、それでも俺達の話を漏らす訳にはいかないから仕方が無いか。
学園の会議室みたいな部屋がある訳でも無いのだし、今はここで我慢しよう。
「クウー!(ガンマ久しぶりー)」
「おう、クウは随分と元気になったみたいだな」
「クアッ!(アカリといつも一緒にいるからね!)」
「そいつはよかった」
バーの個室に目をやっていると、クウとガンマが挨拶をしていた。
やはりガンマもシーラ同様、クウと会話が成立してる。長い年月共を共に過ごした成果というわけか。やっぱむかつくな。
「で、そろそろ本題に入る訳だが……何故大将がここに居る?」
「まぁ当然そこが気になるよな」
ガンマは昔から俺のことを大将と呼ぶ。空の魔人カイジンの殿呼びに続き、なかなか身に余る呼び名だ。
まぁ魔王と言われるよりはマシかもしれないけど。
「当たり前だ、俺達魔人ですらあのクリスタルの封印を解くことが出来なかったんだぞ!まさか魔人のうちの誰かが封印を解く方法を見つけたのか!?」
「いや、封印を解いたのは別の奴だ。その辺も含めて、俺のこれまでの経緯を話すよ。まず――」
こうして俺は、マリナに封印を解いてもらったことから、ここ最近の近況までをざっくりとガンマに説明した。特に学園でしてたことなんかは、結構省いてる。
「なるほど、勇者一族の末裔か……たしかに封印を施したのはマリスの野郎なんだから、それを解くのも無理ではないな」
「まぁそういう訳で、俺はこの世界に巣食う魔物を殲滅する為に呼ばれたって訳だよ」
「自分達から封印しておいて、今度は自分達の身に危険が迫ったから、助けてもらう為封印を解いた訳か。勇者一族ってのは自分勝手な連中だな」
「まぁまぁ、それでもこうして俺は自由になれたんだから、気にせずいこうぜ」
ガンマはやはり俺を封印した、マリスを始めとする勇者一族全般が憎いようだ。
正直俺は封印されてた期間の記憶は無く、四百年など一瞬のことであった為そこまで恨みは無い。
だが、ガンマ達はその四百年間マリスを恨み憎み、封印を解く方法を模索し続けてここまで過ごしてきていた。俺と彼らとでは、勇者一族に抱いている感情は天と地ほども離れているだろう。
だからこそ、俺が両者の間に立つ必要がある。俺はどちらとも喧嘩するつもりは無いからな。
「ったく、大将はいつも気楽なもんだ……」
「それが俺だからな。それよりガンマはこっちの世界に来てから何してたんだ?ギルドではまたリーダーとか呼ばれてたみたいだけど」
「おう、それじゃあ今度は俺のやってきたことを話すか」
以前にシーラから少しは聞いていたが、ガンマ本人からもこの世界に来てから何をしていたのか話を聞かせてもらう。シーラじゃ知らないことも当然あるだろうし。
「途中までシーラ達と行動してたことは聞いたんだろ?」
「まぁそこまではね」
「ならあいつと別れてからの話をするか。まず俺はな、大将の封印を解く為の情報を集めるには、それなりの地位が必要だと考えたんだ」
まぁそれは分からなくもない。弱い人間に大事な情報など預けはしないからな。立場だって高い方がいい情報も手に入り易いだろう。
「それで討伐ギルドに入ったのか?」
「そうだ、俺にはシーラや大将みたいに色々と作戦を練る頭脳は無いからな。単純に腕っぷしだけでのし上がれるギルドはちょうど良かったんだ」
「確かにあのギルドはガンマには合ってるか」
ガンマは基本的に脳筋気質である為、単純な戦闘能力は非常に高い。
彼がいる限り、討伐ギルドは未来永劫安泰だろう。
「まぁな、あそこは力さえあればどこまでも上に行けるから結構楽しいぜ!そうだ、大将も討伐ギルドに入らねぇか?」
「いや、やめとくよ。俺は今の学園生活に結構満足してるから」
「そりゃ残念だ。まぁこの街にいる間だけでも、暇な時は顔出しに来い。割のいいクエストを回してやるからよ」
「おぉ、それは助かるよ。暇潰しにはちょうど良さそうだ」
クエストなんぞ、昔冒険者をやっていた時に少しやったくらいのものだ。
あの時は結局薬草採集を数日やった程度で終わってしまったから、護衛任務とかそういう緊張感のあるやつには憧れてたんだよな。
今度暇な時に、ガンマの世話になろう。
「んで、話を戻すぞ。俺は情報収集の為に討伐ギルドに入ったんだが、まぁ結果としてはイマイチだった。確かに情報自体は多く手に入ったんだが、そのどれもが魔物に関することばかりで、肝心の魔道具やら封印やらに関する情報は皆無だったんだ」
「まぁだろうな」
だって討伐ギルドは魔物を倒すのが目的のギルドなのだから、封印に関する情報など手に入るわけが無いだろう。
やっぱりそういう詰めの甘いところが実にガンマらしい。
「それで結局何の成果も得られないまま今に至るって訳だ。てっきり魔人の誰かが封印を解いてくれたのかと思ったが、マリスの子孫に解かれるたぁ悔しいぜ」
「その辺は気にするなよ。皆俺の為に努力してくれたんだから感謝してるって」
「そう言って貰えると報われる。だが、一人真面目に努力してない奴は居るがな」
「あー、何となく察しはつくよ……」
ガンマが言いたいのはおそらくドロシーのことだろう。泥の魔人ドロシーは、基本的に食欲以外の感情を持たない、超がつくほどのバカだ。
あいつが封印を解く方法を模索しているなど、天地がひっくり返っても有り得ない。それどころか運が悪ければ、昔みたいに奴隷にされてる危険性するらありうる。
「ドロシーは今、このボウルサム区域区長の警護を務めている。たまにこの街にも顔を出すから、その時には挨拶くらいはしてるぞ」
「へぇー、取り敢えずはちゃんと働いてはいるんだな」
シーラにも少し聞いてはいたが、どうやら奴隷落ちはしていないらしい。それが聞けただけでもひと安心だ。
「ただ、会う度に封印に関する意見交換をするんだが、あいつはあれが美味かっただの、これが美味かっただの、食い物の話しかしないんだ……」
「はは、何となく想像はつくよ。ガンマも苦労してたんだな……」
やはり予想通りあいつは役に立たなそうだ。このまま警護でもさせてた方が幸せだろうし、ドロシーのことは放置でいいだろう。
「シンリーについては何か知ってるか?」
「いや、あいつは森に籠ってから何も連絡をよこさねぇし、出ても来ねぇからな。俺は何も知らねぇ」
「シンリーはシンリーで何してんだか……」
森の魔人シンリーについては、以前シーラから聞いた話以上のことは分からずじまいである。シンリーの近況については、別の街にいるガンマも何も知らないらしい。
ほんとに何をしてるのか不安になってくるな。三ヶ月後くらいに学園では長期休暇が貰えるらしいし、その時にでも会いに行ってみるか。
「まっ、取り敢えず俺がやってたことはそんな感じだ」
ともかくこうして、ガンマとの近況報告はこんな感じで終了した。




