二章 22.黒岩亭の絶品料理
アルテラに到着した俺達は、今は夜ということもあり酒場で食事を済ませることにした。
「ガゼル、どこかおすすめの店はあるか?」
「そうだな、やはり食事といえば黒岩亭だろう」
「黒岩亭?どんな料理のお店なんですか?」
「アルテラ名物黒岩塩をふんだんに使った料理が味わえる、街一番の食事処だ」
黒岩塩か……初めて聞く調味料だが、通常の岩塩を黒くした感じだろうか。ここは確かに海も近いし、岩塩が豊富に取れるのだろう。
俺は岩塩自体口にしたことがないから楽しみだな。
「クウ〜(美味しそうだね〜)」
「だな、どんな料理か楽しみだ。よし、それじゃあその店に案内してくれガゼル!」
「任せておけ」
こうして俺達四人はガゼル案内の元、アルテラの街中をぐいぐいと進み黒岩亭と呼ばれる食事処へとやって来たのだった。
「おぉー、ここか」
到着した黒岩亭は、名前の通り少々お高めな居酒屋といった雰囲気を醸し出していた。
店前の門には提灯がぶら下がっており、非常に和風テイストの強いおしゃれな外観である。
「いらっしゃいませ〜!四名様でよろしいですか?」
「ああ、それで頼む」
「それでは奥のお座敷へどうぞ〜!」
店に入ると早速店員が明るい声で案内をしてくれた。店員は作務衣の様な和服にエプロンを付けた、いかにも居酒屋らしい格好をしている。
店内も基本畳に座敷と、徹底して和を強調したなかなか趣のある店だ。こういう和風文化は久しく触れてなかったから、なんだか懐かしい気がする。
「変わった雰囲気のお店ですね……」
「うん、僕もこういうお店は初めて入ったよ……」
「世界の端にある少区域の文化を模した店らしい。この街でもこの手の店はここしかないな」
ネネティアやセロルの驚きようやガゼルの説明からするに、和風文化はその小区域って所出しか根付いていないものらしい。
俺もそこの出身みたいな所があるから、是非とも行ってみたいものだ。
「メニューも結構種類があるんだなー。ガゼルのおすすめはどれなんだ?」
「ここの料理はどれも美味いが、このキラウオの塩焼きや黒岩塩の塩おむすびが最高に美味い」
「いいねー、和風だねー!よし、じゃあその二つと、後ついでに他にも適当に頼むか!」
ガゼルのおすすめを二品と、ついでにメニューから上手そうな料理をいくつかチョイスした。
これで宴の準備は万端だ。いや、一つだけ大切なものが欠けていたか。
「酒にはレティアソルトを四つ頂こう」
「それそれ!さすがガゼル分かってるな~!」
「ふん、当たり前だ」
そう、宴といえば酒が無ければ始まらない。
この世界での成人年齢は十五歳なのでこの場にいる全員は飲酒しても問題ない。なら、飲まずにいられるだろうか。
「そのレティアソルトとはどんなお酒なんですか?私あまりお酒は強くないんですけど……」
「あ、僕もそこまで飲めるわけじゃないから強いのは厳しいかな……」
「安心しろ。レティアソルトは柑橘系の果実で割ったアルコール度数の低い、女性にも人気のある酒だ」
ネネティア達はあまり酒が得意ではないようだが、どうやらレティアソルトはそんな二人でも飲みやすい酒らしい。
この店は、どこまでも配慮の行き届いた最高の酒場だな。そしてガゼルの手際の良さが恐ろしい。まるで前々からずっと計画してあったかのような淡々とした対応だ。
「お待たせしました~!レティアソルト四つお持ちしました!」
ガゼルの迅速な対応を不思議に思っていると、早速酒が運ばれてきた。
今は下らない考えは放置しておこう。目先の酒の方が大事だからな。
「それじゃあ乾杯しようぜ!」
「これって、何の乾杯になるのかな?」
「そうだな……よし、これまでの過酷な訓練に対するお疲れ様会でいこう!かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
俺の掛け声に続くようにガゼル達も声を上げながら杯をぶつけ合う。
今日までは訓練ばかりの毎日だったからな。それを労うにはいい機会だろう。
「ん……この酒ほんとに飲みやすくてうまいな!」
「当然だ、それ故に加減を間違えて悪酔いする馬鹿が後を絶えないらしいがな」
「この美味さじゃしょーがないよ……」
レティアソルトは喉越しのいい柑橘系の果汁もそうだが、微かに感じる塩加減が爽やかに喉を通り抜けていく。さすがは名物の黒岩塩、こんな所でも活躍しているのか。
これだけ飲みやすいんじゃ、悪酔いする奴が出てきても仕方ないと思う。非常に中毒性のある味だ。
「クアッ!(いい匂いがしてきたよ!)」
「おっ、料理も来たか」
酒のうまさに舌をうならせていると、クウが料理の匂いにつられて嬉しそうな鳴き声を上げた。ガゼルおすすめのキラウオの塩焼きを始め、様々な料理がテーブルを華やかに彩る。
「わぁー、どれも美味しそうだ!」
「えぇ、ガゼルくん本当にいいお店を知っていますね」
「まぁ一応出身の街だからな」
「でもお陰で助かったぜガゼル!それじゃあいただきまーす!」
改めて案内してくれたガゼルに礼を言いながら、俺は運ばれてきた料理に手を伸ばす。
いくつかは小皿に分けてよそいクウにもこっそり食べさせている。マジカロイドが食事するのは流石に不自然だから、バレると面倒なのでこっそりと。
「うんうん、どの料理も塩加減が絶妙で美味いな〜……」
「黒岩塩は扱いの難しい調味料らしいが、使いこなせればこれに勝るものはないと言われている」
「へぇー、そんな高度なものが名物なんて、なかなか凄い街だ」
黒岩塩はどれもいい塩梅で使用されており、素材の良さを最大限に引き出しつつ味のアクセントとして程よく主張してくる。
口の中にわずかに残る塩分をレティアソルトで流し込むのがまた最高だ。なんだか永遠にここで食事をしたい気分にさせてくる。
だがそれでも腹の膨れはどうにもならないので、しばらく食事をしているといい感じに満腹になってきた。
今は全員しめの塩おむすびを頬張りながら雑談に興じている。
「ふーん、討伐ギルドの本部はこの街にあるのか」
「ああ、だからアルテラは昔から血の気の多い人間が絶えない」
「それはちょっと怖いですね……」
今はこの街にはどんなものがあるのかという話をしており、討伐ギルド本部の名があがった。
確かにネネティアの言う通り、今後街中を歩いている時に変な奴に絡まれたりしたら面倒だ。
「安心しろ。荒くれ者が多い分警備する側も優秀な奴が大勢いる。よっぽどのことがない限り喧嘩になどなるものか」
「そ、そうなんだ。それなら一安心だね」
「でもネネティアの不運体質があるからどうなるか分からないぞ~?」
「む、確かにそれもそうだな……」
セロルが安心したのも束の間、俺の余計な一言のせいでガゼルまでが真面目に検討しだしてしまった。酒が入っているせいか、大して考えもせずに口が先に動いてしまう。
「アカリくん、不穏なこと言わないで下さいよ。本当に起こったらどうするんですか……?」
「ははは、ごめんごめん。でもまぁイレギュラーなことなんてそうそう起こる訳ないだろ――」
「がーっはっはっはっは!よし、次はこの店で飲むぞ!」
「ちょっとリーダー、酔いすぎですって。少しは抑えて下さいよ……」
「馬鹿野郎!もうすぐ祭りだってのにこれが飲まずにいられるかってんだ!」
「はぁ……今日の稼ぎが酒に消えていく……」
そうそう簡単にフラグが立つわけないだろといいかけた瞬間、俺の言葉を遮るように厄介そうな客が来店してきた。今回のは何だか俺が悪い気がするな。
しかも、来店してきた客の声は明らかに聞き覚えのあるものであった。それにリーダーという呼ばれ方といい……そいつはどう考えても他人ではないと脳が訴えてくる。
「しくったな、討伐ギルドの本部があるって聞いた時点で、もっと早く予想するべきだった……」
俺の予想通りならば、そいつは俺の知人でしかもかつての仲間、魔人の一人に違いない。まさか、こんな場所で再開しようとは。




