二章 23.三人目の魔人は無視
黒岩亭にやかましく来店してきた人物の名はガンマ。
上裸で筋骨隆々の褐色肌を剥き出しにした、短髪赤毛のいかにも柄の悪そうな男。額には、鬼のような二本角が禍々しく突き出している。
彼こそがかつての俺の仲間であり、この世界に四人来ているという魔人が一人、溶岩の魔人だ。
「くはははははっ!やっぱこの店の塩は最高だな!」
「リーダー、他のお客さんもいるんですからボリューム落として下さいよ……!」
「おおっと悪い悪い!楽しくてつい浮かれちまったぜ!」
「ダメだ……全然静かになってない……」
付き添いの人がガンマの声量を落とそうと必死に奮闘しているが、全く上手くいっていない。
ガンマは昔から酒に酔うと非常にめんどくさい性格になるからな。再会出来たのは嬉しいけど、面倒事に絡まれるのはごめんだ。ここはバレないように退散しよう。
「おい、面倒な客が来たみたいだしとっとと出ようぜ」
「あ、ああ、そうだな。だがあの人物、どこかで見たことがあるような……」
「ほら、早く行くぞ」
ガゼルがガンマに対し何か引っかかりを感じていた様だが、これ以上ここに居てあいつにバレるのはごめんだ。思い出すなら店を出てからにしてもらおう。
今はいち早くここから逃げるのが先決だ。
「お会計は二〇〇五二ポットになりまーす!」
「はい、それじゃご馳走様でした」
「ありがとうございましたー!」
会計でもたついてバレるのを避ける為、支払いは全て俺が済ませた。
あの面倒な状態のガンマに見つかるくらいなら、料理を奢った方が圧倒的にマシなんでね。
「いいのかアカリ?払ってもらって」
「えぇ、さすがに悪いですし私も出しますよ……?」
「うん、そうだよ」
「いいっていいって、今日は訓練終わりのお祝いなんだから、たまには隊長っぽいことさせろよな」
本当の理由は違うのだが、今はそういうことにしておく。それに元々訓練が終わったら何かしらの形で労うつもりではあったからな。ちょうどいいタイミングだ。
「ちっ、奢りならもっと高いものをたのめばよかったか」
「はっはっは!そうなると思って最後に言ったのさ。残念だったなガゼル!」
「はは……ありがとうね兄貴」
「ご馳走様でした」
ガゼルは悔しそうな顔をしている。残念だったな、借金生活のお前はこういう店には滅多に来れないんだろう。
「それで皆はこの後どうするんだ?俺はもう少し街をぶらつく予定だけど」
「クウ〜(食べ足りないよ〜)」
クウがまだお腹を空かせてるようなので、俺はもう少し別の飲食店を回ってみる予定だ。皆はどうする予定なのだろうか。
「僕は剣舞会が控えてるから、今日はもう休むよ」
「私も少し酔ってしまいましたので、先に休ませてもらいます」
「俺は一応これから実家に顔を出してくるつもりだ」
「おっけー、なら今日は一旦ここで解散だな。じゃあ皆また明日!」
各々この後の行動は決まっているらしいので、今日のところはここで解散となった。
皆と別れた俺は、更なる美食を求めて街を練り歩く。
「どうだクウ、気になる店はあるか?」
「クウ〜(うーん、どこもいい匂いがするから難しいよ〜)」
「ははっ、確かにな。よしっ、じゃあ次はあの店に入ってみるか!」
「クアッ!(うん!)」
クウは悩んでいてなかなか決めるのが難しそうだったので、店の方は俺が選択した。さっきは和食がメインだったので、今度はチーズとかがふんだんに使われたイタリアンっぽい店に入る。
「いらっしゃいませ、一名様ですか?」
「はい、お願いします」
この店の店員は礼儀正しく綺麗な声音で応対してくれる。黒岩亭の明るい雰囲気とはまた違った良さがあり、店毎の個性が伺える。
そうして店員に案内されるまま店の奥へ進んで行くと――
「あれ、アカリくんじゃない?こんな所で会うなんて奇遇ね〜」
「セルシー先輩、それにマリナ……!」
まさかのマリナとセルシー先輩組に鉢合わせた。彼女達とこうして面と向かって話すのは、恐らく前回の任務以来だろう。もう二ヶ月以上も前になるのか。
「ふーん、あなたもこういう店に来るのね……」
「たまにはいいかと思ってな」
「ねぇねぇ、せっかくだから一緒に食べない?この前の任務のお礼も結局まだ出来てないんだしさ」
「まぁ、二人がいいなら是非……」
正直めんどくさいから断りたかったが、先輩の誘いを無下にすることなど出来ない。ここは頼むぞマリナ!俺の意図を汲んで断ってくれ!
「私は構わないわ。アカリの近況も聞いてみたいし。ほら座りなさいよ」
「そ、そう……ならお言葉に甘えて同席させていただきます……」
ダメだった。マリナに俺の気持ちは理解してもらえなかった。
仕方ない、こうなったらこっそりクウに腹一杯食べてもらうことにしよう。どうやらここは二人の奢りみたいだし。
「そういえば聞いたわよアカリくん、最近あなたの部隊、魔物を狩りまくってるんだって?」
「ぶっ!えっ、な、何故それを……!?」
いきなり振られた驚きの話題に、俺は飲んでいた酒を噴き出しそうになった。いつの間に俺達の狩のことがバレていたのか。てかどこでその情報仕入れたんだよ。
「この前シーラ先生が愚痴ってたから。なんでもアカリくんが毎日魔石を換金しろとせがんでくるからうんざりしてるって」
「あ、あの野郎、何勝手に話してんだよ……!」
どうやら情報の出処はシーラらしい。確かに毎日頼んでたのは申し訳ないと思うが、それを生徒にバラすなよ!
もしこのことがセリーダ先生の耳に入ったら、おそらくとんでもない地獄が待ち受けているに違いない。
「お願いします、そのことは誰にも言わないで下さい」
「えー、どうしよっかな〜」
どうにかこの二人までで、情報の漏洩は食い止めなければならない。もう背に腹は変えられないか。
「ぐっ……わ、分かりました。なら、何でも言うこと聞きますから……」
「ほほう、何でも?」
「……はい、俺の出来る範囲でですけど」
「なるほど〜そこまで言うなら仕方ないわね。このことは黙っておいてあげるわ。全く、こんな優しい先輩をもって、しあわせな後輩ね〜」
どこが優しい先輩だ。後輩を脅して楽しむとか、一体どこの悪党だよ。
くそっ、シーラには借りを作りセリーダ先生には脅え、その上先輩には弱みを握られるとか、最近の俺運が悪過ぎるだろ。
これってもしかして、ネネティアの影響出てるんじゃないだろうか。
「何一人でブツブツどこ考え込んでるの。料理冷めるわよ」
「あ、ああ、ショックのあまり考え込んじまってた。悪い悪い……」
一人思考の沼にハマっていた所をマリナの一言で引っ張り出される。
「酷いわねー、別にそこまで無茶なお願いをするつもりはないって」
「へぇー、ちなみに何を頼もうと思ってるんですか?」
「別に大したことじゃないわ。前からクウちゃんのことがが気になってたから、数日私に預けて欲しいだけよ」
「却下、それよりも何で魔物を狩ってたのか理由を教えてくれる?」
セルシー先輩が要求をするも、それはマリナに即却下されてしまった。正直クウを誰かに預けるなどごめんなので、ここは彼女のアシストに乗っからせてもらおう。
「ちょ、マリナ!横取りは酷いんじゃない?」
「悪いけど魔物を倒すことは世界を救うことに繋がるの。そのヒントになることをアカリが何が掴んでるのなら、聞く機会を逃したくないのよ。それに私だってアカリが魔物狩りをしてたのは知ってるんだし、条件は同じはずよ?」
「ぐぬぬ……あーもう!仕方ないわね、ここはあなたに譲ってあげるわ……」
権利を横取りしようとするマリナにセルシー先輩は憤慨するも、結局最後には折れてくれた。ナイスマリナ!お陰でクウは守られたぞ!
「その代わりこの席は私が持つわよ」
「それはダメ。私だってアカリくんにお礼したいんだから」
「分かった、なら今度何か奢るからそれで勘弁してちょうだい」
「うん、それならいいわ!」
何やら二人の間で折り合いをつけてくれたみたいだが、申し訳ないけどマリナの期待には応えられない。
残念ながら俺達が魔物狩りをしていたのは単純に強くなる為であり、魔物の秘密を究明す為ではないのだから。
「マリナの望む話にはならないだろうけど、俺達がここ数ヶ月やってたことは全部話すよ」
正直聞いてもあまり意味は無いだろうが、話さない訳にはいかないので、俺はここ数ヶ月何をしていたのかを二人に語った。
あの訓練の日々の全容を。




