二章 21.剣舞会の開かれる街「アルテラ」
近視区域での訓練を初めてから、早一ヶ月半が経過した。
あれから俺はトイブラスター代をきっちり払い終え、ガゼルも借金は残り半分まで稼いでいる。
セロルは魔力節約術が最早達人の域に達しており、最近は斬る瞬間のみほんの少ししか刃を出さなくなっていた。
ネネティアもやはり不運体質は健在であったが、それにいちいち動揺することは無くなり、冷静沈着に魔道兵器を放つように成長を遂げている。
「そっち行ったぞセロル!」
「うん、分かった!」
「ガゼルくん、背中は任せますね」
「任せておけ、吠えろ……紅業火!」
禁止区域の魔物の生態については、ここ一ヶ月でほとんど把握し終え、淡々と作業のように魔物を魔石へと化していく。三人も職人のように冷静に対処するようになっていた。
ガゼルだけは相変わらず厨二感が抜けずにいるが。
「さてと、明日から忙しくなることだし、今日はこのくらいにしとくか」
「そうだな……いよいよこの時期が来たか」
「セロルさん、頑張って下さいね!」
「任せて、皆に手伝ってもらった成果を発揮してくるよ!」
そう、明日からはいよいよ待ちに待った、剣舞会へ向けた準備期間が始まるのだ。会場はここから少し離れた遠くの街にある為、その移動を考えると訓練出来るのは今日が最後である。
この日まで魔物を狩ってることがセリーダ先生に知られなくて、本当に一安心だ。
「セロル、今のお前の力なら大抵の勇者一族には負けやしねぇよ。ドンと決めて家族を見返してこい!」
「うん、本当にありがとう兄貴!」
最初に出会った時、セロルはただのいじめられっ子であった。だが今の彼はもう違う。いくつもの試練を乗り越えたくましく成長した、立派な勇者の一人である。
セロルの頼もしい後ろ姿を見ると、嬉しくてつい涙が流れそうになる。これがこの成長を見守る親の気持ちなのだろうか。
「ちょ、兄貴!どうしたの!?」
「いや、強く成長したセロルが誇らしくて……」
「な、何言ってるんだよもう」
目に涙を浮かべていると、セロルに心配されてしまった。確かにまだ泣くのは早かったよな。どうせ泣くならセロルが剣舞会で優勝してからにしなきゃ。
「しかし、剣舞会があるからとはいえ、学園も休みになるとは中々粋な計らいをするものだ」
「今年は勇者一族が多い年でしたからね。本当に各クラスに一人以上いるとは思いませんでしたよ……」
本来なら剣舞会のある時期でも、学園は通常通り講義や実技訓練を行うはずである。
だが、今年の入学生はやたら勇者一族が多かったらしく、講義の進み具合に差が出るのを懸念し一般生徒も休みになったのだ。
「おかげで俺達もセロルの応援に行けるんだから、感謝しないとな」
「ですね」
「皆ありがとう、僕今年こそは一回戦で敗退しないように頑張るから!」
「何言ってんだよ、今のセロルの実力なら優勝だって狙えるさ。目標はもっと高く持とうぜ」
「えぇ!?ゆ、優勝は無理だよ……」
優勝するにはあのマリナに勝たなければならない。それは少々荷が重いかもしれないが、それでも勝てる確率が全くのゼロという訳では無いはずだ。
きっとセロルなら、素晴らしい結果を残してくれるだろう。
「それじゃあ明日は少し忙しくなるんだし、今日はもう帰るぞー」
「ああ」
「分かりました」
「うん!」
こうして俺達の数ヶ月に渡る訓練は、何の問題も無く幕を閉じた。
――
翌日、いよいよ剣舞会の会場へ向かう為、生徒達は全員移動用マジカロイドに乗り込んでいた。
今回使うマジカロイドは大人数で移動する用の大型で、ヘビをベースとしたものだった。
『ニョロリンリン!』
「うわ、相変わらず変な鳴き声だな……」
ヘビみたいな見た目をしたマジカロイドの名は「ボアポート」で、黒光りする装甲が高級感を漂わせている。
裏にはベェランドのものよりも小さいキャタピラーが無数に付いてるらしく、胴体をくねらせることで細い道も難なく通れるらしい。
つまるところ、線路を必要としない電車ということだ。
「おいアカリ、何してるんだ?早く乗るぞ」
「おう、悪い悪い」
ボアポートの不気味な鳴き声に困惑していると、ガゼルに声を掛けられたので慌てて乗り込む。
中は大型バスの様で二人がけの座席が二列に並んでおり、新幹線を彷彿とさせる。
ただ道によっては体をくねらせて進むらしいから、絶対酔うぞこの前マジカロイド。
「くそっ、どうせなら飛行機とか空を移動する奴を用意しろよ」
「馬鹿を言うな。プテラインなど高過ぎて用意出来る訳ないだろうが。ボアポートを用意してもらってるだけ有難く思え」
「え、プテライン?何それ?」
空を飛べればいいのにと愚痴を呟いたら、ガゼルが何やら別のマジカロイドの名前を出てきた。
プテラインってなんなんだよ。
「お前知らないのか?プテラインは飛行機能を兼ね備えた最高級の移動用マジカロイドだろうが」
「へぇー、飛行機能か……飛行機みたいなもんなのかな?でも最高級ってことは、一般にはあまり普及してないのかよ」
「乗れるのは各区域を納めているお偉い様くらいのものだ。諦めろ」
この世界では現在、国という概念は無くなっているが、区域毎の統率は存在し未だに過去の名残がある。
まだ全部は覚えきれていないが、区域はそこまで多くはない筈だ。なのにそこの偉い奴らしか使えないとか、プテラインはどれだけ高級な乗り物なのだろうか。
日本のように、一般人も気軽に手を出せる乗り物では無いんだな。
「剣舞会の会場はどれくらいで着くんだ?」
「そうだな……順調に行けば今日の夜には着くらしいぞ」
「ふーん、こいつが速いのかそれとも距離が短いのか、どっちなんだろうな」
「さぁな、俺は酔いたくないからもう寝る。起こすなよ」
「あーい」
夜までひたすら乗り続けるため、ガゼルは到着まで寝るらしい。ちょっかいをかけたいが、ふざけてるとこっちまで酔う羽目になりそうなので、ここは大人しく景色でも眺めておこう。
「クウー!(すごーい!外が流れてるー!)」
「おお、この前乗ったベェランドよりは速いみたいだな」
クウは外の景色が瞬時に変わっていくのが面白いのか、楽しそうに笑っている。
俺もクウを真似て外の景色をボーッと眺めつつ、ただ到着するのをひたすら待つことにした。
――
太陽が沈み辺りが真っ暗な闇に包まれた頃、俺達はようやく目的の地へ到着した。今俺達が居るのはボウルサム区で最も栄えている街「アルテラ」で、この街こそが今年の剣舞会の会場となる。
剣舞会は例年、クリサンセマム区とボウルサム区どちらか交互に開催される予定で、今年はボウルサム区の番という訳だ。
「さすが会場となる街だな。滅茶苦茶栄えてる……」
「クウー(なんかキラキラしてるね)」
アルテラはボウルサム区一栄えている街なだけはあり、夜だというのにそこかしこで魔石の明かりが照らされ、煌びやかな夜景を纏っていた。
見た感じでは、昔ドラマとかでよく見た都心の夜景とそっくりである。まぁ田舎出身だから夜景を生で見るのは今日が初めてなんだが。
「ここは俺の故郷で、実家も近くにあるんだ」
「ほぅ、ガゼルはこの街出身なのか。てっきり帝都出身なのかと思ってたよ」
「テイト?何処だそこは」
「え?あー……いや、ただの田舎の地名だよ。気にすんな」
今のは失言だ。ガゼルはエインシェイト家の人間だから、てっきり昔の帝家が暮らしていた城に今も住んでるのかと思い込んでいた。
だが、そう言えば昔没落したとかそんな話をちらっと聞きた気もするし、知らぬ間に引っ越していたようだ。しかも帝都自体はもう存在していないのだから、発言には気をつけなければ。うっかり俺が魔王だとバレかねないからな。
「没落したとはいえ一応俺は帝家末裔だ。田舎者では無い」
ガゼルを少し怒らせてしまった。誤魔化す為に田舎とか下手なこと言ったのが不味かったかな。
「悪い悪い、ただの冗談なんだから真に受けるなよ。それよりせっかく来たんだから、今日くらいはパーッと派手に遊ぼうぜ!」
「……ふん、仕方ないな。なら俺がこの街を案内してやろう」
「いいねー、ネネティアとセロルも誘って行こうぜ!」
上手くガゼルの気を紛らわせることに成功した。
さて、最近は訓練続きで休む暇もなかったことだし、今日はガゼル案内の元この街を満喫させてもらおうではないか。




