二章 16.適応する隊員達
訓練二日目。昨日の恐怖がまだ抜けきっていないのか、この日は三人の動きがぎこちなかった。
だがそれでも反撃しようという動きは見せてくるので、少しは進歩もあるようだ。
「くらえ!」
「よっと、惜しかったなガゼル」
ガゼルは俺目掛け炎を放ってくるが、ただの属性変化を避けることなど造作もない。だが、昨日は一発も魔法を放てていなかったのだから、攻撃出来ただけでも成長したと言うべきか。
「おらっ」
「ぐはっ……!」
「そらっ」
「ぐあぁっ!」
「せいっ」
「ごふっ……!」
三人がダウンするまでひたすらに模擬戦を続け、二日目も終了だ。
この日は俺の攻撃をもろに受けることも減ってきていたので、三発まで耐え抜いていた。この調子でいけば、少しずつ耐える時間が延びていくだろう。
七日目。一週間が経過すると、三人もさすがに速攻でやられる頻度は少なくなってきた。俺の動きが頭に入ってきたのだろう。
速い相手に順応することは大切なので、なかなかいい傾向だ。
「くっ、はっ……せい!」
「いい剣筋だ。セロル、魔剣出すタイミング上手くなったな」
「まだまだ……これからだよ!」
セロルも、ここ数日は斬る直前しか魔剣を出さなくなった為、その分余った力を移動や回避に回す余裕も出てきている。
これならもうあのいじめっ子共なんて敵じゃないな。着実に強くなってきていて一安心だ。
「セロル飛べ!」
「うん!」
「もらったぞアカリ、燃え尽きろ!」
セロルとの戦闘に気を取られていると、その後ろからガゼルが灼熱の炎を放ってきた。セロルも鮮やかに上空へ跳んで避難し、連携も様になっている。
だが、声に出してたら俺にもバレバレだ。そんなもの避けろと言っている様なものだぞ。
「甘いなガゼル、もっと上手く隠せよ」
「ふっ、それはどうかな」
「あ?どういう意味――どわあっ!」
ガゼルの言葉の意味を考えようとした瞬間、前方から魔弾が飛来してきた。胸辺りを狙ってくる魔弾を俺は咄嗟に腕でガードするも、セロルと一緒に上空に跳んでいたせいで踏ん張りが効かず、もろに食らってしまった。
「やるじゃねぇか……」
ガゼルの魔法は避けられることを前提としたものだったって訳か。まんまとはめられたよ。
「当たり前だ。毎度毎度動きが単調なんだよお前は」
「うん、流石に目が慣れてきたよ」
「えぇ、ようやくまともに当てれて嬉しいです」
三者三葉に連携が決まったことを喜んでいた。それ自体は非常にいい傾向なのだが、それでも舐められたままというのも教える側としてはよくない。
単調な動きがご不満なら、そろそろ駆け引きや技を混じえて相手してやるか。
「よし、そこまで言うならもう一段上のステージに上げてやる。覚悟しろよお前ら……」
「なっ、ま、まだ上があるのか……!?」
「ま、負けないよ兄貴!」
「なんか、嫌な予感がします……」
フェイントを混じえた多彩な戦法に変更した結果、その日はものの一分程で方が着いた。
まぁ、一週間であそこまで成長出来ていたんだし、きっとこの戦法にもすぐに対応出来るようになるだろう。俺は三人を信じてるぞ!
――
そうして特訓を続け、遂に三週間が経過した。今日はガンテツから魔道兵器が完成したとの報告を受けているので、最後に成長度合いの確認をしている最中である。
ここ最近は三人も俺の一段階上の動きに慣れてきたのか、中々避ける頻度が増えていき模擬戦らしくなってきている。
魔力操作の出来るガゼルとセロルが、足に魔力を集中することで俺の動きについてきて、二人が凌いでいる隙をネネティアが狙うというのが基本戦術となっていた。
「はあっ!」
「燃えろ!」
「はははっ!やるようになってきたな!」
セロルは魔力の節約がかなり上達しており、移動の瞬間と魔剣を振るう一瞬のみしか、魔力を使わないようになってる。おかげで長時間俺と渡り合うことが可能となっていた。
ガゼルはやたらめったら魔法を使うことが無くなり、俺がワンアクションする毎に、それに合わせるように反撃を入れてくる。戦い方がかなり上手くなっていた。
「そこです!」
「うおっ!っぶね〜、ネネティア最近頭ばっか狙ってくるから油断出来ねぇな……」
「ちっ、惜しいですね……」
ネネティアには初日に急所を狙えとアドバイスしたのだが、お陰様で最近は頭しか狙われなくなってしまった。
それはいいことなのだろうが、彼女をここまでストイックに変貌させたのが俺なのだと思うと、少し申し訳なくなってくる。まぁここはネネティアの成長を素直に喜ぼう。
だが、口が悪くなっているのだけはどうにかした方がいいな。
「燃えろ!」
「次はガゼルか……おらっ!」
「ふん、その動きはもう読めている!」
ガゼルは最近、魔法を目くらましとしてしか使わなくなってきている。俺に効果がないからそれも仕方ないのだろうが、彼の信念を曲げてしまった様で少し申し訳ないな。
ここ最近は今後魔道兵器を使うことを想定して、訓練時にも魔道兵器をレンタルして来ている。命中精度は日に日に増しており、最近は避けるのもしんどくなってきていた。
「はあぁ!」
「逃がすか!」
「ぐっ……」
セロルが接近し魔剣を振り、ガゼルが魔弾を放ち援護し、ネネティアが遠距離から仕留めにくる。さすがに近接攻撃だけで三人を相手にするのは厳しくなってきたか。ここは素直に三人の成長を喜んでおこう。
こいつらほんとにいいチームになったな。もう俺がいなくても形になってんじゃねぇか?あれ、もしかして俺ってもう用済みなのかも……。
「隙ありです!」
「ごはぁっ!」
三人の成長について考え込んでいたせいで、ネネティアに頭をぶち抜かれてしまった。
これは流石に効くな。ほんとに油断したよ。
「おぉ……おお!やったぞ!遂にアカリを倒した!」
「や、やりましたよ二人とも!」
「凄いよネネティアちゃん!」
頭をぶち抜かれた勢いで地面に倒れ込んだ俺を見て、三人は馬鹿みたいに喜び始めた。
くそっ、油断したとはいえ負けるのはやっぱり悔しいな。
『クウー!(悔しい!アカリ、クウ本気出すよ!)』
「待て待て、落ち着けクウ。お前が本気出したら本当にあいつら死にかねないから、今日は俺の特訓の最終日なんだし、最後ぐらい花を持たせてやろうぜ」
『クウ〜……(む〜、アカリがそう言うなら……)』
「ありがとうなクウ」
負けたことが悔しいのか、クウが本気で戦いだしそうになったのでどうにか止めた。
空間魔法を使われたらあの三人など一溜りも無いからな。隊員を殺したなんて後味が悪いどころの話では無いから勘弁してほしい。
「ほらほら、いつまでも浮かれてんじゃねーよ」
「ふん。アカリよ、負け惜しみは醜いぞ」
「やかましいわ。普通に早く話を進めたいだけだよ」
「兄貴、話って何?」
「まぁ無事俺を一回は倒せるまで三人とも強くなったからな。明日からは魔物狩りに行くっていう話だ」
俺ともまともに張り合えるようになってきたのだから、そろそろあの禁止区域に三人を連れて行っても問題ないだろう。
セロルを更に強くする為にも、ガゼルの借金返済の為に金を稼ぐのにも、あそこは絶好の特訓場だからな。
「アカリくん、一年生だけでの魔物狩りは禁止されてますけど、いいんですか……?」
「あー、そういやそんなルールもあったな。まぁバレなきゃ問題無いだろ」
「えぇ、大丈夫でしょうか……?」
「へーきへーき、人の来ない狩場を知ってるから」
一年の俺達は、まだ担当区域を任されてもおらず、魔物との実戦も行っていない。未だに学園内でマジカロイドと対戦する日々を繰り返していた。
正直そんなちんたらしてたらいつまで経っても強くなれないし、俺達は俺達で好きにやらせてもらおう。
「それにネネティアも魔物に復讐したいなら、実戦を積んでおきたいだろ?」
「それはそうですけど……なんだか嫌な予感がします」
「それ完全にフラグ立ててるじゃねぇか。何か俺も怖くなってきたな……」
「怖気付くなよ隊長。強くなる為には避けては通れないんだろ?」
「その通りだ。まぁ何かあっても俺がどうにかするから、気にしないで行くぞ!」
ネネティアの発言には一抹の不安が過ぎるが、それでも俺達が強くなる為にはやるしかない。
明日からはいよいよ、禁止区域で特訓開始だ。




